いまや専門店までできるほど、ブームが止まらないレモンサワー。2017年に都内で初開催された「レモンサワーフェスティバル」は、18年には全国8カ所まで拡大し、どこも大盛況だった。家庭でも手軽にレモンサワーが楽しめる割り材も人気を集めている(関連記事 「レモンサワー割り材対決! 一番美味いのはどれだ」)。

 だが、RTD(Ready to Drink、栓を開けてすぐ飲めるアルコール飲料)はレモンチューハイばかりで、レモンサワーはあまり定着していないようにみえる。

「レモンサワーフェスティバル2018」は7店舗が出店し、18年4~10月にかけて全国8都市で開催。写真は2018年8月に横浜で開催されたイベントの様子
「レモンサワーフェスティバル2018」は7店舗が出店し、18年4~10月にかけて全国8都市で開催。写真は2018年8月に横浜で開催されたイベントの様子

「進化系レモンサワー」がブームのきっかけ

 1984年に日本で初めて缶入りのチューハイ「タカラcanチューハイ」を発売した宝ホールディングスによると、実はレモンチューハイとレモンサワーは同義語であるという。

 チューハイは、戦後に東京の下町で評判になった焼酎の炭酸割り「焼酎ハイボール」の省略形(「酎ハイ」)。1980年ごろに焼酎ブームとともに居酒屋のチェーン店化が進み、居酒屋の定番メニューとして一般化した。一方、レモンサワーの誕生には諸説あるものの、1960年代なかばだと言われている。東京のモツ焼き店が「庶民のお酒」として親しまれていた焼酎を炭酸水で割り、レモンを搾って入れる飲み方を考案したのが始まり。その後も東京を中心にレモンサワーという呼称で親しまれていたという。

 つまり、一般的には缶入りのレモンチューハイとレモンサワーは同じ分類なのだ。

 そんななか、数年前に登場した飲食店の「進化系レモンサワー」が、レモンサワーブームに火をつけた。「氷の代わりに凍結レモンを使ったものや、レモンを丸ごとすりおろしたもの、焼酎にレモンを漬け込んだものなど、従来のレモンサワーよりも爽やかですっきりとした味わいが注目されている」と同社広報は話す。

 「飲食店にとって、レモンサワーは店の個性を出しやすく、集客力のあるドリンク。インスタ映えするものも多いので、若い女性を中心に人気となった」(同社広報)

「酒場エビス」(京都市中京区)で人気の「名物レモンサワー」は「進化系レモンサワー」のひとつ。広島県産レモンをグラス1杯につき1個(ジョッキは2個)使い、蜂蜜とレモンを合わせて漬け込んだ甲類焼酎をベースに、強炭酸で割っている(写真:宝ホールディングス)
「酒場エビス」(京都市中京区)で人気の「名物レモンサワー」は「進化系レモンサワー」のひとつ。広島県産レモンをグラス1杯につき1個(ジョッキは2個)使い、蜂蜜とレモンを合わせて漬け込んだ甲類焼酎をベースに、強炭酸で割っている(写真:宝ホールディングス)

レモンサワーは「焼酎が重要」

 市場の急拡大に伴い、ベースアルコールも焼酎からウォッカやジンを使用したものなど、多種多様な缶入りチューハイが登場しているが、同社は、宮崎県に保有している約85種類の「樽貯蔵熟成酒」 をブレンドし、ソフトアルコール飲料を開発している。18年3月に発売した「寶 極上レモンサワー」は原点である「焼酎をベースにしたレモンサワー」として担当者が繁盛店のレモンサワーを飲み比べ、開発したシリーズだ。

 「東京から全国に拡大しているレモンサワーブームは、今後も若年層を中心にさらに拡大し、定着していくだろう。今後も焼酎メーカーの強みを生かした商品開発とブランド育成を行っていきたい」(宝ホールディングス広報)。

