ここ数年に急増した素泊まりの宿泊施設「ゲストハウス」が、2020年東京五輪・パラリンピックの開催中に急増が見込まれるインバウンド客の受け入れ施設として注目されている。宿泊料金の安さに加えて、共有スペースで国籍も年齢もさまざまなゲスト(宿泊客)同士が交流できるのも魅力の1つだ。そんな“多様な文化や価値感との出会い”を提供する地方のゲストハウスは、今、地域活性化で重要な役割を果たしている。その代表例として、停滞から脱し、再び活気を取り戻して「熱海の奇跡」と言われる熱海市の「guest house MARUYA(ゲストハウス マルヤ)」、長野県の人気の“諏訪地域”で移住希望者の拠点となる「MASUYA GUESTHOUSE(マスヤ ゲストハウス)」の取り組みについてレポートする。

シャッター商店街を復活させた熱海のゲストハウス

 旅館業法上「簡易宿所」に分類される「ゲストハウス」は、素泊まり(朝食付きも含む)で、「ドミトリー」と呼ばれる相部屋形式を主とし、自炊できる台所や休憩場所などの共有空間を有し、トイレや洗面所、シャワー室は共同が多く、食事の片付けや寝具の準備などはゲスト自身で行う。これらの簡易性により、宿泊料金は1泊およそ2500円から4000円台と格安に設定されている。

 2015年には全国に500軒超といわれ、その後も増加を続け、現在、正確な数は把握されていない。

 人気の理由の1つは「旅情報の交換などのゲスト同士の交流」だが、近年は、交流を「ゲストと地域住民」まで拡張することで、地域活性化の一助となるゲストハウスも現れている。

 かつて日本有数の観光地だった静岡県熱海市の温泉街は、「安・近・短」へと変わった旅行スタイルへの対応の遅れなどから衰退し、1960年代半ばに約530万人だった旅館やホテルの年間の宿泊客数が、2011年には約246万人と半分以下に減った。しかし、2015年は308万人と、たった4年で20%以上も急増した。

 この「熱海の奇跡」と呼ばれる地域再生の一翼を担ったのが、老舗商店街「熱海銀座」の復活だ。

「熱海銀座」は、JR熱海駅から徒歩15分の海沿いの中心市街地の入り口に位置する200mほどの老舗商店街
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 2011年、30店舗のうち10店舗が空いていた“シャッター商店街”は、2018年10月現在、空きは2店舗を残すのみとなり、熱海の新名物として若者に人気の「熱海プリン」の2号店「熱海プリンカフェ 2nd」が2018年7月からオープンして行列店になるなど、賑わいを取り戻した。

 この「熱海銀座」の再生の起点となったのが「ゲストハウス マルヤ」であり、その仕掛け人が、machimori代表取締役、NPO法人atamista代表理事の市来広一郎さんだ。

ゲストハウス マルヤ。写真の右側の開いた扉がゲストハウスの入り口
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machimori代表取締役、NPO法人atamista代表理事の市来広一郎さん
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 1979年に熱海市で生まれた市来さんは、大学卒業後、東京で大手コンサルティング会社に勤務。2007年に同社を退職し、熱海にUターンすると、遊休農地の再生活動「チーム里庭」や、体験交流プログラムを集めた「熱海温泉玉手箱(オンたま)」などの取り組みを始め、熱海の宿泊客数が底を打った2011年、民間のまちづくり会社machimoriを設立した。

 そんな市来さんが「熱海の再生」の起点と考えたのが「熱海銀座」だった。