「100年に一度」といわれる規模で進む東京・渋谷駅周辺の再開発。その目玉のひとつとなっているのが、渋谷駅の南側エリアだ。2013年の東急東横線渋谷駅の地下化に伴って廃止された地上ホーム部分の再開発がついに完了。首都高速3号渋谷線と国道246号によって分断されていてこれまで人通りが少なかったエリアに、大規模複合施設「渋谷ストリーム」が、2018年9月13日に開業した。

2018年9月13日にオープンした「渋谷ストリーム」(東京都渋谷区渋谷3-21-3)。延床面積は約11万6000平方メートル。地上35階、地下4階建て
2018年9月13日にオープンした「渋谷ストリーム」(東京都渋谷区渋谷3-21-3)。延床面積は約11万6000平方メートル。地上35階、地下4階建て

 同施設は地上35階、地下4階建て。1階から3階は商業ゾーンで、日本初上陸の店や同施設に合わせて作られた新業態、都内や渋谷エリア初出店の店など、29の飲食店や食のショップが入る。4〜6階は約700人が収容できるホール(スタンディング時)で、コンサートを中心としたライブ上演を行う予定。4階と9~13階は客室総数177の「渋谷ストリームエクセルホテル東急」が入る。14〜35階はオフィスフロアで、全区画にグーグルの本社機能入居が決定している。

 施設には東横線渋谷駅を思い起こさせる仕掛けも随所にほどこされている。渋谷駅と東口歩道橋、渋谷ストリームの2階をつなぐ「国道246号横断デッキ」には、東横線渋谷駅のアイコンでもあった「かまぼこ屋根」を再現。また、同じく2階から代官山方面に向かう通路には鉄道のレールを敷いている。

国道246号横断デッキは、旧東横線渋谷駅の高架橋を利用。駅利用者に長く愛され続けた「かまぼこ屋根」を再現したデザイン
国道246号横断デッキは、旧東横線渋谷駅の高架橋を利用。駅利用者に長く愛され続けた「かまぼこ屋根」を再現したデザイン
2階の商業ゾーンの床には鉄道のレールが埋め込まれている
2階の商業ゾーンの床には鉄道のレールが埋め込まれている

「薄暗かった渋谷川沿い」が開放感ある広場に

 渋谷ストリームがあるのは渋谷駅南口、明治通りをはさんだ渋谷警察署向かいだ。同施設は渋谷駅に新設された16b出口に直結しているので、東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線の改札からは、できたばかりの真っ白な通路を歩けばあっという間に着く。

渋谷駅16b出口を出てすぐの場所にある稲荷橋広場。渋谷ストリームの2階につながる横長の大階段は、腰かけたりするくつろぎの場所としても使える
渋谷駅16b出口を出てすぐの場所にある稲荷橋広場。渋谷ストリームの2階につながる横長の大階段は、腰かけたりするくつろぎの場所としても使える

 地上に出ると目の前に広がるのは、渋谷駅前とは思えない広々とした空間。渋谷川にかかっている稲荷橋を再整備した「稲荷橋広場」だ。以前の渋谷川沿いは古いビルが立ち並んでいて薄暗いイメージだったが、ここはかなりの開放感がある。1階のテーマは、「川辺のひろがりを感じさせるリバーサイドマーケット」。渋谷川に沿ってテラス席を設けた飲食店が立ち並ぶ。

 なかでも注目は、大階段左手にあるカリフォルニア×エスニックをテーマにしたレストラン「GH ETHNICA(ジーエイチエスニカ)」。鎌倉発祥のレストラン「GARDEN HOUSE」や代官山のベーカリーカフェ「GARDEN HOUSE CRAFTS」などを運営するTHINK GREEN PRODUCE(シンク グリーン プロデュース、以下、TGP)」が手がける新業態店だ。渋谷ストリームからつながる渋谷川沿いの遊歩道先には、渋谷ストリームと同日にオープンした新施設「渋谷ブリッジ」があるが、TGPはそのコンセプトや名称の決定にも関わっている。