「寶 極上レモンサワー<瀬戸内レモン>」(写真左、参考小売価格153円)、「同<丸おろしレモン>」(写真左から2番目、参考小売価格178円)、「同<つけ込み塩レモン>」(写真右から2番目、参考小売価格153円)、「同<熟成つけ込みレモン>」(写真右、参考小売価格178円)
「寶 極上レモンサワー<瀬戸内レモン>」(写真左、参考小売価格153円)、「同<丸おろしレモン>」(写真左から2番目、参考小売価格178円)、「同<つけ込み塩レモン>」(写真右から2番目、参考小売価格153円)、「同<熟成つけ込みレモン>」(写真右、参考小売価格178円)

レモンの「すっきりした味わい」に着目

 レモンサワーブームのなか、サントリーが18年2月に発売した瓶入りリキュール「こだわり酒場のレモンサワーの素」は発売後半年で年間目標の約10倍の30万ケースを売り上げた。また、17年4月に期間限定で発売したRTDの「明日のレモンサワー」は同年9月から通年商品としての取り扱いを開始。18年7月にはリニューアルも行い、よりすっきりした味わいにしている。

「明日のレモンサワー」(希望小売価格141円)はスピリッツ(国内製造)、レモン浸漬酒、焼酎と3種類のアルコールを使用している
「明日のレモンサワー」(希望小売価格141円)はスピリッツ(国内製造)、レモン浸漬酒、焼酎と3種類のアルコールを使用している

 サントリースピリッツ リキュール・スピリッツ・焼酎部の杉山誠二課長は「若い世代が好む味が、甘くて口あたりのいいものから飲食店で飲むレモンサワーのようなすっきりした味わいにシフトしてきている」と話す。同社のレモンフレーバーの缶入りチューハイ(ノンアルコールRTDを含む。缶入りカクテル、缶入りハイボールは除外)の伸び率は対14年比で135%。同社の代表的な缶入りチューハイ「-196℃ストロングゼロ」はブランド合計で前期比108%(18年1〜9月)だが、売り上げを牽(けん)引しているのはレモンフレーバーだという。

 

コカ・コーラもレモンサワー市場に参戦

 18年5月には、コカ・コーラもRTDレモンサワー市場に参入。同社初のアルコール飲料としてレモンサワーのブランド「檸檬堂(れもんどう)」を九州地区限定で発売している。

 同商品のブランドマネージャーで日本コカ・コーラ マーケティング&ニュービジネス本部のパトリック・サブストローム氏は「アルコール飲料を開発のためにいくつかの居酒屋に行ったところ、個性的なレモンサワーを出す店が繁盛していることに気づいた。また、レモンサワーに関するイベントが開催されている。缶入りチューハイもレモンフレーバーが最も飲まれていて、レモンフレーバーがRTD市場を牽(けん)引していることなどから、レモンサワーで参入することにした」と説明する。

「檸檬堂 塩レモン」(写真左)、「檸檬堂 定番レモン」(写真中央)、「檸檬堂 はちみつレモン」(写真右)。希望小売価格は各150円。「缶チューハイは強いお酒を楽しみたい人からお酒の気分を楽しみたいという人まで、幅広いニーズが存在している」(コカ・コーラ)。そのため、アルコール度数の異なる3タイプをラインアップした
「檸檬堂 塩レモン」(写真左)、「檸檬堂 定番レモン」(写真中央)、「檸檬堂 はちみつレモン」(写真右)。希望小売価格は各150円。「缶チューハイは強いお酒を楽しみたい人からお酒の気分を楽しみたいという人まで、幅広いニーズが存在している」(コカ・コーラ)。そのため、アルコール度数の異なる3タイプをラインアップした

 サントリーの調査によると、これまで飲食店で飲んでいたユーザーの「家飲み率」が増加し、外食店気分が味わえるRTDを求める声があるという。「レモンサワーを家でも飲みたいが、割り材で割るのは面倒」という人にとって、缶入りレモンサワーはうってつけの商品なのかもしれない。

(文/桑原恵美子)

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