タイ・バンコクにおいて、日本最大級のアイドルフェスティバルであるTOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)シリーズの海外編が初開催された。2018年4月27~29日のことだ。大手国内アイドルフェスの@JAMシリーズに続く、大規模フェスの海外展開になる。国内で実績を積み上げてきたTIFが、ここに来て海外進出を推し進めようとする狙いはどこにあるのか。昨年からTIFの総合プロデューサーに就任し、今回のTIF in BANGKOKのプロデューサーでもあるフジテレビジョンの菊竹龍氏にその真意を聞いた。

2020年をゴールにしたストーリーの起点

――今回、TIFとしては初の海外進出となりましたが、このタイミングで海外に展開するキッカケが何かあったのでしょうか?

菊竹龍氏(以下、菊竹): アイドルフェスとしてはすでに@JAMさんが先駆けて海外展開されていて、総合プロデューサーの橋元さん(橋元恵一氏、Zeppライブ)からは、収益面でなかなか厳しいことを以前から聞いていたこともあり、TIFとしてはなかなか踏み出せずにいました。ただ、きちんと2020年を一つのゴールに設定してTIFのブランディングを構築していく時に、2020年にいきなり何かをやるのではなくて、今年2018年からストーリーを作って3カ年で2020年につなげていきたいと考えました。そのストーリーの起点として今回踏み出したということです。

――最初の地にタイを選ばれたのは、何か理由があるのでしょうか?

菊竹: 実は昨年のTIFで海外チケットを購入した人が一番多かったのがタイだったんです。そこで、まずはマーケティング的にタイがアイドルシーンにもっとも親和性が高いと考え、第一候補に挙がりました。さらに、もともと親日的な国として潜在的なマーケットの可能性が高いことと、ここ最近のBNK48(注)さんの台頭が判断の要素として影響しました。

(注)BNK48:AKB48をプロデュースする秋元康氏が総合プロデューサーを務めるタイのアイドルグループ。AKB48グループの一つで、2017年から活動を開始し、現在はタイ国内で絶大な人気を誇っている


――“潜在的な可能性”とBNK48について、もう少し詳しく教えていただけますか?

菊竹: 基本的にタイの方は日本文化が好きです。もともと日本にとってそういう潜在的なマーケットの可能性があるところに、ちょうどK-POPアイドルの人気が沈静化した状況も加わり、今がまさにその時と考えました。韓流ブームの反動もあって、これからタイでは、日本のアイドルブーム初期のころのような女の子っぽいアイドルがウケるようになると考えました。だから、今回タイに参加してもらったアイドルグループは、愛乙女☆DOLL(ラブリードール:ラブドル)さんやネコプラ(TIF初出演、海外初遠征の感想をインタビュー。後半のコラムを参照)さんといった、いわゆる“楽曲派”ではない王道アイドルの方々を中心に出演オファーしました。

 また、BNK48さんについてですが、タイのアイドル市場も含めて最新の情報は、タイで以前から付き合いのあるアーティスト事務所を通じていろいろ話を聞いていました。そこから、どうやら本格的に「BNKがすごいらしい」という情報を得ました。今や、タイのアイドル市場ではBNK48さんが1強となっているようです。また、これに伴い、48グループさんや46グループ(乃木坂46や欅坂46など)さんの人気も非常に高くなっていることが分かりました。

タイ・バンコクで爆発的人気を誇るBNK48。TIF in BANGKOKのステージにて
[画像のクリックで拡大表示]

AKBグループを軸にしたキャスティングとSNSで集客

――現地での集客はどのようにしたのですか?

菊竹: このように、タイのアイドルシーンがBNK48さんを中心に盛り上がっていると感じたので、まずは「48グループさんとタイならではの企画を考えたい!」ということで、NGT48(新潟のAKB48グループ)さんとJKT48(インドネシア・ジャカルタの48グループ)さんに声をかけ、さらにBNK48さんとそれぞれ毎日コラボする展開を考えました。タイでは、このように48グループさんが3組も集まることは初めて。それが現地で大きな話題を呼びました。

 大変多くの集客ができた(フジテレビ発表値で1万5000人)一番の要因は、こうしたキャスティングによるものじゃないかと思っています。また、日本から連れていったほかのアイドルグループさんも無作為に選んだわけではなくて、地道にタイでワンマンライブなどを開いているアキシブprojectさんやラブドルさんなどを選んでいます。

 プロモーション自体は、タイではSNSメディアとしてFacebookが最強ということもあり、そこをベースにBNK48さんの拡散力を利用して記者会見の映像などを流しました。そうすると、これが何万回も再生もされたんです。さらに、タイの若者文化の特性なんでしょうが、日本に比べて「いいね」や「シェアする」ことのハードルが大変低いので、あっと言う間に何万シェアもされるという効果も出てきました。

インドネシア・ジャカルタのJKT48。AKB48グループとしてはBNK48の先輩格になる。 TIF in BANGKOKのステージにて
[画像のクリックで拡大表示]
日本のアイドルグループ、アキシブproject。海外遠征の経験もある。 TIF in BANGKOKのステージにて
[画像のクリックで拡大表示]
日本のアイドルグループ、愛乙女☆DOLL(ラブリードール)。“かわいい系”代表のアイドル、 TIF in BANGKOKのステージにて
[画像のクリックで拡大表示]

――タイのアイドルファンの様子はいかがでしたか?