「GH ETHNICA」は、鎌倉のノーザンカリフォルニアレストラン「GARDEN HOUSE」を手がけたTHINK GREEN PRODUCEの新業態
「GH ETHNICA」は、鎌倉のノーザンカリフォルニアレストラン「GARDEN HOUSE」を手がけたTHINK GREEN PRODUCEの新業態
健康志向の高いアメリカ西海岸のライフスタイルや多国籍カルチャーをベースに、季節の食材を使用したエスニックタパスなどを提供。ランチは税込み1000円〜。ディナータイムは税込み2000〜3000円程度を想定している
健康志向の高いアメリカ西海岸のライフスタイルや多国籍カルチャーをベースに、季節の食材を使用したエスニックタパスなどを提供。ランチは税込み1000円〜。ディナータイムは税込み2000〜3000円程度を想定している

 「渋谷は今や、多くの国からさまざまな人が集まりダイバーシティー化している。こうした開けた場所に、にぎやかでエネルギッシュなエスニック料理を提供する、屋台のようにオープンな空間の店を作りたいと考えた」と、TGP代表取締役の関口正人氏は話す。

1階にある「LEMONADE by Lemonica(レモネード バイ レモニカ)」は金沢生まれのオリジナルレシピを使用した本格レモネード専門店。渋谷川を眺められるブランコ席も用意されている
1階にある「LEMONADE by Lemonica(レモネード バイ レモニカ)」は金沢生まれのオリジナルレシピを使用した本格レモネード専門店。渋谷川を眺められるブランコ席も用意されている

 渋谷のストリートのように路面感覚の店舗15店が軒を連ねる2階のテーマは、「渋谷カスタムストリート」。それぞれに特徴のあるユニークな食の店が集まっている印象だ。

個性的な店舗15軒が集まる2階フロア。通路が広いので店舗が密集している感覚がなく、それぞれが路面店のような印象
個性的な店舗15軒が集まる2階フロア。通路が広いので店舗が密集している感覚がなく、それぞれが路面店のような印象

 この階で印象に残ったのは、東急ストアの新業態「Precce Shibuya DELIMARKET(プレッセ シブヤ デリ マーケット)」。近年広がっている、スーパーとレストランが融合したグローサラントだ (関連記事:スーパーとレストランが融合 成城石井新業態の中身)。

 生鮮食品は一切取り扱わず、デリカの対面販売を中心に、サーバーを使用したクラフトビールをはじめとしたアルコールやテイクアウト総菜、弁当などをそろえる。特に弁当は種類が非常に豊富で、他のグローサラントと比べても品ぞろえが充実していると感じた。

 ターゲットは訪日観光客やオフィスワーカー。イートインコーナーもあり、“ちょい飲み”需要にも対応している。ワインやチーズ、つまみ系の種類も豊富で、家飲み派にも重宝されそうだ。

スーパーマーケット「Precce Shibuya DELIMARKET」の営業時間は7〜23時
スーパーマーケット「Precce Shibuya DELIMARKET」の営業時間は7〜23時
商品構成の半分がデリ。特に弁当は種類が非常に豊富だと感じた
商品構成の半分がデリ。特に弁当は種類が非常に豊富だと感じた
11~15時まではサラダショップ「サニーボウル」、15~21時までは店内の窯で焼くオリジナルピザ「マイセレクトピザ」を対面で販売
11~15時まではサラダショップ「サニーボウル」、15~21時までは店内の窯で焼くオリジナルピザ「マイセレクトピザ」を対面で販売

 アパレル企業ベイクルーズのグループ会社であるフレーバーワークスが展開するピッツァ専門店「CITYSHOP PIZZA(シティショップ・ピッツァ)」は、生地やチーズ、メインの具材、トッピングを自分好みにカスタムできる。生地3種、チーズ4種から各1種類ずつ、メインの具10種から3種類、トッピング13種から2種を選んで自分好みのピザがオーダーできる。大豆粉を使ったグルテンフリーの「ソイクラスト」や、豆腐を発酵させてチーズ風味に仕上げた「発酵豆腐チーズ」など、ユニークな食材がそろう。

