いきなり! ステーキの人気メニュー「ワイルドステーキ」。300gで1390円と破格に安いが、実はランチ時に「ライス抜き」にすればさらに100円下がる。付け合わせのコーンをブロッコリーに変更することで、糖質制限の強い味方となる
いきなり! ステーキの人気メニュー「ワイルドステーキ」。300gで1390円と破格に安いが、実はランチ時に「ライス抜き」にすればさらに100円下がる。付け合わせのコーンをブロッコリーに変更することで、糖質制限の強い味方となる

 記念日に高価なステーキを食べにいく――。長らくハレの日需要を中核に据えてきたステーキ店に価格破壊が起こり、日常的にステーキを食べる「肉食」ブームが到来。好調な市場を背景に、各チェーンがさまざまな特色を打ち出す時代へと突入し、消費者の選択肢が一気に増えた。

「立ち食い」「高回転」による安さが武器

 好調の牽引役は、ペッパーフードサービスの「いきなり!ステーキ」だ。人気を博した「俺のイタリアン」の業態を参考に、「立ち食い」「高回転」による圧倒的な安さを武器に売り上げを急拡大。2018年2月、社長の一瀬邦夫氏は、「18年度には200店の新規出店を目指す」と豪語し、出店攻勢をかける。16年に展開したロードサイド店が大成功し、今後は地方にもブームが波及する見込み。どこででも格安で本格ステーキが楽しめる土壌が整いつつある。

 人気の秘密は安さだけではなく、味に対する評価も高い。例えば、看板メニューの「ワイルドステーキ」(税別1390円)で使う肉は「本来なら硬過ぎてぶ厚いステーキには向かない、すき焼き用の肩ロース」(同社)だが、美味しく食べられる秘訣がある。実はワイルドステーキのみ、蓄熱性が高い専用の鉄板を使用している。20分たっても80℃程度に熱が保たれるため、肉が冷えることがなく、熱々かつ軟らかい状態を維持できるという。

 良質なタンパク質を好む健康志向もブームを後押ししており、糖質制限ダイエッターも売り上げの一翼を担う。ワイルドステーキは、ランチ時にライスを抜けば100円割り引かれ、税別1290円になりコスパがさらに上がる。付け合わせのコーンを、糖質の少ないブロッコリーに変更すれば、糖質制限御用達メニューへと「進化」する。

 14年7月から開始した「肉マイレージカード」はお得度が高く、リピーターが後を絶たない。単なるポイントカードではなく、専用の電子マネー機能があり、チャージする金額によって最大3%のボーナス付与がある。さらに、毎月29日に開催されている「肉の日」特典を使えば、最大で15%もお得になる。食べた肉の量により、ドリンク無料提供などの特典が強化されていくランク制で、割引クーポン提供や誕生月に肉300gプレゼントもある。

掲載している内容は4月中旬時点のもの。各チェーンの売上高や店舗数は、直近の決算情報や月次報告などをベースにまとめた。価格軸は各社の主要メニューから、リブロースもしくはサーロインのステーキ300gを元に作成。肉の部位は安い方を選択
掲載している内容は4月中旬時点のもの。各チェーンの売上高や店舗数は、直近の決算情報や月次報告などをベースにまとめた。価格軸は各社の主要メニューから、リブロースもしくはサーロインのステーキ300gを元に作成。肉の部位は安い方を選択

 いきなり! ステーキの好調を受け、各地に相次いで似た業態のライバル店が登場している。18年1月、ついに大手の「ステーキのあさくま」がメニュー構成や価格帯が「ほぼ同じ」の「やっぱりあさくま」を東京に出店。「3年で100店舗を目指す」とし、一騎打ちを挑む。

 サラダバーを武器にお得さを訴求するのが、ファミレス系チェーンだ。なかでも、ブロンコビリーは常時14種類の野菜を用意し、食物繊維が豊富なロマネスコや紅芯大根といった珍しい野菜も扱う。年に5回のメニュー見直しをすることで、シーズン需要を喚起するなど注力している。

 ハレの日需要を、さらに取り込もうとする動きもある。ステーキのあさくまでは、子供が店員とともにステーキ調理に挑戦するグリル体験ができる。家族の記念日に利用し、特別感を演出する試みが好評だ。

