自分好みにカスタマイズできるボールペンが登場した。それがコクヨの「エラベルノ」だ。3種類の太さ(細め、標準、太め)、2色の軸(本体)、2種類のインク(油性、ゲル)、2種類の線の太さ(0.5mmと0.7mm)、4色のインク色(黒、赤、青、ブルーブラック。ブルーブラックはゲルインクのみ)を組み合わせて、自分好みのボールペンを作れる製品。その組み合わせは84通りになる。
種類が多すぎて自分に最適な一本を見つけるのは大変そうだが、「そういうことはない」と、エラベルノの開発チームであるステーショナリー事業本部商品本部 開発グループの吉川将史氏は話す。
「84種類から1つを選ぶとなると難しそうだが、好みに合わせて絞り込んでいくイメージ。例えば、まず軸を握ってもらって、3種類から選ぶ。続いて、油性かゲルインクかを選んで、線の太さを0.5mmと0.7mmから選ぶ。あとは、軸の色とインクの色を決めて出来上がり。もちろん、インクから決めて、軸を試しながら選ぶのもいい」
今回、エラベルノを作るにあたって、「ボールペンの書き心地はインクやペン先だけで決まるものではなく、軸の太さや握り具合の影響も意外に大きい」と考えたと吉川氏は言う。また、開発途中で多くの人に試してもらったところ、握り方も人それぞれで、いわゆる“正しい握り方”というのはあるものの、多くの人はその人なりの握り方をしているということも分かったそうだ。
「調べていくと、標準と太めの2種類のグリップがあれば、8割のユーザーをカバーできることが分かった。でも、さらに多くの人にぴったりの握り具合を実現するために細めを追加した」と、吉川氏と同じく開発グループの松下欣也氏は話す。
エラベルノの軸は使ってみると分かるのだが、3種類の太さといっても太さが違うのはグリップ部分だけで、軸そのものは同じパーツが使われている。そして、グリップ部分が回転するようになっているのだ。これはモニターテストで得られた「さまざまな握られ方をしている」ことを踏まえたもの。全体は丸いけれど一部分だけ平たくなっているグリップは、通常、平たい部分がクリップと同じ方向、つまり一般的な正面を向いている。この平たい部分を左右にずらすことができるのだ。
例えば、右利きの場合、平たい部分をクリップに向かって右側に動かすとちょうど親指が平たい面に当たる。この握り具合が良いという人がモニターでは一番多かったという。また、正面に平たい面を向け、そこに人さし指を当てて握る際にクリップに指が当たって邪魔になるという人もいる。その場合は、グリップを向かって左に動かせば、クリップが邪魔にならない。一応、グリップはその3カ所で止まるように作られているが、もちろん、ぐるりと360度回すこともできるから、好きな位置にグリップの平たい面を配置できる(もっとも、その場合、位置が固定されるわけではないから動いてしまう場合もあるので注意が必要)。
モニターテストでは、手が小さい女性が太いグリップを好むケースが多かったそうで、人の好みはそれぞれ。重要なのは、握ったときの気持ち良さではなく、書いたときにラクかどうかだ。持って気持ち良いことと、書いて気持ち良いことの違いも体験してほしい。
15年ぶりにインクを開発
続いては、インクだ。コクヨでは、油性ボールペンの新製品は15年ぶりくらいなのだそうだ。しかも、今回の新製品にあたって、油性インクもゲルインクも新たに開発した。それも、「選べる」というコンセプトに合わせ、油性は滑らかさにこだわったシルキー油性インク、ゲルは速乾性と軽い書き味を追求したエアリーゲルインクと、それぞれに特徴を際立たせたものになっている。
実際に書いてみても、油性インクは滑らかで、いわゆる低粘度油性インクの中でも、粘度の低さを追求したインクという印象。また、ゲルインクは抵抗のないサラサラした書き心地とインクで手が汚れることがほぼないほど高い速乾性で、とても扱いやすいインクに仕上がっていた。
個人的には、クッキリ書けるゲルインクは、そのインクの発色が生かせる0.7mm、滑らかに書ける油性は細字でも抵抗が少なく書きやすいので0.5mmが気に入った。また、インク色ではゲルインクのブルーブラックの色合いが良く、筆者は標準軸、ゲルインク0.7mmのブルーブラックという選択と、太め軸、油性インク0.5mm、黒という2本を使いたいと思った。
インクの交換しやすさも配慮
開発者に話を聞いていくと、エラベルノは非常に細かい部分にもとても配慮されて作られているのが分かった。
例えば、インクの交換。替え芯はペン先にキャップが付いているから、使用中に他の色に替えることも可能。替え芯の交換はペン先のパーツを回転して外して行うが、ペン先のパーツはよく見ると回すときに指が当たる部分が凸凹に加工されていて回しやすいのだ。そして、パーツを外すと、ノック式ボールペンに付き物のスプリングが現れるが、このスプリングはパーツにくっついている。うっかり、どこかに飛んでいったりすることがない。リフィル交換周りの設計だけでもうなってしまう。
独特なクリップ形状はインクの滑らかさを表現すると同時に、胸ポケットに差したり、什器に入っているときにでも目立つように、個性的な曲線のデザインにしたのだそうだ。
また、軸は繰り返して使うことを想定しているため、クリップも丈夫に作られている。好みの1本をというだけではなく、同じ軸で油性とゲルを入れ替えて使うといったことも考えられているのだ。
さらに、軸の中心当たりに開いている穴は、リフィルを入れたときにリフィルに印刷された、「G/07」(ゲルインクの0.7mmを表す)とか、「Y/05」(油性の0.5mmを表す)といった、リフィルの内容表示を見やすくするため。この機能のために軸とリフィルのデザインを連携させているのだ。ルックスもビジネスユースを意識してデザインされているし、インク色が4色と少ないのも、「文字を書くためのペン」にこだわった硬派さを感じさせる。
最初は90%の人が正しく選べなかった?
しかし、軸やリフィルを選んで買うというスタイルは、あまり一般的ではない。「学生は多色のカスタマイズできるペンなどでリフィルを選んで買うことに慣れているが、やはり特殊な買い方なので、モニターを始めた当初、90%もの人が正しく購入できなかった」と吉川氏。その結果を受け、分かりやすいパッケージングを考えたのだそうだ。その結果、リフィルのパッケージを油性は白地にインク色文字、ゲルはインク色地に白文字とクッキリと色分けし、さらに、平らに置いた状態でもインク色とボール径が分かるように印刷する、軸の太さなどを表示するシールを太さごとに色分けする、といった分かりやすい表示にたどり着いた。
普段使いのボールペンを使う人が気持ち良く書けるペンとして提供するというスタイルは、従来の「好きなリフィルを入れて使える」というカスタマイズ製品とは似ているようで全く違う。好みで選ぶというよりも、もう少し感覚に近い部分で選ぶボールペンなのだ。だから、いきなりだとどう選んでいいのか分からないこともあると思う。モニター販売で多くの人が正しく買えなかったというのも、今までにない選択ができるペンだったからという要素が多分にあったのだろう。しかし、軸が100円、リフィルが100円とリーズナブルなので、とにかくまず使ってみてほしい。ボールペンの書き味にはいろいろな要素があり、それには自分の握り方や書き方も含まれるということが分かって、そこからいろいろな気づきが生まれる。エラベルノは、そういうボールペンなのだ。
(文・写真/納富廉邦)