菊竹: 日本から来てくれたファンの何十倍ものタイの方に来場していただけたので、会場はものすごい熱気に包まれました。これは「現地でファンを獲得したい」という僕の狙い通りだったので、大変ありがたかったです。そうした様子をじかに肌で感じたことで、市場の未来が見えた気がします。

アイドルの海外進出の第2段階に入ったアジア

――アイドルの立場から見た場合、海外進出の意義ってなんでしょうか?

菊竹: 僕はアイドルの運営さんではないので実際は語れる立場ではないんですけれど、これまでのアイドルの海外展開って、日本でのプレゼンス向上が大きかったんじゃないかと思うんです。要するに、「○○○○というイベントで海外展開しました」とか、「わたしたちは海外でもこんなに人気なんです」といったような日本国内に向けたアピールですね。だから、赤字でも海外遠征を続けてきたと思うんです。

TIF総合プロデューサーで、TIF in BANGKOKのプロデューサーも務めるフジテレビの菊竹龍氏
[画像のクリックで拡大表示]

 それがここにきて、現地でアイドルがマネタイズできる気配が濃厚になってきている。これはすごくいい傾向なんです。今回のバンコクでも、アイドルの物販が飛ぶように売れていました。日本の価格とほぼ同じ設定をしているところが多かったので、タイと日本の物価の違いを考慮すると、これは驚くべきことだと思います。今回は入場無料だったのですが、次回からは有料で集客できると確信したのは、そういうところからです。アイドルのアジア進出はいよいよ次のステージへ入ったんじゃないかと思っています。

今後の課題はマネタイズと評価の“見える化”

――TIFの海外展開について今後はどのようにお考えですか?

菊竹: 来年以降もやりたいと考えています。どこで開催するかが大きなポイントですが、TIFの海外チケット販売数から言うと第2位の中国が候補に挙がります。都市は上海あたりが良いと思っています。中国市場については、すでにいろいろ調べています。バンコクのBNK48のような強力なグループが存在するわけではなく、日本のような地下アイドルグループがいっぱいあって、現在でもどんどん生まれつつあるんですよ。

――課題は何かありますか?

菊竹: 課題だらけで、語り尽くせないくらい反省点が出てきますね(笑)。まぁ、もっとも大きな反省点はがっつり赤字なことですね(笑)。ただ今回は、2020年に向けたストーリーの起点として開催する意義もありましたから、そこら辺の評価は総合的に判断すべきと考えています。

 あとは、日本のアイドルがタイの人たちに受け入れられている状況をもっと目に見えて分かるようにしてあげたいというのもあります。例えば将来的に、オフィシャルファンクラブツアーなどを作ってパッケージ化し、日本からアイドルが行くとこんなに熱狂的に現地に受け入れられて、ちゃんと収入も得られるということをアイドル運営さん側にもっと分かりやすくしたいと思いますね。

アイドルをアニメ、ゲームに続く日本の柱に

――2020年をゴールにして、具体的に何をしていくのでしょうか?

菊竹: 今は、オリンピック開催期間のど真ん中でTIFをやりたいと思っています。実際できるかどうかは自信ないですけど(笑)。ただし、2020年だけで収益を上げようとは思っていないんです。今回、海外展開して初めて分かったんですけど、「海外に日本文化を持っていく」となった時に、現地の人が期待するのはやはりアニメとゲームなんですよね。僕は、そこにアイドルを加えたいんです。

 2020年には全世界がお台場を注目してくれるので、そこに向けてTIFをぶつけていく。「日本のアイドル文化ってすごいな」「日本はやっぱりアニメ・ゲーム・アイドルだよね」って言ってもらえるように、アイドルをアニメ、ゲームに続く日本の海外展開やインバウンドの柱にできれば、今後、日本のアイドル界は安泰ですよね。そこが今のゴールです。

――そのためのTIFということですね。

菊竹: そうです。アニメやゲームの海外マーケットの大きさは半端ないですからね。マーチャンダイジングをやっていた経験から、アニメの『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』の海外物販に伴うロイヤルティー収入の大きさを目の当たりにしていて……。きっと『ポケットモンスター』や『妖怪ウォッチ』『ドラえもん』などの知的財産権による収入もものすごいと思います。

