いまや専門店までできるほど、ブームが止まらないレモンサワー。2017年に都内で初開催された「レモンサワーフェスティバル」は、18年には全国8カ所まで拡大し、どこも大盛況だった。家庭でも手軽にレモンサワーが楽しめる割り材も人気を集めている(関連記事 「レモンサワー割り材対決! 一番美味いのはどれだ」)。
だが、RTD(Ready to Drink、栓を開けてすぐ飲めるアルコール飲料)はレモンチューハイばかりで、レモンサワーはあまり定着していないようにみえる。
「進化系レモンサワー」がブームのきっかけ
1984年に日本で初めて缶入りのチューハイ「タカラcanチューハイ」を発売した宝ホールディングスによると、実はレモンチューハイとレモンサワーは同義語であるという。
チューハイは、戦後に東京の下町で評判になった焼酎の炭酸割り「焼酎ハイボール」の省略形(「酎ハイ」)。1980年ごろに焼酎ブームとともに居酒屋のチェーン店化が進み、居酒屋の定番メニューとして一般化した。一方、レモンサワーの誕生には諸説あるものの、1960年代なかばだと言われている。東京のモツ焼き店が「庶民のお酒」として親しまれていた焼酎を炭酸水で割り、レモンを搾って入れる飲み方を考案したのが始まり。その後も東京を中心にレモンサワーという呼称で親しまれていたという。
つまり、一般的には缶入りのレモンチューハイとレモンサワーは同じ分類なのだ。
そんななか、数年前に登場した飲食店の「進化系レモンサワー」が、レモンサワーブームに火をつけた。「氷の代わりに凍結レモンを使ったものや、レモンを丸ごとすりおろしたもの、焼酎にレモンを漬け込んだものなど、従来のレモンサワーよりも爽やかですっきりとした味わいが注目されている」と同社広報は話す。
「飲食店にとって、レモンサワーは店の個性を出しやすく、集客力のあるドリンク。インスタ映えするものも多いので、若い女性を中心に人気となった」(同社広報)
レモンサワーは「焼酎が重要」
市場の急拡大に伴い、ベースアルコールも焼酎からウォッカやジンを使用したものなど、多種多様な缶入りチューハイが登場しているが、同社は、宮崎県に保有している約85種類の「樽貯蔵熟成酒」 をブレンドし、ソフトアルコール飲料を開発している。18年3月に発売した「寶 極上レモンサワー」は原点である「焼酎をベースにしたレモンサワー」として担当者が繁盛店のレモンサワーを飲み比べ、開発したシリーズだ。
「東京から全国に拡大しているレモンサワーブームは、今後も若年層を中心にさらに拡大し、定着していくだろう。今後も焼酎メーカーの強みを生かした商品開発とブランド育成を行っていきたい」(宝ホールディングス広報)。
レモンの「すっきりした味わい」に着目
レモンサワーブームのなか、サントリーが18年2月に発売した瓶入りリキュール「こだわり酒場のレモンサワーの素」は発売後半年で年間目標の約10倍の30万ケースを売り上げた。また、17年4月に期間限定で発売したRTDの「明日のレモンサワー」は同年9月から通年商品としての取り扱いを開始。18年7月にはリニューアルも行い、よりすっきりした味わいにしている。
サントリースピリッツ リキュール・スピリッツ・焼酎部の杉山誠二課長は「若い世代が好む味が、甘くて口あたりのいいものから飲食店で飲むレモンサワーのようなすっきりした味わいにシフトしてきている」と話す。同社のレモンフレーバーの缶入りチューハイ(ノンアルコールRTDを含む。缶入りカクテル、缶入りハイボールは除外)の伸び率は対14年比で135%。同社の代表的な缶入りチューハイ「-196℃ストロングゼロ」はブランド合計で前期比108%(18年1〜9月)だが、売り上げを牽(けん)引しているのはレモンフレーバーだという。
コカ・コーラもレモンサワー市場に参戦
18年5月には、コカ・コーラもRTDレモンサワー市場に参入。同社初のアルコール飲料としてレモンサワーのブランド「檸檬堂(れもんどう)」を九州地区限定で発売している。
同商品のブランドマネージャーで日本コカ・コーラ マーケティング&ニュービジネス本部のパトリック・サブストローム氏は「アルコール飲料を開発のためにいくつかの居酒屋に行ったところ、個性的なレモンサワーを出す店が繁盛していることに気づいた。また、レモンサワーに関するイベントが開催されている。缶入りチューハイもレモンフレーバーが最も飲まれていて、レモンフレーバーがRTD市場を牽(けん)引していることなどから、レモンサワーで参入することにした」と説明する。
サントリーの調査によると、これまで飲食店で飲んでいたユーザーの「家飲み率」が増加し、外食店気分が味わえるRTDを求める声があるという。「レモンサワーを家でも飲みたいが、割り材で割るのは面倒」という人にとって、缶入りレモンサワーはうってつけの商品なのかもしれない。
(文/桑原恵美子)