ベイクルーズグループのフレーバーワークスが展開するサラダ&デリカテッセン「CITYSHOP」の新業態「CITYSHOP PIZZA」
ベイクルーズグループのフレーバーワークスが展開するサラダ&デリカテッセン「CITYSHOP」の新業態「CITYSHOP PIZZA」
大豆粉を使ったグルテンフリーの「ソイクラスト」に、「発酵豆腐チーズ」「ケールとひじき、キヌアのハーブフレンチマリネ」など3種類のトッピング、「ドライフルーツミックス」など2種類の具をセレクトした例。ドリンクがついて税別1600円~。生地は軽くてサクサク、チーズもくせがなく食べやすい
大豆粉を使ったグルテンフリーの「ソイクラスト」に、「発酵豆腐チーズ」「ケールとひじき、キヌアのハーブフレンチマリネ」など3種類のトッピング、「ドライフルーツミックス」など2種類の具をセレクトした例。ドリンクがついて税別1600円~。生地は軽くてサクサク、チーズもくせがなく食べやすい

 「Petalo(ペタロ)」は、イタリア語でつまみを意味するチケッティを中心に提供する「新イタリア版大衆食堂酒場」。常時10種類以上の生ハムやサラミをそろえる。生ハムやサラミを揚げたてで熱々のパンにのせて食べると、溶けた脂がサクサクの生地にからみ、さらにおいしくなる。一口サイズで軽い食感なので、いくつでも食べられそうだ。

プロシュッテリア・バール「Petalo」
プロシュッテリア・バール「Petalo」
熱々の揚げパンに生ハムをのせて食べる。ディナータイムは税込み3000円前後を想定
熱々の揚げパンに生ハムをのせて食べる。ディナータイムは税込み3000円前後を想定

トランジットが手がける「日本初上陸パエリア」

 3階は1~2階とは対照的に、シックで大人っぽい雰囲気が漂う。このフロアには9店舗が出店。最大の注目は日本初上陸のスペイン料理店「XIRINGUITO Escribà(チリンギート エスクリバ)」だ。1992年にスペイン・バルセロナでオープンして以来、25年以上にわたって地元の人に愛され続けている人気店で、「バルセロナで一番おいしいパエリアを提供するシーフードレストラン」という評判もあるほど。「アイスモンスター」「グズマン イー ゴメズ」「ドミニク アンセル ベーカリー」など、海外で人気の飲食店を次々に日本に上陸させて成功しているトランジットジェネラルオフィスのプロデュースとあって、注目を浴びるのは確実だろう(関連記事 「表参道“日本初上陸”の仕掛け人、次に狙うのは? トランジットジェネラルオフィス 中村貞裕氏」)

 
トランジットジェネラルオフィスがプロデュースするスペイン料理「XIRINGUITO Escribà(チリンギート エスクリバ)」。入り口をくぐってすぐ右手にあるオープンキッチンでパエリアを作っている様子が見られる
トランジットジェネラルオフィスがプロデュースするスペイン料理「XIRINGUITO Escribà(チリンギート エスクリバ)」。入り口をくぐってすぐ右手にあるオープンキッチンでパエリアを作っている様子が見られる
チリンギート エスクリバでは新鮮な魚介類をふんだんに使用した「タコのガリシア風」(税別1600円)や魚介のエキスが凝縮された「エスクリバパエリア」(税別3400円)、色鮮やかなサングリアなどを提供
チリンギート エスクリバでは新鮮な魚介類をふんだんに使用した「タコのガリシア風」(税別1600円)や魚介のエキスが凝縮された「エスクリバパエリア」(税別3400円)、色鮮やかなサングリアなどを提供
全84席(テーブル76席、カウンター8席)。さまざまなタイプのシートがあり、入り口近くのボックス席からは1階の大階段を見下ろすことができる
全84席(テーブル76席、カウンター8席)。さまざまなタイプのシートがあり、入り口近くのボックス席からは1階の大階段を見下ろすことができる

 もうひとつの注目店は、「クラフトビールタップ グリル&キッチン」。クラフトビールを提供する店はもう珍しくないが、同店ではグラスの底からビールを注ぐ「ボトムス アップ」というビールサーバーシステムを導入。新宿、銀座、秋葉原、梅田に続き5店舗目だが、都内ででボトムス アップを導入しているのは渋谷ストリームの店舗だけだという。通常のサーバーシステムよりも空気に触れる割合が少ないため、より鮮度のいい状態で味わえるとのこと。

