2017年12月に、文具女子をターゲットにした初の大型イベント「文具女子博」が開催された。来場者数は3日間でおよそ2万5000人。2018年も12月14~16日の3日間、東京流通センターで第2回が開催予定だ。10月に行われたプレイベントでもすでにその熱狂ぶりがうかがえたが(関連記事「限定ピンバッチやレターセット作りに行列 文具女子博予習編」)、そもそも「文具女子博」を主催するのは、書籍や雑誌の取次を行う日本出版販売(以下、日販)。日販が文具女子向けのイベントを開催するに至った経緯と、イベントでの人気商品を聞いた。

日本出版販売 検定事業課の浦田瑠衣さん(写真左)、同じく、商品開発部仕入課の池岡真裕子さん(同右)。2人は文具女子博の事務局を兼任している。浦田さんは入社2年目の新入社員だ
日本出版販売 検定事業課の浦田瑠衣さん(写真左)、同じく、商品開発部仕入課の池岡真裕子さん(同右)。2人は文具女子博の事務局を兼任している。浦田さんは入社2年目の新入社員だ

検定から派生した「パンのフェス」が人気に

 日販といえば、本のイメージが強い。書籍や教科書、雑誌などの取次を主力事業とする企業だが、成長領域として近年力を入れているのがイベント事業だという。

 例えば、2016年にスタートし、現在は開催回数を年2回に拡大した「パンのフェス」も日販が主催だ(ぴあ共催)。全国から60以上のパン店が出店し、会場限定のパンも販売されるとあって、毎回10万人以上が集まる。来場者数は年々増加しており、2017年秋が12万人、2018年春は約13万人。かなり混雑するので、パンの販売エリアに優先的に入ることができる優先入場券が発売されるほどだ。

 パンのフェスは、もともとは日販が運営する「パンシェルジュ検定」から派生したイベントだという。同社には検定事業課という部署があり、ねこ検定、きのこ検定、日本城郭検定など、さまざまな検定を取り扱っている。

 「検定を通じてお客様とつながることができたので、イベントの話が持ち上がったのだと思います。出版不況のなか、新しい事業に挑戦していこうという流れは以前からありました」と商品開発部の池岡真裕子さんは言う。

「女子文具」ではなく「文具女子」なワケ

 イベント事業に力を入れるなかで、2017年に新たに着手したのが文具だった。「手帳やノートの写真をSNSにアップするなど、アナログ好きの女性が増えていることに注目しました」と、検定事業課の浦田瑠衣さん。日販は書店での文具や雑貨の展開をプロデュースする「Sta×2(スタスタ)」というパッケージを2012年から展開するなど、文具に携わってきた(文具女子博は文具卸会社のMDSと共催)。しかしなぜ、「女子文具」ではなく「文具女子」なのだろうか。

 「文具というと男性のイメージが強かったと思います。でも、同じ文具好きでも『かわいい文具が好き』『見つけるとつい買ってしまう』という女性層も増えていて無視できない。そんな女性たちに、みんなで集まろう!と呼びかけたのが文具女子博なんです」(池岡さん)。女性向けの文具ではなく、文具が好きな女性をターゲットにしたことで、取り扱う商品やワークショップの企画など、さまざまな要素が自然と固まっていったという。

2017年に開催された「文具女子アワード」で大賞を受賞したコクヨのマスキングテープカッター「カルカット」。女性向けのかわいらしいフォルムに機能性を兼ね備え、ダントツの1位を獲得した
2017年に開催された「文具女子アワード」で大賞を受賞したコクヨのマスキングテープカッター「カルカット」。女性向けのかわいらしいフォルムに機能性を兼ね備え、ダントツの1位を獲得した
「OZ magazine」編集部とのコラボによる「文具女子博認定ガイドBOOK かわいい文具と紙のモノ」。どんな商品が買えるのか事前にチェックすることができる
「OZ magazine」編集部とのコラボによる「文具女子博認定ガイドBOOK かわいい文具と紙のモノ」。どんな商品が買えるのか事前にチェックすることができる

 興味深いのは、「かわいい」が絶対的なキーワードであるにもかかわらず、文具女子博にはキャラクターものの商品が極めて少ないことだ。事務局がメインターゲットに定めているのは、主に20~40代の大人の女性。そのため10代向けのファンシー系のデザインは意識的に外しているという。

 「文具女子というテーマを崩さないよう気をつけながらも、女子だからピンク、などと偏ることなく、幅広い商品を選定するようにしています」(池岡さん)。事務局のメンバーがまさにターゲット層でもあるため、メンバー間で話題になったもの、直感的に欲しいと思ったものは積極的に採用している。

