ここ数年、寒いシーズンが来ると話題になるのが、快適すぎて“人をダメにする”グッズだ。きっかけは、2014年に無印商品の「体にフィットするソファ」がネット上で “人をダメにするソファ”と呼ばれ、話題になったこと。さらに同じ年には米国の体にフィットするビーズソファ「Yogibo」が日本に上陸し、“人をダメにするソファ・クッション市場”は乱戦模様になった。さらに2016年にはニトリの「レストクッション」が、入手困難なほど大ヒットしたのは記憶に新しい。こうしたグッズを「ダメ人間系」と名付けて力を入れているのが、千趣会が運営する通信販売ブランド「ベルメゾン」だ。
「これまで寒い冬を暖かく・心地よく過ごすためのアイテムを提案してきたが、2~3年くらい前からSNS上で『ダメ人間にやさしいベルメゾン』と話題にされるようになり、『寒くなるとベルメゾンからダメ人間系商品が発売される』というユーザーの期待も感じるようになった」と千趣会 カタログ企画2部 編集企画チームの半田りえ氏は話す。2016年秋に「ラグが洗えるタブルコーナークッション」「ふわふわな連結できる巣ごもりクッション」などのダメ人間系アイテムを発売したところ、どの商品も想定を上回る売り上げだったという。
そこで同社ではダメ人間系アイテムをさらに強化し、2017年9月26日からオリジナル新商品17品を含めて「この冬、家から出ないと決めました。」シリーズの販売を開始した。同シリーズを含むダメ人間系アイテムは30品あり、そのうち14品は新製品。前年度の12品から2.5倍に増やしたという。
半田氏によると、同シリーズの裏コンセプトは「自堕落」。といっても、マイナスの意味ではなく、「自らの意思で堕落する」という前向きな姿勢を込めたという。「日々、懸命に働いて疲れている人は、どこかでゆっくりしたいという気持ちが潜在的にある。自堕落に過ごすことに後ろめたさを感じることなく、自分を徹底的に甘やかし、いたわれるようなグッズを目指した」(半田氏)。いったいどんなダメ人間系アイテムが新たに生まれたのか。どれだけダメになれるのか。実際に試してみた。
棺おけをイメージしたビーズクッションとは?
まずは、「最小の面積でひきこもることができる」という「みのむしビーズクッション」を試してみた。形は寝袋で、触感はビーズクッション。一般的なビーズクッションは座ったままの姿勢で沈み込むので、リラックスできる姿勢で固定するのが意外に難しい。だが、この商品は横になった瞬間にクッションのほうから全身を包みにきてくれるような感覚だ。さらに、上掛けが適度に体にフィットするので、内側のフワフワのボア素材の感触とあいまって、まるで繭にくるまれているよう。「実は棺おけをイメージして作った商品」(半田氏)だそうだが、本当に昇天してしまいそうなリラックス感だった。価格が2万4900円とやや高めなので、もう少し安ければ購入したかった。
一方、「ぜひ購入したい!」と感じたのが、「使い方いろいろだらだらウレタンクッション」だ。半田氏がエステサロンなどで使用されているうつぶせ用穴あき枕からヒントを得て開発した商品で、四角形のクッションに半円型のクッションがくっついたような形だ(半円部分は留めて円形にすることもできる)。使ってみると、3000円台という手ごろな価格ながら、実に多様な使い方ができるのだ。
筆者が一番気持ち良かったのは、うつぶせで穴の部分に顔をうずめた姿勢。穴が開いているので息苦しさがなく、包まれているような安定感がある。あおむけで寝ても頭がホールドされ、肩に適度な軟らかさのクッションが当たって気持ちがいい。座ってテーブルやデスクに乗せればうたた寝用に、ソファに座って輪の部分を腰に挟めばアームクッションになる。普通のクッションとしても、うたた寝用のネックピローとしても使える。適度な軟らかさとホールド力の秘密は、中綿ではなくウレタンチップを使用していることだそうだ。
「エマニエル椅子」から着想した“自堕落”座椅子
「こもれる毛布付きのあぐらクッション」は、毛布ですっぽり体を包めるので、スナック菓子の大袋を抱えていても、だらしない服装でいても見えないのが気楽。あぐらでもくつろげる大きめクッションが、ほどよい固さと軟らかさのバランスで居心地がいい。また、かぶっただけで汗が出るほど保温性が高かったので、寒がりの人にも向いていそうだ。毛布の手ざわりが気持ちよく、参加者から「裸でくるまりたい」という声も聞こえた。確かに“冬でも家では裸族”派にいいかもしれない。
映画「エマニエル夫人」に出てくる籐(とう)椅子から着想したのが、背もたれ部分と両サイドに高さがある「包み込まれるような折りたたみ座椅子」。普通の姿勢で座っていると包まれる感覚はあまり感じないが、背もたれに体を預けてだらしない格好で座ると、サイドの生地が目隠しになって包まれている感じになる。外側にも内側にもポケットやフックがたくさんあるので、こたつ用座椅子にもよさそうだ。コンパクトに折りたためるようにサイドを薄い布にしているが、サイドもクッションならもっと安定感が良かったかもしれない。
オールインワンタイプの“着る毛布”は他社でもよく見る商品だが、「動き回れる着る毛布」はダブルファスナーの下の部分を開けて裾部分を肩にかけると、丈が短くなる。トイレに行くたびに全部脱がなくてもいいのが便利だ。
ダンボールハウスは「中に入ると落ち着く」
「布団が大好きで、休日も布団から出たくない」という人には「寝室がまるで基地になるクラフト製パーテーション」を薦めたい。見た目はまるでダンボールハウスだが、中で寝てみると不思議と落ち着く。あおむけになったとき、目の前に壁があることで視界が遮断されるせいかもしれない。
「リラックスしていても、おしゃれ」が人気のポイント
上記に紹介したような究極のリラックスを求める商品は、ひと昔前なら「だらしない」「人に見せられない」という理由でごく一部の人にしか受け入れられなかっただろう。だが、スマホの普及などにより、独りで家にいて充実した時間を送る人が増えてくるなど、ここ数年ライフスタイルに大きな変化が生まれた。また、無印の「体にフィットするソファ」のようなインテリア性の高い商品の登場により、リラックスしながらもおしゃれな雰囲気を演出できるようになったことも大きい。千趣会のダメ人間系アイテムにはサイズが大きいものも多いので、インテリアの邪魔にならないよう、グレイッシュな色みを中心に採用しているという。
同社は今シーズンのダメ人間系アイテム30品で合計1億円強の売り上げを見込んでいる。SNSなどで「ダメになる」「でもラクチン」といった話題がどれくらい盛り上がるのか、気になるところだ。
(文/桑原恵美子)