“3つの工夫”で「うんこ」を受け入れやすくした

――3018もの例文を「うんこ」という言葉を使って作る作業は大変だったと思いますが、何に一番苦労しましたか。

古屋: 面白い例文を作ることはもちろんですが、ほかにも“3つのルール”を設けました。

  まず、うんこを「食べる」、あるいは「くさい」といった想像すると嫌悪されるような例文は避けること。例えば、「カレーだと思って食べたらうんこだった」という例文は具体的にイメージできてしまい、気持ち悪いですからね。

  あと、物質としてのうんこの汚さをなくすような表現にも心がけました。「春らしい色のうんこだ」「うんこにも羽が生えたらいいのに」などはその代表例。具体性を極力そぎ落とし、抽象化することによって、うんこの生々しさやリアリティーを薄める工夫をしていったわけです。

  さらに、「友だちのカバンにうんこを入れた」「君のうんこを見て気持ち悪くなった」など、いじめにつながるような例文は避け、「君のうんこを見たおかげで元気になった」と、ポジティブな例文になるように工夫しました。

  嫌悪感をなくすこと、生々しさを薄めること、ポジティブな例文にするという3つの工夫によって、子どもだけでなく親も受け入れやすくなったのではないでしょうか。

――学習効果を高めるために、例文や熟語の良し悪しを判断する監修者にも途中から加わってもらったようですね。

古屋: 学習参考書や漢字ドリルを制作してきた実績のある編集プロダクションに協力してもらいました。ただ、それは僕が例文を作り始めて1年以上経ってからなんですよ。山本が「すまん、古屋、せっかく作ってもらった例文と熟語だが、監修者を入れて一から作り直したい」と言い出したんです。

  それから、「この例文は子供に読ませたくないので要検討」「熟語は優先度を考慮してこれに変えたほうがいい」と取捨選択を進めました。その過程でおそらく1000くらいの例文がボツになっています。最初から監修者に入ってもらっていれば、こうした二度手間は防げたのでは、というのが僕の本音です(笑)。ここまでくると、山本から「すまん、古屋、出版できなくなった」と宣告されることも覚悟しなければならないと思い始めました。

――完成までに幾多の工夫や苦労があったのですね。ほかに気を付けたことは?

古屋: 例文の内容ができるだけ重複しないように気を付けたこともポイントです。「うんこ」を使ってかぶらないように例文を約3000も作るのですから、簡単なことではありません。

  やり遂げるためにはどこかにこもって一気に片付けたほうがいいと考え、一人で沖縄に飛びました。そこで約1週間、海沿いのホテルに缶詰めになって作ったんです。沖縄を選んだのは、オーシャンビューで空と海しか見えない景色の中、自分のイマジネーションを解放して、例文作りに没頭したかったから(笑)。食べるときと寝るとき以外は、うんこの例文のことだけを考え続けました。このひとり合宿のおかげで制作は随分とはかどり、苦難を乗り切ることができたのです。

学校で習う1006字の必修漢字それぞれに対して3つずつ、合計3018の例文を掲載。特に貿易の「貿」、汽船の「汽」といった読み方も意味も限定される漢字に苦労したという
[画像のクリックで拡大表示]