寒い季節の楽しみは自宅で鍋を囲むことという人も多いだろう。だが、毎年「今年はどんな味がはやるのか」と楽しみにしていた人も、ここ数年、売り場にあるのは見慣れた味の定番鍋つゆばかりだと感じてはいないだろうか。
トマト鍋、カレー鍋などのバラエティー鍋つゆの味も出尽くした感がある。ここ最近のトレンドといえば、あごだしや鯛だしなど、「だし」重視の傾向が強くなっているくらいだろう (関連記事「鍋つゆの新トレンドは『パウチの中でだしをとる』!?」)。実際、ミツカンが2018年2月に行った調査でも、冬の間に家庭で食べた鍋として回答が多かったのは「しょうゆ味の鍋」「おでん」「水炊き」だった。
同社商品企画部の中田賢二部長は、「鍋料理はバラエティー志向が強く、同じ鍋を続けて食べない傾向がある」と話す。その一方で、外食で人気が高い香辛料を使ったものや辛みのある味は好みが分かれるので、家庭では定着しにくいという。そのため、家族みんなで食べられる定番の味が最も購入頻度が高いそうだ。
ユニークな「シメ」で訴求
だが、オーソドックスな鍋つゆは誰にでも好まれる半面、爆発的なヒットにつながりにくいとも言える。そんな「鍋つゆマンネリ化」のなか、ミツカンが提案するのは、鍋料理のクライマックスともいえる“シメ”の新しい楽しみ方だ。「シメの麺をもっとおいしく」をキーワードに、日清食品チルドと共同で、チルドの「鍋つゆ」と「専用麺」を開発。冷蔵タイプの鍋つゆはレトルト加工に必要な加熱殺菌で失われる風味を残すことができるのが特徴だという。
さらに、同社はインターネット上で鍋といっしょに「ダイエット」「ヘルシー」という言葉が多く検索されていることから、「鍋を好む人は健康ニーズが高い」と分析。その一方で、昨今はダイエットなどのために糖質を取りすぎないようにする人が増加。炭水化物である鍋のシメを避ける人も増えているのではないかと考えた。そこで、鍋を食べ終わったあとのスープに卵を加えた「キッシュ風」や、「プリン風デザート」など、斬新なシメのレシピを提案。公式サイトに掲載している。
「しゃぶしゃぶ」の不満を解消
一方、個包装鍋つゆ「プチッと鍋」シリーズが好調なエバラ食品が目をつけたのは、しゃぶしゃぶだった。しゃぶしゃぶといえばつけだれで食べるのが定番だが、2018年の秋冬新商品として立ち上げた「なべしゃぶ」シリーズは、味のついたつゆに具材をくぐらせて食べるスタイルだ。
しゃぶしゃぶについて同社が調査したところ、「つけだれのバリエーションが少ないので、味が代わり映えしない」「すぐにたれの味が薄くなってしまう」「つけだれ用の食器が必要なので、洗うのに手間がかかる」など、つけだれに対する不満を感じている人が多くいることが分かった。そこで、外食で人気の油を使った「オイルしゃぶしゃぶ」をヒントに定番のポン酢やごまだれに近いほどよい酸味を加え、つけだれ不要の3商品を開発したという。
エバラ食品コミュニケーション部広報課の鈴木悠司氏は「メインの具材は豚肉に限らず、牛肉やラム肉、牛タン、ブリ、タコなども合う味つけにした」と話す。また、豆苗や切り干し大根、冷凍野菜を活用することも勧めており、「野菜の価格が高いときにも気軽に食べられる」(鈴木氏)。
味は定番だが「インスタ映え」する鍋も
食べ方の新提案としては、ヤマサが2018年秋冬の新商品として発売した「ヤマサ 匠鍋」シリーズも挙げられるだろう。17年ごろからSNSで流行している、野菜をタワー状に盛り肉を巻き付ける「マウンテン肉鍋」などが作れる。味付けに特に新しさは感じられないが、作る過程や見た目の楽しさを期待して購入する人もいるかもしれない。
(文/桑原恵美子)