7月の「アイドル横丁夏祭り!!」を皮切りに始まったアイドルの夏フェスは、8月初旬の「TOKYO IDOL FESTIVAL」(TIF)で盛り上がり、8月末の「@JAM EXPO」で夏を締めくくられる。各アイドルフェスが収支の改善を目指し工夫を凝らす中、@JAM EXPOも原点回帰をうたい「あるべきアイドルフェス」の姿を模索している。今年も2万人の集客を予定する@JAM EXPOの総合プロデューサーを務めるのは、ソニーミュージックグループ関連会社でライブの企画制作を行うZeppライブの橋元恵一氏。今年の@JAM EXPOの特徴から、解散相次ぐアイドル動向や海外展開、新レーベルの発足などさまざまな観点から現在のアイドルシーンについて聞いた。

お客さんと出演者が近いフェスを目指す

──@JAM EXPO 2018では、AKB48など大物アイドルの出演が話題になっていますが、そうしたトップアイドルをどのようにキャスティングされたのでしょうか?

橋元: 今年の@JAM EXPOは、新たに日本テレビとレコチョク、そして昨年から一緒にやらせていただいているキョードー東京の4社の製作委員会形式で開催します。日テレさんに入っていただき、お力をお借りすることで、僕らだけでは簡単にキャスティングできないグループにも出演していただけるようになるなど、僕たちにとっては追い風と言うか、心強いサポーターを得たと言うか、大変大きな力になっていただいています。

──去年は目玉企画として、アイドル同士のコラボステージや解散したグループの一夜限りの再結成などがありました。今年はどのような企画を準備されているのでしょうか?

橋元: 僕の持っているネタと企画をすべてぶつけたのが去年の@JAM EXPOでした。一方今年は、日テレさんやレコチョクさんという外からの視点も加わったことで、「@JAMってこういうフェスだよね」という@JAMのフェス像の原点に帰ってそれを体現することがスタートとなりました。具体的には、学校の文化祭みたいな、お客さんと出演者がすごく近い、手作り感のあるフェス、というイメージです。一つひとつのアーティストのパフォーマンスをしっかり見せる本来のフェスや@JAMらしさを狙いました。

昨年の@JAM EXPO 2017より。目玉のコラボステージ、つりビットとハコイリ♡ムスメ
昨年の@JAM EXPO 2017より。目玉のコラボステージ、つりビットとハコイリ♡ムスメ
昨年の@JAM EXPO 2017より。目玉のコラボステージ、愛乙女☆DOLLとFES☆TIVE
昨年の@JAM EXPO 2017より。目玉のコラボステージ、愛乙女☆DOLLとFES☆TIVE

──具体的にはどう見せていくのでしょうか?

橋元: 今年は、1出演者あたりのステージ数を基本1日に絞るようにしました。一般的な音楽フェスでは、同じアーティストが複数回ステージに出ることはほぼありませんので、@JAM EXPOもそういうフェスの原点に戻そうと考え、1日のステージで最大限のパフォーマンスをしてもらおうとした結果です。今年が最後のステージとなるPASSPO☆や、総合司会の寺嶋由芙など特別な理由のあるグループだけが2日間出演し、あとの方々は基本的に1日だけの出演となります。その代わり、ほぼ全出演者に大きめのステージを割り当て、ライブパフォーマンスをしっかり見てもらえるような構成に変えました。

──それ以外に今年のウリは何かありますか?

橋元: アリーナの中ではしっかりとライブを見ていただき、外ではほっこりしていただくということで、今まで握手会とフードのエリアとしていた野外のスペースを使って縁日をやろうと考えています。射的やスーパーボールすくいのようなことを、僕らなりにやってみようかなと。こういう企画は、日テレさんやレコチョクさんが加わってご提案いただいたからこそできたものです。
 また、今年は「@VOICE(アットボイス)」という@JAMの公式アプリを5月にリリースしています。@JAMにまつわるニュースや、参加しているアイドルのイベント情報を見ることができます。8月20日からは有料コンテンツとして、アラームとして使ってもらえるアイドルのボイスを配信しました。@JAM EXPO当日もこのアプリを使って、ステージの進行状況やアイドルの参加状況などをプッシュ通知していこうと考えています。

Zeppライブの橋元恵一氏。アイドルグループのプロデュースも手掛ける
Zeppライブの橋元恵一氏。アイドルグループのプロデュースも手掛ける
■変更履歴
初出では「今年は、1出演者あたりのステージ数を基本1回に絞るようにしました。」とありましたが、正しくは「今年は、1出演者あたりのステージ数を基本1日に絞るようにしました。」でした。同様に「1回のステージで最大限のパフォーマンスをしてもらおう」は、正しくは「1日のステージで最大限のパフォーマンスをしてもらおう」でした。お詫びして訂正いたします。

黄金期を支えてきたアイドルたちが相次ぎ解散

──今年、比較的大きめのグループが解散ラッシュを迎えていますが、この状況をどのように見られていますか?

