カフェ・レストラン76店舗を展開するバル二バービ(大阪市)が、東京・練馬のロードサイドに、ピッツェリア・カフェ・ガーデンテラスが一体となった「トヨタマ ヴィラ」を2017年6月1日にオープンさせた。
バルニバービといえば、朝食の新たな楽しみ方を提案する「グッドモーニングカフェ(関連記事「東京の朝型ライフスタイルは 千駄ヶ谷から変わるのか?」)、スポーツ栄養学に基づいた定食を提供する「アスリート食堂」(関連記事「3年で100店舗!? 「アスリート食堂」はタニタ食堂と何が違う?」)など、現代のライフスタイルの変化に対応したユニークな飲食店を展開していることで有名だ。最近では駅舎直結でカフェ・レストラン・BBQテラスにカプセルホテルを併設した複合施設「ザ・カレンダー」(滋賀県大津市)が記憶に新しい(関連記事「駅舎がカプセルホテル、BBQ場併設のおしゃれ施設に」)。いずれも好調で、創業期(1995年~2001年)の売り上げが16億円前後だったのに対し、2016年度は約84億円まで伸びている。
だが今回オープンしたトヨタマヴィラのロケーションは、最も近い練馬駅からでも徒歩15分という環状7号線(環7)沿いのロードサイド。集客のハードルが高いエリアに、あえて出店した狙いはどこにあるのか。また、どんな施設なのか。オープン直前の内覧会に足を運んだ。
駅から徒歩20分のロードサイドに、突如“リゾート空間”
練馬駅から環7に到達するまでに約15分。環7沿いに歩いて数分で着いた。地図で見ると遠そうに思えるが、大部分は静かな住宅街で、散歩気分で楽しく歩けないことはない距離だ。とはいえ環7沿いは商店も少なく、“閑散としている”という表現がぴったりの雰囲気。通常、こうしたロードサイドにあるのは広い駐車場を完備した大手チェーンの店舗だが、「コジマ×ビックカメラ豊玉店」の隣に見えるゲートは見落としそうなほど小さかった。
入り口にあるビワの大木を見上げながら施設内に入ると、木陰にはオープンエアのテラス席が80席。オブジェ型の噴水の向こうにはソファ席もあって、まるでリゾート地のホテルのような雰囲気だ。リノベーション前は720平米に、築40年以上の老朽化した倉庫や個人住宅、オフィスなど7軒が連なっていたのだという。
入り口を入って右左に、2棟に分かれて飲食店がある。どちらも同じピッツェリア&カフェ「アップマーケット ピッツァ&カフェ」だが、左側はピザ用薪窯の見えるオープンキッチンがあり、ライブ感を味わいながら本格イタリアンが味わえるスペースだという。右側は2階建てで天井が高く開放感があり、グループ客やカフェをゆったり楽しみたい人に向いているとのこと。
ピザ、ラザニア、サラダなどをひと通り味わってみたが、どれも1000円台とカフェ価格なのに、専門店並みのクオリティーで、特に驚いたのがピザだった。「なじみやすいイタリアンをベースに、薪窯で焼き上げるピッツァなどで個性を出している」(バルニバービIR・広報の福地恵理氏)という。
意外だったのが、専用駐車場の小ささ。店内115席、テラス80席に対してクルマ3台・自転車16台分は、従来のロードサイドの飲食店の常識からすると少なすぎるように思うが、どのような狙いでこうした商業施設をつくったのか。
あえて条件の悪い土地に出店する「バッドロケーション戦略」!?
実はバルニバービでは創業時から、注目されていない立地にあえて出店する「バッドロケーション戦略」を積極的に行ってきたという。福地氏によると、同社が掲げる「バッドロケーション」とは言葉通りの“悪い場所”ではなく、水辺や公園など周辺環境に恵まれながらも一般外食の観点では注目されない立地のこと。同社にとって最高の「グッドロケーション」を逆説的にそう定義しているという。
同社が1995年にオープンさせた1号店「アマーク・ド・パラディ」がある南船場ももともとは倉庫街で、とても飲食店がはやるイメージがある場所ではなく、他の外食事業者が注目していなかった。だが1998年、1号店近くの4階建ての物件を丸ごと改装し、2号店「カフェ ガーブ」をオープンさせた。すると今まで周辺になかった大型店の出現により、瞬く間に大阪きっての人気店になり、南船場のランドマークとして脚光を浴びた。その結果、さびれた倉庫街だった南船場エリアにライフスタイルを提案するショップが次々と集まり、街のブランドイメージを大きく変えることができたという。
都内では2011年、隅田川沿いの蔵前にある7階建てのビル一棟をリノベーションし、自社保有の複合商業施設「ミラー」をオープン。当時の蔵前はトレンドスポットとしては無名で、「(翌年開業の)スカイツリー周辺でなければ飲食店は成功しない」と言われていた。しかし歴史ある下町の雰囲気と「ミラー」に入る店のコンテンツの組み合わせの面白さが人気を呼び、蔵前の人気スポットに。その後の “イーストトーキョー”ブームをけん引するエリアとなった 。
たしかに、青山や銀座など既存のトレンドスポットは賃料が高いうえに、高感度の店があるのは当たり前で、オープンしても注目されにくい。しかしそうではないエリアに今までなかった店ができると珍しいので話題になり、人が集まる。しかも競合店は極めて少ないので、成功しやすい。それを見て周辺にファッション感度の高い店が次々にできる。結果的にバッドロケーションだったエリアがグッドロケーションに変貌するというわけだ。駅から徒歩15分もあり、好立地とはいえない豊玉も、同社にとってはグッドロケーションなのだという。
こうした歴史を持つ同社は自社でも候補地を発掘しているが、多くの不動産業者からも(同社が好みそうな)「バッドロケーション情報」が寄せられるという。その数は年間、数百件近くに及び、取捨選択した300件ほどを佐藤裕久社長や役員メンバーがチェックする。豊玉もそうした中から浮上したエリア。佐藤社長自ら、何日も周辺を歩き回って、街の感触を確かめた。「この街にこんな飲食店があったら、自分が行きたくなるか、ここで時間を過ごしたいと思えるか」がポイントだという。
「この場所はもともと緑もたくさんあったので、それを最大限に生かしたリノベーションをした。従来のロードサイドの飲食店のイメージとは全く異なる、食を軸にしたコミュニティー空間を提供することで、この街で生活する人のみならずこの街に来る目的の一つになれたらと思う。また地域の方々に楽しんでいただけるメニューの考案や子供料理体験教室などを行うことで地域密着型店舗も目指している。『駅から少しくらい遠くても行きたい』と思ってもらえるような魅力のある店を目指し、今後も色々な取り組みをしていきたい」(福地氏)。
(文/桑原恵美子)