2017年のKinKi Kidsオーケストラコンサートが引き金に

――のっけから正直なところを言わせていただきますが、吉田さんがオーケストラを組んで、イージーリスニングというジャンルで新作を発表するとは思ってもみませんでした。そもそもどういう経緯で制作することになったのですか。

吉田建さん(以下、吉田): オーケストラという音楽的な様式は、昔からずっと僕の中にあったんですよ。これまでプロデュースしてきたアルバムや楽曲にもオーケストラだけのものがあったりしますし。でも、直接的には2017年のKinKi Kidsのコンサートが引き金になりました。毎年やっているドームでの公演を、この年はフルオーケストラをバックにやる試みをしたんですが、そこで素晴らしさを再認識したというか。自分がやってきたポップスのビートとは違う包容力、そのダイナミズム、大人数で演奏する中で得られる抑揚感、いろんなものを含めて。

――そこに吉田さんがかねてからおっしゃっていた「音楽は好きだけど聴きたいものがないと思っている人が多い」「大人がゆったりした気持ちで聴けるものがない」という思いが重なって…?

吉田 : 大人というか、老若男女、家庭的な音楽がホントに少なくなってきちゃったなと。なんだかんだ言って日本のマーケットではポップスはまだ何十万枚も売れてヒットしているんだけど、情報としては知ってても、メロディーは知らない。もっと言えば歌えない。そんななかで、やっぱり共通項として、世代を超えて楽しめる音楽の様式ってないのかなとずっと思ってたんです。

 それと、音楽の作り方も変わったじゃないですか。昔みたいにスタジオにミュージシャンが集まって生の音で作る現場は少なくなって、今はデスクトップで作っちゃう打ち込みの音楽も多い。日本のミュージシャンってとても優秀なのに、生かせる場がどんどん減っている。もちろん、仕事としては僕もコンピューターの力を借りることはありますが、プライベートな部分でやっていくべき音楽はまた違うんだろうな、それは何かなと、この10年くらい、ずっと模索していました。

『Cheers!』のレコーディング風景
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