さわだけんじ氏。 西洋料理のプロフェッショナルで素材や料理論に精通する料理研究家。今回は、都内にて全4店舗を回り、焼く際のテクニックや味付けの方向性などをチェックした
さわだけんじ氏。 西洋料理のプロフェッショナルで素材や料理論に精通する料理研究家。今回は、都内にて全4店舗を回り、焼く際のテクニックや味付けの方向性などをチェックした

 市場を席巻しているいきなり! ステーキのうまさの秘密は「肉の厚さ」だ。肉の部位によってオーダーできる最低グラム数が違うのは、厚さを確保するため。ステーキは、カリッと焼けた表面の香ばしさと、焼き過ぎない軟らかな内部とのバランスによっておいしさが決まるからだ。例えば、厚みを出しやすいヒレ肉は200g、一方でリブロースは300gからとなる。

 ライバル各社は、1ポンド(約450グラム)クラスの塊肉を相次いで発売し、いきなり! ステーキを追撃する。ビッグボーイは、17年の「サマーステーキフェス」で投入した「The Rockステーキ」が好評を博し、グランドメニュー入りした。

 では、どのチェーンの塊肉ステーキがうまいのか。「ステーキは肉質もさることながら、味付けと焼き方も重要」と語る、料理研究家のさわだけんじ氏に実食してもらった。450gの肉をオーダーし、焼き加減が指定できる場合はミディアムレアとした。

4社の「1ポンドステーキ」を検証! 「塊肉」最強決定戦

厚さ3.1cm(実測)。肉に余分な脂身や筋がなく、カットの丁寧さがうかがえる。表面の焼き色は完璧で、中はややレアめの仕上がり。ペレットで焼き加減を調整するスタイル。しょうゆベースの専用ソースがある
厚さ3.1cm(実測)。肉に余分な脂身や筋がなく、カットの丁寧さがうかがえる。表面の焼き色は完璧で、中はややレアめの仕上がり。ペレットで焼き加減を調整するスタイル。しょうゆベースの専用ソースがある
断トツの厚さ5.7cm(実測)とコスパが群を抜く。外側の焼き目は良く、中はレア感を残している。イチボ肉のため焼き過ぎると肉に硬さが出るので、鉄板とペレットで加熱しながら軟らかい状態を保ちつつ楽しみたい
断トツの厚さ5.7cm(実測)とコスパが群を抜く。外側の焼き目は良く、中はレア感を残している。イチボ肉のため焼き過ぎると肉に硬さが出るので、鉄板とペレットで加熱しながら軟らかい状態を保ちつつ楽しみたい

 1g当たり4.4円の高いコスパと5.7cmの分厚さを両立したのがビッグボーイだ。使われているイチボという部位は、焼き過ぎると硬くなりやすいが、「厚さがあるので内部に火を通し過ぎず提供できている」(さわだ氏)という。備え付けのペレットで加熱しながら食べれば、軟らかな肉を楽しめる。

 外側はしっかり焼きつつ、加熱によって硬くなる層を抑えた焼き方上手が、いきなり! ステーキとやっぱりあさくまだ。両社の違いは内部の焼き加減。やっぱりあさくまのほうが、内部の焼きが少し浅く仕上がっていた。

厚さは3.5cm(実測)。表面の焼き色が少なく、シンプルな仕上がり。ソースバーがあり、8種類のなかから好みで選び、これらを駆使して楽しみたい。中はレアの仕上がりのため、ペレットを活用して仕上げていく
厚さは3.5cm(実測)。表面の焼き色が少なく、シンプルな仕上がり。ソースバーがあり、8種類のなかから好みで選び、これらを駆使して楽しみたい。中はレアの仕上がりのため、ペレットを活用して仕上げていく
厚さは3.2cm(実測)で、完璧な焼き上がりを見せた。カリッと焼けた表面と程よく肉汁がしたたる内部のバランスが良い。ニンニク、ワサビ、しょうゆなど各種調味料を用意。専用ソースは、かんきつ系の味が感じられる
厚さは3.2cm(実測)で、完璧な焼き上がりを見せた。カリッと焼けた表面と程よく肉汁がしたたる内部のバランスが良い。ニンニク、ワサビ、しょうゆなど各種調味料を用意。専用ソースは、かんきつ系の味が感じられる
(注)4月上旬に都内の各チェーンで上記メニューを注文し、焼き加減や肉の厚さを調査した。ビッグボーイの「The Rockステーキ」の価格は単品の場合


(文/日経トレンディ編集部)

※日経トレンディ 2018年6月号の記事を再構成

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