アイドルグループ「乃木坂46」に所属する白石麻衣さんの2冊目の写真集「白石麻衣写真集 パスポート」(以下パスポート)が20万部を超えるヒットとなった。出版元の講談社は「女性ソロ写真集としては今世紀最大の売り上げ」とコメント。なぜ「パスポート」がこれだけ売れたのだろうか? 講談社で「パスポート」の編集を担当した谷口晴紀さんにヒットの要因を聞いた。

「白石麻衣写真集 パスポート」(講談社)
「白石麻衣写真集 パスポート」(講談社)
撮影/中村和孝 2017年2月7日発売。定価:1944円(税込み) ソフトカバーB5判変形 144ページ

白石さんの女性からの支持が売り上げをけん引

 まずは20万部に至る道のりを整理しておこう。「パスポート」の発売が告知されたのは2016年12月8日。初版は乃木坂46のメンバーとしては最高の10万部と発表された。その後、事前予約の反響の高さを考慮し、発売前に2度の重版を決定。2017年2月7日の発売日には13万部を発行し、発売後1週間で10万4000冊を売り上げた。発売後も6回にわたる重版がなされ、4月11日現在で20万部以上を発行する異例のヒットとなっている。

 「パスポート」がヒットした要因はいくつかあるが、一番は白石さん本人の魅力だ。乃木坂46のメンバーであることに加え、月刊女性ファッション誌「Ray」(主婦の友社)の専属モデルとしても活動している彼女は、その美しさから20代前半を中心とした女性層からの支持が圧倒的に高い。通常、女性アイドルの写真集といえば、購入層の約9割が男性であり、女性の購入比率は1割前後にとどまる。しかし、「パスポート」の購入者層は3割以上が女性だ。この割合は、女性ファッション誌の専属モデルを務める他の女性タレントの写真集と比較しても高いという。

 乃木坂46や白石さん個人のファンが購入しているのはもちろんのこと、今まで女性の写真集を買ったことがないような女性も新たな購入者層として部数の底上げに貢献した。実際、若い女性の利用率が高い「TSUTAYA 渋谷店」では、他の店舗よりも多い数千冊規模で「パスポート」が売れたようだ。

 「イマドキの女性はキレイなものを見てそれに近づこうと努力するようです。自分が憧れる美しい女性の写真集は“見る美容液”ともいえる役割になっているのではないでしょうか」と谷口さんは話す。

女性の読者を意識した白石さんの“美しさ”を前面に押し出したカットも多く収録されている(写真提供:講談社)
女性の読者を意識した白石さんの“美しさ”を前面に押し出したカットも多く収録されている(写真提供:講談社)

セクシーカットの使い方を工夫して女性支持を広げる

 「パスポート」のコンセプトは、“おしゃれでセクシー”。実は乃木坂46は「清純派アイドルグループ」という戦略を採ってきたため、露出の少ないカワイイ衣装でテレビや雑誌に登場することが多い。

 ところが今回は、初のランジェリーカットや水着、さらに乃木坂46史上最高のセクシーカットも収録されている。彼女の意気込みが感じられる内容となっている。とはいえ、谷口さんによると“女性が見て嫌悪しない”という点には最大限の配慮をしたようで、男性が望むようなセクシーなカットを入れつつも、女性ファッション誌のようなオシャレで白石さんの美しさを最大限に引き出した写真も多く掲載した。

 「インパクトのあるセクシーカットは数点にして、全体を女性ファッション誌のようなオシャレな写真で構成しました。男性はインパクトのあるセクシーカットが数点あるだけでも満足してもらえると考えたのです」(谷口さん)

 セクシーカットと、女性が好む美しいカットをうまく両立させたのが「パスポート」の特徴であり、ヒットにつながった要因のひとつだ。ほかにも表紙は男性向け写真集にありがちな光沢のあるものではなく女性が好む半光沢にし、本としての大きさ(判型)も女性が手に取りやすいサイズにした。このように「いかに女性から受け入れてもらうか」という点ではさまざまな工夫がなされた。

 白石さん自身もこの写真集に対する意気込みは相当だったようで、4日間で行われたロサンゼルスとサンディエゴでの撮影では、初日に写真集の山場となる下着や露出のあるカットを撮り終えている。彼女は4日間で1万枚近く撮った写真から4時間以上かけて掲載カットを自身でもセレクトし、「パスポート」の内容をとても気に入っているとのことだ。

一見するとレースだけしか着ていないようなセクシーカットも掲載。今までの白石さんにはなかった“おしゃれでセクシー”というコンセプトが話題になりヒットをけん引した(写真提供:講談社)
一見するとレースだけしか着ていないようなセクシーカットも掲載。今までの白石さんにはなかった“おしゃれでセクシー”というコンセプトが話題になりヒットをけん引した(写真提供:講談社)

初版10万部というニュースがさらなる好循環を生んだ

 白石さん本人の魅力や意気込み以外にもヒットの要因はあった。

 まずは、写真集では異例の“見せるマーケティング”だ。「パスポート」は144ページで構成されているが、そのうち40ページ近い写真をネットなどで期間を分けて小出しに公開している。従来の写真集では見栄えの良いものを数枚というのが通例という。

 「スポーツ新聞やネットニュースでたまたま知ったファン以外の一般層をどれだけ取り込めるかが課題でした。見せずに期待感をあおるよりも、内容が素晴らしいのでドンドン見せて知ってもらったほうが良いセールスになると思いました」と谷口さん。この考え方は功を奏し、ネットなどで「白石麻衣の写真集がすごいらしい」と拡散された。何もないよりは、写真があったほうがSNSなどで話題にされやすいということだろう。

 続いての要因は、予約の開始から発売まで2カ月と比較的長い期間を設けたこと。ネット書店などで十分な予約期間を設けるのが狙いだ。もちろん前述の“見せるマーケティング”効果で、話題が途切れないように努力したので、予約状況も好調に推移した。

 この「好調な予約」が最後のヒットの要因を生む。それが「初版で10万部を発行する」というニュースだ。これがネットなどを駆け抜け、「“そんなに話題作なら見てみたい”“発売日に買えるか心配だから予約しよう”というムードが生まれました」と谷口さんは話す。「乃木坂46のファンが期待する1冊から世間が注目する1冊になった」と実感したという。

 予約が好調なことから「発売前に重版する」というニュースも発信できた。こちらもネットを中心に話題となり、最終的には通常の5倍もの予約が集まったという。さらに発売日の2月7日の前後には他の乃木坂46のメンバー4人の写真集も各社から発売されており、5冊で累計55万部を突破するという「乃木坂46現象」も起こっている。さまざまな書店の写真集の棚で乃木坂46のコーナーが設けられ、店頭でのプロモーションも成功している。

 写真集「パスポート」は、こうして20万部の大ヒットとなった。白石さんの美しさ、写真集としての完成度の高さはもちろん、“見せるマーケティング”や話題作りをタイミングよく1つずつ積み上げたことがヒットにつながったといえそうだ。

写真のセレクトは白石さん本人も参加。特にこの衣装のカットがお気に入りだという(写真提供:講談社)
写真のセレクトは白石さん本人も参加。特にこの衣装のカットがお気に入りだという(写真提供:講談社)

(文/シバタススム)

■変更履歴
記事タイトルを「乃木坂 白石麻衣の写真集が“今世紀最大ヒット”のワケ」から「乃木坂・白石麻衣の写真集パスポートが今世紀最大ヒットのワケ」に変更しました[2020/2/20 13:00]
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