 だから、アイドルもそうなってくれたらいいなと考えています。タイで市場調査をしたところ、アニメや映画の登場人物のフィギュアなどは日本より高い価格で売られていても、バンバン売れるんです。もう、ファンが買い漁って行くような状況。だから、確かにそこに可能性はあるんです。僕は、それをアイドルに引き寄せたい。アイドルをアニメ、ゲームに続く柱にしたいって考えているんです。

初海外遠征のアイドルグループ ネコプラに現地の印象を聞く

ネコプラ
前身のNECO PLASTICは2016年12月から活動を開始し、メンバーの脱退を経て2017年10月に活動を休止。その後、事務所を移籍し、グループ名も「ネコプラ」として2017年11月から活動を再開。現在のメンバーは、ゆきの、ゆい、ゆりな、みく、ももの5人。インタビューには、所属する事務所(FreeK)の社長でプロデューサーの小口馨氏に加わっていただいた。また、メンバーのももさんは体調不良のため、インタビューは欠席した。

日本のアイドルグループ、ネコプラ。今回のTIF in BANGKOKが初の海外遠征となる。TIF in BANGKOKのステージにて
[画像のクリックで拡大表示]

――今回が初めての海外遠征、そしてTIFには初出場ですね。現地に来て感じた率直な感想を教えてください。

ゆりな:TIF自体がわたしの中では憧れのイベントだったんですが、まさか日本のTIFより前に海外のTIFに出ることになるとは思ってもいませんでした。最初に出演の話を聞いたときには本当にびっくりしましたし、「わたしたちが出ていいのかな?」という気持ちがありました。共演する方はすごい方たちばかりだし、ネコプラはまだできたばかりなのに選んでいただけて、すごくうれしく感じたのと同時に、大きな責任がかかっていると思って、より一層頑張んなきゃって思いました。

ネコプラのメンバー、ゆりなさん
[画像のクリックで拡大表示]

ゆい:まず、タイに行くのが決まったときは、言っている意味が分からなかったです(笑)。タイに行く1週間前くらいになって、それまでは旅行気分の自分がいたのですが、「仕事をしにいくんだな」ってようやく実感するようになりました。なんかもう、人ごとで「すごいなぁ」みたいな感覚でしたね(笑)。

ネコプラのメンバー、ゆいさん
[画像のクリックで拡大表示]

――事前にタイのファン向けに宣伝などしましたか?

ゆきの:ツイッターでタイ語のツイートを書いて、物販の宣伝をしたり、公式アカウントのアイコンをタイの国旗にしてアカウント名にタイの国旗や象の絵文字を入れたりしました。

ネコプラのメンバー、ゆきのさん
[画像のクリックで拡大表示]

――事務所として、タイ遠征の経験はあるのですか?

小口:アイドルの仕事としては初めてなんです。なので、何も分からないに近い状況でした。プロモーションの仕方も分かりませんでしたし、せいぜいメンバーに集合時間などを伝えられたくらいです。ただ、ほかの事務所さんと違ったのは、知り合いの現地のコーディネーターさんに、最初から最後までずっと付いてもらったこと。現地にはイベントの2日前に入り、イベント会場やオフ会の場所など訪れる予定の場所を全部見て、どこが一番楽しいのか、どこの条件がいいのか、メンバーと一緒に徹底的に相談しました。

――タイのファンの方たちはどうでしたか?

みく:温かい人たちばかりでしたね。オフ会や特典会で、わたしたちと話すためにわざわざ日本語を勉強してくれたりするところとか。日本語って難しい言葉だと思うのですけど、そうまでしてわたしたちのところに来てくれるのが、すごくうれしかったです。

ネコプラのメンバー、みくさん
[画像のクリックで拡大表示]

ゆりな:アイドルをアイドルとして見てくれているのがすごく伝わってきました。タイの人はわたしたちに憧れをもって接してくれて、それが本当に新鮮でしたね。「自分ってアイドルだったんだ!」って思う瞬間が多かったです(笑)。

――これからの目標を教えてもらえますか?

ゆきの:せっかくバンコクまで呼んでもらったのだから、これからも続けてタイに呼んでもらえるようになりたいと思います。ライブでは、何か爪痕を残せたらいいなと思っています。また、日本のファンにもバンコクのファンにも喜ばれるような何かを、これからちゃんと考えてやっていかないといけないなと思っています。

ネコプラのメンバー、ももさん。今回のインタビューには欠席となった
[画像のクリックで拡大表示]


(文/野崎勝弘=メディアリード)