だんだんと寒くなり、鍋が恋しい季節がやってきた。鍋つゆシェアトップのミツカンによると、2017年度の鍋つゆ市場は前年比約108%と大きく伸長。和風調味料市場でも、鍋つゆ市場は最も成長しているという。なかでも大きく伸びているのが、個包装タイプの鍋つゆだ(関連記事「『個食鍋つゆ』急成長の理由は? サプリ鍋も人気」)。 ミツカンの場合、2017年度の売上前年度比はストレートつゆが118%なのに対し、個包装鍋つゆの「こなべっち」は143%まで伸びている。「個包装鍋つゆのシェアがまだ小さく、伸びる余地があった」(ミツカン)とはいえ、個包装鍋つゆの人気が高まっているのは間違いない。
個包装タイプの鍋つゆに先鞭をつけたのは、2012年8月にキューブ状の鍋用調味料「鍋キューブ」を発売した味の素だ。ストレートタイプを購入する人の多くが、「価格が高い」「人数によって余ったり足りなかったりして不便」「重い」といった不満を感じていることから、鍋つゆの風味を1個1人前相当のキューブに凝縮した。作る量を簡単に調節できることや、1パウチ(キューブ8個入り、8人分)で100g以下の軽さであることなどが受け、発売から約2年間で1億キューブを出荷する大ヒット商品となった。
2013年8月には、エバラ食品工業がポーション容器に濃縮した鍋つゆを入れた「プチッと鍋」3品を発売。「1プチッと1人前」のキャッチフレーズで発売されるや、発売初年度に出荷ベースで約9億円を売り上げた。2017年度にはポーション調味料全体として約33億円(出荷ベース)に成長。「プチッと鍋」は2018年8月に新アイテム「担々ごま鍋」を追加し、全10品にラインアップを拡大している。
ミツカンは、2016年8月に個包装タイプ鍋つゆ「こなべっち」シリーズ4品を発売。発売から3カ月でシリーズ累計700万食を突破し、2017年度は前年比43.3%増とさらに売り上げを伸ばしている。
ストレート鍋つゆのイメージが強いキッコーマン食品も、2016年に個包装鍋つゆ「キッコーマン Plus(プラス)鍋」シリーズ3品を発売。現在、「キッコーマン Plus鍋 国産野菜だしの豆乳鍋スープ」など3品を展開している。
企業側も積極的にアレンジを提案
個包装鍋つゆの人気の理由は、「1個が1人分なので計量が不要」「軽くてコンパクトなので気楽に買える」といった手軽さにある。さらに、「鍋料理は野菜がたくさん食べられるというイメージがあることや、冷房で冷えた体を温めたい“温活”志向の高まりなどで、春夏にも鍋を食べる人は増えている」(ミツカン 商品企画部の中田賢二部長)。そのため、春夏にも鍋つゆを取り扱う小売店が増え始めた。そこで現れたのが、個包装鍋つゆを調味料として使う人たちだ。
味の素 家庭用事業部の江村治彦 和風調味料グループ長は「個包装鍋つゆを鍋以外に使う人は、春夏を中心に年々増加している。鍋キューブ使用者を調査したところ、鍋以外の料理にも使ったことがあるという人は20%を超えていた。春夏に限っていえば30%強になる」と話す。
味の素は鍋以外のアレンジメニューのレシピを商品サイトに掲載すると同時に、SNSを活用してユーザーに訴求してきた。「2017年からは鍋キューブの『濃厚白湯』を使った炊き込みごはんがSNS上で拡散している。料理研究家のリュウジ氏がツイッターで提案した『サラダチキン』や『しらたきのフォー』、電子レンジで作る『野菜炒めず』などが話題になった」(江村グループ長)。アレンジメニューで最も多いのが麺類。続いて汁物やスープ、ご飯類、炒め物にも使われるという。個包装鍋つゆはもはや万能調味料と化しているといえるだろう。
アウトドアや海外旅行に持っていく人も
喫食シーズンの広がりに加え、使用シーンも広がっている。「軽量で持ち運びやすいといった特徴から、登山やキャンプなどのアウトドアシーン、海外旅行や出張などの長期旅行などに持参する人も増えている」(エバラ食品 コミュニケーション部広報課の鈴木悠司氏)。
ミツカンによる「2017年度鍋定期調査」によると、「鍋つゆの使用理由」のベスト3は「味付けに失敗がないから(34.5%)」「調理が簡単だから(34.5%)」「おいしいから(27.6%)」。これらは限られた調理時間でおいしいものを食べたいという現代人が共通して求めている条件だ。いろいろな調味料を合わせなくてもそれひとつで味が決まる「万能調味料」は、現在さまざまなメーカーから発売されている (関連記事「ソース1本でハンバーグも煮魚も!? 『新・万能調味料』は本当に万能か」)。味が完成しているので失敗がないことに加え、計量なしで人数の増減に対応できる個包装鍋つゆは、究極の万能調味料といえるかもしれない。
(文/桑原恵美子)