独占直輸入の世界のクラフトビールを集めた本格ビアバー「クラフトビールタップ グリル&キッチン」では、ボトルビールと樽生ビール45種類以上をそろえている
独占直輸入の世界のクラフトビールを集めた本格ビアバー「クラフトビールタップ グリル&キッチン」では、ボトルビールと樽生ビール45種類以上をそろえている
ボトムス アップは底に穴が開いている専用のグラスを使用。底にマグネットのプレートを付けてサーバーにセットすると下からビールが注がれる。注ぎ終わったあとはマグネットのプレートが底ぶたになるので、ビールがこぼれることはない。300mlのグラス入りで税別800円~
ボトムス アップは底に穴が開いている専用のグラスを使用。底にマグネットのプレートを付けてサーバーにセットすると下からビールが注がれる。注ぎ終わったあとはマグネットのプレートが底ぶたになるので、ビールがこぼれることはない。300mlのグラス入りで税別800円~
3階は大人向けのシックな雰囲気
3階は大人向けのシックな雰囲気

 4階と9~13階は東急ホテルズが運営する「渋谷ストリームエクセルホテル東急」。4階にはフロントとラウンジがあり、バーアンドダイニング「TORRENT(トレント)」とシームレスにつながっている。

「渋谷ストリームエクセルホテル東急」のロビー
「渋谷ストリームエクセルホテル東急」のロビー
4階のバーアンドダイニング「TORRENT」では、フランスの星付きレストランで研鑽を積んだシェフによる「日本を感じさせる」料理を提供。小さなたい焼きの皮の中にわらび餅を詰めた「TAIYAKI」、スポイトでカラメルソースを注入するプリンなど、スイーツからも料理のユニークさが感じられる
4階のバーアンドダイニング「TORRENT」では、フランスの星付きレストランで研鑽を積んだシェフによる「日本を感じさせる」料理を提供。小さなたい焼きの皮の中にわらび餅を詰めた「TAIYAKI」、スポイトでカラメルソースを注入するプリンなど、スイーツからも料理のユニークさが感じられる

 フロントにはデリバリーサービスロボット「リレイ」を導入。通常時はフロントで待機しているが、オーダーがあれば上部に設けたトランクにアメニティーや貸出備品を入れて客室まで届ける。また、各フロアにはそれぞれにコンセプトを設けた「マイスタールーム」を用意しているのも特徴的。10階には靴磨きのプロを配置したシューケアのコーナーを、11階にはクローゼット型のホームクリーニング機「LGスタイラー」を設置している。

宿泊者向けサービスにデリバリーサービスロボット「リレイ」は、自立走行しながら障害物を回避しエレベーター操作を行い、指定した場所に商品を届けることができる
宿泊者向けサービスにデリバリーサービスロボット「リレイ」は、自立走行しながら障害物を回避しエレベーター操作を行い、指定した場所に商品を届けることができる
各フロアのエレベーターホール前に「マイスタールーム」を設置。11階にはクローゼット型のホームクリーニング機「LGスタイラー」、ランドリー、アイロンを設置
各フロアのエレベーターホール前に「マイスタールーム」を設置。11階にはクローゼット型のホームクリーニング機「LGスタイラー」、ランドリー、アイロンを設置
「スタンダードダブル」(23.8~24.8平方メートル)。一部バスタブなしの部屋もあり。1室2人で4万1580~4万2768円(税・サービス料込み)
「スタンダードダブル」(23.8~24.8平方メートル)。一部バスタブなしの部屋もあり。1室2人で4万1580~4万2768円(税・サービス料込み)
3人まで泊まれる「デラックスコーナーツイン」(46.5平方メートル)は1室2人で9万288円
3人まで泊まれる「デラックスコーナーツイン」(46.5平方メートル)は1室2人で9万288円

 また、4階には、2018年内にサイクルカフェ「TORQUE SPICE & HERB, TABLE & COURT(トルク スパイス&ハーブ テーブル&コート)を開業予定。自転車ユーザー向けの情報提供に加え、自転車通勤をする人をサポートする場にするという。

 実際に施設内を回ってみて、ターミナル駅のすぐそばとは思えないほどゆとりのある空間に驚いた。吹き抜けを多用して窓を大きくした空間デザインの効果もあるだろうが、通路も郊外の商業施設並みに広々としている。また、物販がほとんどなく、飲食店や食のショップだけを約30店舗も集めた商業施設も珍しい。しかもその半分近くが渋谷ストリームに向けて作られた新業態だ。これまで訪れる人が少なかった渋谷駅南側エリアに何としても人の流れを作りたいという、東急電鉄の意気込みが伝わってきた。

(文/桑原恵美子)

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