中高年世代には、ほとんどと言っていいほどなじみの薄いハロウィーンだが、近頃、商業施設でやたら目につくのが「カボチャのお化け」の飾り付け。街もネットも店はハロウィーン商戦の真っただ中だ。そんななか、ニトリは耳に新しい「ハロスマス」というキャッチフレーズで秋冬の販促を展開している。一体どんなインテリア提案なのか?
消費産業はハロウィーンを「稼げるイベント」に成長させたい
年々、日本ではその市場規模の拡大が続き、この20年ほどの間に推計1200億円を超えるマーケットを作り出したとされるハロウィーン。以前の取材記事 「視線を奪う『コスプレ用ヌーブラ』がコミケ前にバカ売れ」で紹介したように、仮装を楽しむ若者のハロウィーンイベントがここ数年、ブームを盛り上げている。
毎年10月31日に行われるハロウィーンは、元々は古代ケルト人の収穫祭が起源とされ、死者(祖先)とともに集い、悪霊をはらう意味合いを持つ宗教行事だった。祭りのとき、精霊や死者といったスピリチュアルな存在を体現するのが子どもであり、彼らは化粧や仮装をして死者を演じる。中に明かりを灯したカボチャのお化け(提灯)は死者のための迎え火、悪霊をはらう魔除けの火として飾られるようになった。
――というのだが、そうした宗教色は現代では薄れ、ハロウィーンは大衆行事として広まり、特に米国では商業化が著しく、大規模な商戦が熱を帯びる。日本の市場も、消費を刺激する秋のイベントとして盛り上がりを期待し、目下ハロウィーン商戦たけなわ、といったところだ。
商戦をはたで見ていると、消費者の気分をなんとしてもアゲよう、財布のヒモを緩めさせたいと意気込む商魂を感じずにはおれない。ハロウィーン当日まで連日開催!とうたう期間限定メニュー、ハロウィーンジャンボ宝くじ、ホラーナイトは絶叫ハロウィーン、ハロウィーンは着物で大集合!など、今だけの特別感を演出する商売のなんと多いことか。関係なさそうな食品までパッケージにひと工夫する。スーパーで買ったおかめ豆腐はカボチャのお化け、金のつぶ納豆もコウモリやウイッチハット(魔女の黒い帽子)の絵入りだ。レジ打ちの中年女性は頭にハロウィーン仮装用のカチューシャを付けて(付けさせられて)いた。
日本のハロウィーン市場は、今は普及期の段階といわれる。専門家の調査によれば、ハロウィーンにちなんだ行動をしたことがある人はまだ全体の2割弱。消費産業はハロウィーンを“稼げるイベント”に成長させたいはずだ。
クリスマスツリーにハロウィーンの装飾をする
さて、ニトリはどうか。ハロウィーン雑貨の需要拡大のため、市場調査や展示会などでキャッチした海外のトレンドを取り入れた。すなわち「ハロウィーンもツリー飾りを楽しむ」という新手のインテリア提案だ。
日本でもクリスマス飾りを楽しむ人は増えたが、ハロウィーンの飾り付けをする人はまだまだ少ない。実際、ニトリがハロウィーン商品を全店で扱うのは今年で4年目。市場を成長過程にあるとみている。そこで、部屋でハロウィーン飾りを始めるきっかけとして、「クリスマスツリーにハロウィーンの装飾をする」というインテリアコーディネートを提案するのだ。
「すでに持っているツリーにハロウィーンの飾りを買い足せば、簡単にハロウィーン飾りができる。クリスマス飾りの期間は1カ月半ほどしかないが、ハロウィーンから飾ることで最大3カ月間、お部屋でワクワク感を楽しめます」(商品部 季節品・シーゾナルチームの担当バイヤー)
同じツリーを使ってクリスマスとハロウィーンの飾り付けを替え、秋から冬までの季節の移り変わりを部屋で楽しもうよ!という提案である。
装飾用ツリーはモミの木に限らず、白樺ツリーや、木製の小さなツリーでもいい。そこに飾り付けるボールをいくつか替えるだけで、「ハロウィーンっぽい」から「クリスマスっぽい」にガラリと印象を変えてしまう。
つまり、ハロウィーンならカボチャとオレンジ色や紫色のボール。一方、クリスマスなら金銀のラメを多用したキラキラ系が鉄板だ。それぞれの「っぽい」イメージが共通認識として私たちの中にすでに定着している。
下の写真は日本でもヒット中という白樺ツリー。ニトリでは3年前から展開するアイテムで、当初はハロウィーンを意識して販売したが、昨年初めて、白樺ツリーでハロウィーン→クリスマスの飾り付けを提案したところSNSで取り上げられ、一気に人気が高まったという。「インスタ映えするのでバズる傾向にありますね」(担当バイヤー)
面白いのは、ニトリが考えたベタな造語「ハロスマス」
ハロウィーンツリーについて、ニトリ商品部の担当バイヤーは「3~4年前から欧米の店舗ディスプレーやネット店で確認しており、特に盛んな米国ではハロウィーン飾りの1ジャンルとして定番化したと考えている」と話す。発祥の背景は不明だそうだが、写真映えするインスタあたりで広まったのではないか。
面白いのは、そうした「クリスマスツリーを使ったハロウィーン飾り」という海外発のトレンドを販促キャンペーンに取り入れ、2018年にニトリが命名した「ハロスマス」という造語(商標登録済み)だ。
ベタな造語である。が、子どもにも分かりやすく語感がかわいい。その心は「Halloween+Christmas」「Hello!+Christmas」とのこと。家族で飾り付けを行うようなファミリー層がメインターゲット。「家の中で季節のイベントを楽しみ、ワクワクする年末のクリスマスを待ち遠しく迎えてほしい」との思いを込めたという。
飾り付けるツリーが同じでも日本人には違和感がない
ハロスマスの魅力は何か。売り手側が考えるのは、売りやすさだ。
「ハロウィーン飾りは市場のニーズとしてまだ定着していませんが、クリスマス装飾をベースにすることで気軽に試しやすい。しかも、ハロウィーンカラーのオレンジは日本の秋の色、紅葉感とマッチし、伝統的に季節の移り変わりを楽しむ日本人の生活に取り入れやすい。最近のSNS普及からインスタ映えを意識し、空間をすてきに演出したいというニーズにも刺さると考えています」(担当バイヤー)
消費者側から見ると、安価に秋冬の間、毎日楽しめるのもポイント。財布を開くとすれば、ニトリ価格への安心感と庶民的ハードルの低さがある。
そもそもクリスマスもハロウィーンも、大多数の日本人にとっては「市場が作り出した商業イベント」なので本質的な意味合いを持ち合わせない。なので、たとえ飾り付けるツリーが同じだろうが違和感がない。クリスマスが終わればお正月。クリスマスリースは門松に替わり、季節は巡る。
(写真/佐藤 久)