大手菓子メーカーがオープンイノベーションに参入――。2016年10月、カルビーが創業の地である広島に新商品開発拠点「カルビー フューチャー ラボ」を開設した。アイデアの初期段階から社外と協働し、新たな視点や技術を取り込んだ商品を生み出すことを目指す。
カルビーといえば、「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」など売り上げ100億円を超えるブランドを複数持つスナック菓子の国内最大手メーカー。さらにここ最近では、もともとあった「フルーツグラノーラ」を「フルグラ」としてブレイクさせ、国内シリアル市場を大きく伸張させた。
そんなカルビーが同ラボを開設したきっかけが、意外にもここ10年間でヒット商品が新たに開発できていないことだという。「創業者はこの地で『かっぱえびせん』を生み出した。だが、かっぱえびせんのような個人の独創的な発想によるものだけでない、新しいものを生み出していく仕組みをここで作りたい」(カルビーの伊藤秀二社長兼COO)。
ラボとは思えない、リラックスできる空間
ラボの場所は広島駅前のビルのワンフロア。中に入った最初の感想は、「これがラボ?」。実験室のような空間と思いきや、木を多用したナチュラルな内装。さまざまな形のテーブルやイスが設置された、おしゃれなオフィスという印象だ。
ただよく見ると、畳敷きのスペースや一人で入る穴ぐらのようなスペース、簡単な調理ができるオープンキッチンなど、オフィスとは思えないところもある。「良い発想が出るときは、風呂に入ってホッとしたときなど、リラックスしているときが多い。畳に座ったり、立ったり、穴ぐらに入ったりなど、個々人がさまざまなスタイルでリラックスできる空間を重視した」(同ラボの山邊昌太郎クリエイティブディレクター)。
社外を徹底的に活用する
ラボの開設にあたって、同社はリクルートで就職関連情報誌の編集長などを務めた山邊昌太郎氏をクリエイティブディレクターに起用。その理由は、「これまでは味や食感など商品の中身にフォーカスしてきたが、キッコーマンの生しょうゆのように容器を変えるだけで消費者の利用スタイルが一変し、大ヒットした商品もある。食品業界の人だとどうしても経験が邪魔をすることが出てくる。業界の常識にとらわれない、柔軟な発想をもつ人材が欲しかった」(カルビーの江原信上級副社長執行役員)。
ラボのメンバー7人のうち、山邊氏を含む4人を異業種から招へいした。そこに、カルビーの研究開発部門のメンバーも参加しており、調査や商品開発を行う。オープンイノベーションの重要な要素である他企業との技術的なやりとりは研究開発部門のメンバーが中心になって対応するという。
同ラボがまず注力するのが、「多くの人と接点を持つこと」。そのために、県や地元の企業、大学(広島工業大学、県立広島大学)などと連携しながら、商品開発に参加する「サポーター」を増やしていく。
同ラボではまず2000人にインタビューすることを目標にしており、すでに150人に話を聞いたそうだ。そこで気づいたのは、「最初は食べたいものなど食に関することを聞いていたが、これだとブレークスルーしないと気付いた。今は24時間の行動や日々の生活で大変なこと、困っていることなどを聞き、それぞれの人が大事にしていることを立体的に捉えるようにしている」(山邊氏)。そこからアイデアの素を拾って商品を企画し、外部のサポーターに試してもらいながらさらにブラッシュアップして商品化する、というのが大まかなプロセスだ。
“創業地オープンイノベーション”の可能性
広島に新商品開発拠点を開設した理由として、「創業の地ということで原点に帰るという精神的な意味もあるが、カルビーを好意的に捉え、応援してくれる人が多いことも大きい」(伊藤社長)という。たしかに社外の企業や個人が商品開発プロセスの一端を担うオープンイノベーションは各企業や個人が報酬ありきで参加するとうまくいかず、報酬以外の動機付けが重要になる。そう考えると、地元愛がモチベーションになる“創業地オープンイノベーション”には新たな可能性があるかもしれない。
目標は3年で新商品を3つ出すこと。伊藤社長は、「いきなり100億円は無理かもしれないが、10億、30億と徐々にハードルを越えていき、最終的にはここから100億円ブランドを作りたい」と意気込みを語った。
ラボではスナック菓子だけでなく、食品事業全般で新たな価値を提供する商品を開発したいという。さらに商品開発をメーンにしながらも、生産および販売に関しても社外と連携を図る考えだ。
(文/山下奉仁=日経トレンディネット)