「睡眠負債」が大きな社会問題になっている。睡眠負債とは、睡眠不足が蓄積されて心身に悪影響を及ぼすこと。睡眠に関心が高まりつつある中で、寝具にも変化が表れているようだ。今注目を浴びているのは「枕」。ユニークなものが次々と登場しているという。

 「誰でも無難に使える枕から、使う人の悩みや目的に合わせて開発された枕が増えてきている」とは、枕専門情報ポータルサイト「ぴろコレ!」を運営する河元智行氏だ。ぴろコレ!は2001年に誕生したサイトで、河元氏が枕選びに苦労した経験から、客観的な視点から枕を選ぶための情報を発信し、正しい枕の知識の普及を目指している。

 「最近ではいびきや肩こりなどの悩み別、横向き寝やうつぶせ寝などの寝る姿勢別など、ユーザーの目的に合わせて開発された個性的な枕が増えている。また、これまで枕はホームセンターなどで安価なものを購入するのが主流だったが、自分に合った枕をじっくりと選んで購入する人が増え、購入単価も上がっている」(河元氏)。その一番の理由として考えられるのが、睡眠の大切さへの理解が深まったことだと河元氏は話す。

 そんな世間の流れのなかで注目を集めている個性派枕を紹介する。

【今回紹介する個性派枕はこれ】
■横向き寝専用枕「スリープバンテージ」
■長さ160cmもある横向き寝専用「Body Pillow IBIKI」
■頭をすっぽり覆うかまくら型「かぶって寝るまくらIGLOO」
■強力磁石付き「マグーラ ライト」
■腕枕に最適な穴あき枕「WHOLLY PILLOW」


いびきを抑えて快眠を促す「横向き寝」専用

   自分では気づきにくく、横に寝ている人から言われて初めて知ることが多い「いびき」。いびきは眠りの質を低下させ、健康に害を及ぼすことも分かってきている。そんないびきだが、寝姿勢を変えることで軽減できるという。フランスベッドは1994年からいびきに特化した枕の展開を始め、2014年に横向き寝専用の「スリープバンテージ」を発売した。

「スリープバンテージ」(3980円)。長時間使用しても耳に負担がかからないよう、耳があたる部分にくぼみがある。ロングテイル部分を前にすると抱き枕としても使える
「スリープバンテージ」(3980円)。長時間使用しても耳に負担がかからないよう、耳があたる部分にくぼみがある。ロングテイル部分を前にすると抱き枕としても使える

 「自社で開発した寝姿勢測定機の蓄積データを分析したところ、横向き寝姿勢の人が全体の4割、20代の女性では50%以上もいるという事実が判明し、潜在的なニーズに応えるために、横向き寝専用枕を開発した」(インテリア営業企画部・山口裕弘氏)

 特にこだわったのが、体のラインにフィットするJ字形のフォルムだそうだ。頭、首、肩、背中をサポートし、横向き寝であっても自然な寝姿勢を保つことができるという。

 普段横向きに寝ると下側の肩が痛くなって目覚めてしまうこともあるが、枕に適度な厚みを持たせることでそれを解消。実際にスリープバンテージで横向き寝をしてみたが、適度な厚みがあるせいか、肩への負担があまり気にならなかった。また、中綿の硬さがほどよく、必要以上に頭が沈み込むこともない。体勢が少しあおむけになっても、曲線の長い部分(ロングテイル部分)が背中を支えているので寝返り防止にもなった。

スリープバンテージは、写真のブルーのほか、ピンクとグリーンの3色展開。幅55×長さ42×首部の高さ13.5cm
スリープバンテージは、写真のブルーのほか、ピンクとグリーンの3色展開。幅55×長さ42×首部の高さ13.5cm

全長160㎝! いびき改善のために研究されたロング抱き枕

 横向き寝用枕には、抱き枕や横向き寝促進枕の開発・研究を続けてきた枕専門店のロフテーも参入。今回新たにいびき改善に着目した「Body Pillow IBIKI」を太田睡眠科学センターの千葉伸太郎所長と共同開発した。

 「いびきは眠りの質が低下するだけでなく、自身のいびきの音で難聴になる可能性もある。さらに無呼吸症候群につながる場合もあり、その影響は深刻だ。欧米ではいびきの治療として横向き寝が推奨されている」(千葉所長)

 Body Pillow IBIKIの特徴は、身長ほどもある160cmの長さ。足元までしっかり支えることで、横向き寝特有の肩や足にかかる負担を分散することができるという。

 枕の常識を超えた大きさに驚いたが、実際に寝てみると、体全体がサポートされているような感覚で、安心感も得られた。また、腕を通す部分には軟らかいポリエステル綿が使われているため、圧迫感もあまりない。大きいので収納しづらいのが悩ましいが、いびきに悩んでいる人は、試してみる価値がありそうだ。

「Body Pillow IBIKI」(価格未定)。2018年初旬発売予定(仕様が変更になる可能性あり)。左右どちらかを抱き枕の要領で使用する。足元のスナップボタンを留めると、横向き寝を固定できる。頭や足をのせる部分に通気性の高いエアファイバーを使用し、睡眠中のムレも防ぐ。幅68×長さ160cm。
「Body Pillow IBIKI」(価格未定)。2018年初旬発売予定(仕様が変更になる可能性あり)。左右どちらかを抱き枕の要領で使用する。足元のスナップボタンを留めると、横向き寝を固定できる。頭や足をのせる部分に通気性の高いエアファイバーを使用し、睡眠中のムレも防ぐ。幅68×長さ160cm。

頭をすっぽり覆うかまくら型が、不眠を解消する?