橋元: 大手芸能事務所がマネジメントするグループが次々と解散していく感じですね。解散するのは、2010~2012年くらいにデビューした、いわゆるアイドル黄金期を支えてきたグループが多いと思います。結成から6~8年という長い期間を活動してきたグループは、メンバーの誰かが「辞める」となった段階で、新メンバーを迎えたり、欠員のままで活動を継続するよりは、「誰か1人でも欠けたらみんな一緒に終わろう」と考えているところは多いと思います。残念ではありますが、仕方のないこととも思うので、最後までしっかり応援していこうと思っています。 

昨年の@JAM EXPO 2017より。目玉となった1日限定復活ユニットである5人のDorothy Little Happy
昨年の@JAM EXPO 2017より。目玉となった1日限定復活ユニットである5人のDorothy Little Happy

──今年はそういう節目の年だったのでしょうね。彼女らが辞めることによって変わること、これから変わりそうなことはありますでしょうか。

橋元: イベントを作る立場で言えば、例えば野球のクリーンナップがみんな引退していくみたいな話です。なので、アイドル業界全体の底上を考えると、次は誰が中心選手になるのか、決めていかなければなりません。ただ一方で、大きく伸びるグループが多数出ている状況でもないので、このシーンを活性化できるグループがより多く生まれてほしいという願いはあります。そういう意味で、今年の@JAM EXPOでメインステージに出演するsora tob sakanaやTask have Funという若いグループには頑張ってほしいと思っています。

昨年の@JAM EXPO 2017のグランドフィナーレより。中央はスペシャルドリームユニット「@JAM ALLSTARS 2017」
昨年の@JAM EXPO 2017のグランドフィナーレより。中央はスペシャルドリームユニット「@JAM ALLSTARS 2017」

日本のポップカルチャーを見せるフェスに

──今年、TIFが初めて海外展開しましたが、すでに海外展開の実績がある@JAMとしては、今後の展開として何かお考えでしょうか?

橋元: 2013年から毎年、夏と冬をメドに年に2回開催し、現在まで9回海外公演を行いました。これからも同じペースでやっていく予定です。ただ、今後はマーケットを見直しながら、単純に海外で公演するというよりは、海外で成果を出し、その成果を日本に持ち帰れるようにしたいと思っています。

──具体的に何かを変えるのでしょうか?

橋元: @JAMが海外公演を始めた時は、「今、日本のアイドルはこんなに熱いんです」という海外の人たちに対する提案型の企画でしたが、これからは、日本から海外に展開したいと考えているグループや、海外からオファーがあるグループをうまくマッチングできるように工夫していきたいと思っています。単にいつも@JAMに出ているグループを海外に連れて行くのではなく、時にはアニソンシンガーと一緒に連れて行くなど、@JAMならではのライブプロモーションを行っていこうと考えています。そうした「日本のポップカルチャーを紹介するフェス」という@JAMの見せ方をもう1回作っていきたいですね。

──アイドルグループの観点で見た時に、日本から海外に羽ばたいていけるアイドルが出てくる可能性はあるのでしょうか?

橋元: あとから海外戦略のプランニングを取って付けるのではなく、ある程度初期の段階からしっかり狙っていかないとダメという気はしています。その分、お金もかかりますし、マーケットも読み切らないといけないのですが、しっかりとした規模感を持っていらっしゃる事務所とレーベルが組めば必ず狙えると思います。韓国のTWICEなどはまさにそうやって結果が出ている例だと思います。

将来は大規模都市型アイドルフェスへ発展

──シーンの活性化という意味で、橋元さんは、タワーレコードと共同で新レーベル「MUSIC@NOTE」を立ち上げましたが、これには具体的にどのような意図があるのでしょうか?

橋元: OTODAMA RECORDSやフジヤマ プロジェクト ジャパンなど、アイドル専門レーベルはほかにもありますが、いずれも孤軍奮闘している状況のような気がしています。そんな中、タワーレコードでもあらためてアイドルレーベルを立ち上げ、もう一度アイドルの真の活性化を図りたいという狙いの元、僕のところに白羽の矢を立てていただいたので、快諾させていただきました。
 インディーズレーベルなので、基本的にはショット契約から始めていきます。そうは言っても、CDを売るために年間のプランを一緒に考えながら、できる限り長く継続していただけるようにさまざまな施策を練り、もし本当に売れたときには、メジャー志向のグループならメジャーに送り出してあげられるようなレーベルでありたいと思っています。レーベル独自のカラーも出していきたいので、比較的攻めているグループと感じるuijinやクマリデパート、CROWN POP、MIGMA SHELTERを第1弾として選びました。

──今後、@JAMとしての夢は何かありますか?

橋元: 日テレさんから「今年成功させ、永くお付き合いできるフェスにしましょう」というお話をいただいている中で、例えば代々木第一体育館などに場所を移して、その外周と、場合によっては第二体育館も使うような都市型アイドルフェスみたいなことをやりたいね、という話はしています。継続していくことはもちろんのこと、会場の問題や収支の観点も含めて、それらの課題を一つひとつクリアしながらこういった夢を実現できるフェスにしていきたいと考えています。

(文/野崎勝弘=メディアリード)

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