文具女子は「定番」モチーフに萌える

 自分たちの感覚を大切にしながらも、実際にイベントが開催されるまでは「正直、蓋を開けてみて誰も来なかったらどうしよう、と思っていた」と池岡さんは振り返る。結果的に、2017年の本イベントと今年10月に開催されたプレイベントは大盛況。現場の様子やSNSでの反応を通じて、文具女子の嗜好やトレンドが見えてきた。

 その一つが、“レトロ”ブームだ。昭和レトロな色合いや、昔からあるロングセラー商品のデザインが文具女子の心をつかんでいる。

 「2017年の文具女子博で『サクラクレパス』のコラボ腕時計を販売しているブースがあったのですが、SNSで事前に告知したらすごい反響で。当日も売れていましたね」(浦田さん)

時計小売専門店のタイムステーションNEOとサクラクレパスがコラボした「クレパス 柄トケイ」
時計小売専門店のタイムステーションNEOとサクラクレパスがコラボした「クレパス 柄トケイ」
写真をSNSにアップしたところ「かわいい!」と評判に。イベント当日も買い求める女性が多かった
写真をSNSにアップしたところ「かわいい!」と評判に。イベント当日も買い求める女性が多かった

 文具女子博公式のオリジナルグッズも、誰もが知る定番文具とコラボしたものだ。ゼブラのボールペン、ヤマトの「アラビックヤマト」など、定番商品のデザインはそのままに、一部に文具女子博のロゴを入れるなどしたところ人気が殺到。数量調整をする暇もなく完売したという。

ゼブラとコラボした文具女子博のオリジナルボールペンは完売した
ゼブラとコラボした文具女子博のオリジナルボールペンは完売した
文具女子博のロゴが入ったヤマトのアラビックヤマト(ミニサイズ)。オリジナル商品のなかで最も早く完売した
文具女子博のロゴが入ったヤマトのアラビックヤマト(ミニサイズ)。オリジナル商品のなかで最も早く完売した

 そうした反響を受けて、今年は定番文具のピンバッチを販売する予定だ。プレイベントではそのうちの5種類がピンバッチガチャとして販売され、期間中に予定数量がすべてなくなった。

 車でも、家電でも、ひと昔前のモデルには愛嬌を感じることがあるが、それは文具においても同じらしい。文具女子にとってのレトロ感は、懐かしさを感じる定番モチーフが大きな要素になっている。

客層はお一人様が4割

 会場限定のオリジナル商品があるとはいえ、文具女子博全体で見ればそうした商品はあくまでも一部。文具店や量販店に行けば手に入る既存の商品も多い。そんななか、あえて文具女子博で買い物をするメリットはその買い方にあるのだという。

 「メーカーの方に直接話をうかがい、実物を見て、使い方を聞いたりしながら文具を買うことができる。ほかではなかなかできない買い方だと思います」(池岡さん)。

 貴重な体験をできるのは客だけではない。出店するメーカー側にとっては、顧客の生の声を聞き、直接コミュニケーションが取れるまたとない機会だ。そのため各社ともブースづくりに力が入っており、早い段階から事務局に相談がくるという。

 来場者の購買意欲は高いので、出店者が趣向を凝らしたぶんだけ反応も期待できる。なにしろ入場料を払って文具を買いに来ているのだ。その証拠に、というべきか、およそ4割の客が一人で来場している“お一人様”。客単価も高く、最高額は8万円を超えるという。

 「会場ではA3サイズより大きめの買い回り袋を用意していましたが、袋をぱんぱんに膨らませて買い物している方が多かったですね」(浦田さん)。文具にかける女性たちの熱量はかなり高い。

2018年は台湾ブースが初出店

 2回目の開催となる2018年は、2017年に比べて筆記具系の出店が多いという。「最近は万年筆も女性に人気があります。安価なものが増えてきましたし、インクを自分好みの色合いに調整できるなど、インク選びの楽しさが女性にうけているようです」(池岡さん)。

 さらに、台湾ブースが出店する予定。海外のブースが用意されるのは今回が初めてだ。「台湾では日本の文具が人気で、文具女子博のSNSアカウントのフォロワーにも台湾の方がたくさんいます。事務局のメンバーも台湾の商品が大好きなので、念願がかないました」(浦田さん)。

浦田さんのノートには台湾みやげのシールが貼られていた
浦田さんのノートには台湾みやげのシールが貼られていた

 今年は会場の広さが昨年の倍ほどになるため、休憩スペースも用意されるとのこと。来場者の9割は女性だが、裏を返せば1割は男性客。文具女子的「レトロ」を体感しに、足を運んでみてはいかがだろう。

(文/大吉紗央里)

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