 かまくら型のデザインがユニークな「かぶって寝るまくらIGLOO」。オリジナルの健康・美容グッズを展開するプロイデアと睡眠専門医・坪田聡氏が共同開発した、安眠に必要な環境を手軽に作り出せる枕だという。

 「寝室の環境で重要なのは、温度や湿度、明るさ、音。特に快適に入眠するためには、強い光を浴びない、静かな場所で眠る、適度な閉塞感を出す、という3つの要素が大切」(坪田氏)

 そこで開発したのが、かまくら型のドーム構造。外壁部分に吸音スポンジやアルミシートなどを使用した特殊構造で、音と光を効果的に遮断する。

 さっそく仕事の合間に「かぶって寝るまくらIGLOO」で昼寝をしてみた。外の工事の音や窓からもれる光が気にならず、すぐにリラックスモードに。筆者は狭い空間があまり得意ではないが、寝返りを打てる程度の広さがあったので、包まれているような安心感も得られた。また、顔回りがほんのり暖かくなるので、寒い日の夜にも活躍しそうだ。

「かぶって寝るまくらIGLOO」(9800円)。中に自分の枕を入れて使用する。折りたためるので、収納にも困らない。幅72×奥行き55×高さ36cm。
「かぶって寝るまくらIGLOO」(9800円)。中に自分の枕を入れて使用する。折りたためるので、収納にも困らない。幅72×奥行き55×高さ36cm。

強力磁石付き枕で肩こりの悩みに対応

 磁気を利用した医療機器を取り扱うコラントッテとぴろコレ!が、肩こりに悩んでいる人向けに開発した「マグーラ ライト」。

 「コラントッテが蓄積してきたノウハウとぴろコレ!が持つ枕の知識というお互いの強みを生かして開発した」(河元氏)

 ポイントは、コラントッテ独自のN極S極交互配列で配置した計16個の永久磁石が、肩こりの原因になる僧帽筋に当たるように配置されていること。また、中央にくぼみをつけることにより、頭部と肩の安定感を高めている。

 寝てみると、たしかに中央のくぼみに頭がフィットするため、快適なあおむけ姿勢が取れた。僧帽筋のあたりまで枕に乗せることができ、磁石が肩に当たってもカバーされているのでゴロゴロせず、ほどよい刺激になる。通気性の高いメッシュ素材は熱がこもらないので気持ち良く、洗濯可能なので夏場でも清潔に使えそうだ。

「マグーラ ライト」(1万2000円)。アスリートが遠征で持ち運ぶことを考慮し、640gと軽量化したという。メッシュ素材を三次元の立体構造にすることで、枕の柔軟性や高反発性、体圧分散性を高めている。横51×縦40×高さ7cm。医療機器認証番号取得
「マグーラ ライト」(1万2000円)。アスリートが遠征で持ち運ぶことを考慮し、640gと軽量化したという。メッシュ素材を三次元の立体構造にすることで、枕の柔軟性や高反発性、体圧分散性を高めている。横51×縦40×高さ7cm。医療機器認証番号取得

パートナーとの関係も良好に?腕枕にも最適な穴あき枕

 名古屋市で90年にわたって染色加工業を営むマルジューが発売したユニークな多機能枕「WHOLLY PILLOW」。一見普通の長方形の枕だが、中が空洞になった2層構造になっており、空洞部分にスマホや本、メガネケースなど、ベッドまわりで必要な物を収納できる。

 「枕元に携帯を置いて寝ると、寝起きにすぐに探せないことから、物が収納できる枕を思いついた」とは、WHOLLY PILLOWを開発したファブリックプラスの増田和久社長だ。2層構造にしたことにより、さまざまな使い方も生まれたという。

 そのひとつが腕枕。時間がたつと腕がしびれて、せっかくのリラックスタイムが台無しになることもあるが、空洞部分に腕を入れて相手の頭を枕に乗せれば、腕もしびれることなく、腕枕をされるほうも快適な寝心地だ。

 子供(6歳)に腕枕をしてみたところ、中綿がしっかり入っているので頭の重みを感じづらく、そのまま寝ても腕の負担にならなかった。また、柔らかさと硬さのバランスがちょうどよく、頭や首を優しくサポートしてくれる。サイズも大きめでぜいたく感があり、子供がすっかり気に入ってしまった。

「WHOLLY PILLOW」(9800円)。両側から腕を入れればうつぶせ寝用の枕にもなる。専用の枕カバーを外してひも状にして空洞に通せば、防災頭巾としても使用できる。オーガニックコットン100%の枕カバー付き。クラウドファンディングサイト「Makuake」で販売中。縦50×横70×厚さ約18cm
「WHOLLY PILLOW」(9800円)。両側から腕を入れればうつぶせ寝用の枕にもなる。専用の枕カバーを外してひも状にして空洞に通せば、防災頭巾としても使用できる。オーガニックコットン100%の枕カバー付き。クラウドファンディングサイト「Makuake」で販売中。縦50×横70×厚さ約18cm
しっかりとした硬さのある中綿を使用しているため、腕もしびれにくい。また、物がずれないようにつけられた下の層のくぼみが頭もしっかりサポートするのに役立っている
しっかりとした硬さのある中綿を使用しているため、腕もしびれにくい。また、物がずれないようにつけられた下の層のくぼみが頭もしっかりサポートするのに役立っている

 枕も個性を重んじる時代になっているようだ。自分の悩みやシチュエーションに合わせた枕を選んで、良質な睡眠時間を確保しよう。

(文/小口梨乃)

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