ここ最近、麺の代わりに豆腐や肉を入れた“麺なしラーメン”を提供するラーメン店が続々と増えている。前回の記事「“麺なしラーメン”大増殖の怪 代わりに肉や豆腐!?」では麺なしラーメンを提供する3店舗を紹介したが、後編ではそれぞれのラーメン店、そしてカップ入りの「麺なしラーメン」を発売した日清食品に、麺を抜いた理由を聞いた。

ロカボブームに加え、「飽きさせない」という狙いも

  麺なしラーメン増加の背景には、ロカボ(糖質を制限した食事)ブームもあるだろう。人気メニューのラーメンの糖質オフシリーズとして「7種の魚介らーめん 麺抜き」を提供する無添くら寿司の狙いは、その名の通り糖質オフだ。

 だが、舎鈴を運営する松富士食品 営業企画部の平澤歩氏は、「顧客の来店回数をもっと増やしたいということも、麺の代わりに肉を使った『つけ肉』発売の目的のひとつ。同じ店舗でもつけめんとつけ肉、2種類のメニューを交互に食べることで飽きずに通うことができる」と話す。

 また、一風堂の「白丸とんこつ豆腐」は糖質オフを狙ったのではなく、「豚骨スープに豆腐を入れたらおいしかったというのが主な理由」だと、同店を運営する力の源ホールディングス広報の山口恵子氏は説明する。「一風堂の看板ラーメンである白丸元味の新しい味わいを楽しんでもらいたい」(山口氏)と、顧客満足の拡大や新規顧客の開拓を狙う。実際に「想像よりもボリュームがあった」という声や「お酒を飲んだ後のシメにいい」という声も多いそうだ。また、糖質を気にする人はもちろん、小麦アレルギーで麺が食べられない人からも喜ばれているという。「時間はかかると思うが、今後の広がりに大きな可能性を感じている。これからも地道に取り組んでいきたい」と山口氏は話す。

2017年12月12日から提供を開始した一風堂の新・麺なしメニュー「赤丸とんこつ豆腐」(税込み850円)。絹ごしとんこつスープをベースに、唐辛子、ヤンニンジャン、豆板醤、ゴマ油をミックスした辛味噌を加え、キリッとした辛味だけでなく後を引くうまみがあるのが特徴
2017年12月12日から提供を開始した一風堂の新・麺なしメニュー「赤丸とんこつ豆腐」(税込み850円)。絹ごしとんこつスープをベースに、唐辛子、ヤンニンジャン、豆板醤、ゴマ油をミックスした辛味噌を加え、キリッとした辛味だけでなく後を引くうまみがあるのが特徴
「からかとんこつ豆腐(税込み890円)。絹ごしとんこつスープをベースに、豆板醤や甜麺醤などを独自に配合した肉味噌をトッピングし、山椒などのスパイスを利かせている
「からかとんこつ豆腐(税込み890円)。絹ごしとんこつスープをベースに、豆板醤や甜麺醤などを独自に配合した肉味噌をトッピングし、山椒などのスパイスを利かせている

日清食品も麺なしラーメン市場に参入

 麺なしラーメンブームは、家庭にも拡大。カップ麺のパイオニアである日清食品までがついに、麺の代わりにフリーズドライの豆腐を使用した「日清麺なしラーメン」シリーズ2品を2017年8月21日に発売した。

日清食品が2017年8月21日に発売した「日清麺なしラーメン 豚骨豆腐スープ」(写真左、税別170円)は豚骨のうまみを生かした「濃厚コク旨豚骨スープ」を使用。1カップで糖質3.6g、67kcal。「日清麺なしラーメン 担々豆腐スープ」(写真右、税別170円)はゴマのうまみを生かした「濃厚旨辛坦々スープ」を使用。1カップで糖質3.2g、76kcal
日清食品が2017年8月21日に発売した「日清麺なしラーメン 豚骨豆腐スープ」(写真左、税別170円)は豚骨のうまみを生かした「濃厚コク旨豚骨スープ」を使用。1カップで糖質3.6g、67kcal。「日清麺なしラーメン 担々豆腐スープ」(写真右、税別170円)はゴマのうまみを生かした「濃厚旨辛坦々スープ」を使用。1カップで糖質3.2g、76kcal

 日清麺なしラーメンシリーズ開発の背景にあるのは、やはり糖質をオフしたいというニーズの高まりだという。「日清食品は麺が本業だが、ロカボの流れは無視できない。一過性のブームというより、ひとつの食の在り方として根付いている」と日清食品マーケティング部 第8グループの吉田和広ブランドマネージャーは話す。ロカボの流れは避けられないがラーメン離れは阻止したい。そこで同社が着目したのは、カップ麺の具材で培ってきた「お湯をかけて戻す」フリーズドライの技術だった。

 なかでも独自に開発した、お湯をかけて30秒で戻る豆腐には定評があり、マッチ箱大の豆腐を崩しながら食べる乾燥おぼろ豆腐入りのカップスープを販売した実績もあった。「長年にわたってカップ麺を開発してきた歴史のなかで、麺と同じようにラーメンスープにも他社に負けないノウハウを蓄積している。ラーメンスープとフリーズドライ豆腐、ふたつの独自技術という強みをかけあわせたのが『日清麺なしラーメン』シリーズといえる」(吉田ブランドマネージャー)。また、社内では「即席麺のパイオニアとして、『麺を入れない』というチャレンジも最初にやったほうがいい」という意見も挙がっていたという。

麺よりもスープが好きなラーメンファンに響いた

 開発当初は同社のブランド「麺の達人」「スープの達人」「つけ麺の達人」に続く「豆腐の達人」という商品名を考えていた。だが、「『麺なしラーメン』とはっきり銘打ったほうが、即席麺の日清食品があえて麺のないラーメンスープを作ったという特徴が伝わりやすいし、そこに面白さを感じてトライする人が多いのではと考えた」(吉田ブランドマネージャー)。

日清麺なしラーメンシリーズに使用されているフリーズドライの豆腐。このサイズでも30秒でとろりとした豆腐に戻る。スープとの相性も良かった
日清麺なしラーメンシリーズに使用されているフリーズドライの豆腐。このサイズでも30秒でとろりとした豆腐に戻る。スープとの相性も良かった
豆腐は湯を注いだ段階ではほぼ原形が保たれているが、軟らかいのでスープと混ぜると細かくなる。豚骨豆腐スープは(麺と比較するとボリューム不足ではあるが)、スープそのものが濃厚で食べ応えがあり、軽食としては十分だと感じた
豆腐は湯を注いだ段階ではほぼ原形が保たれているが、軟らかいのでスープと混ぜると細かくなる。豚骨豆腐スープは(麺と比較するとボリューム不足ではあるが)、スープそのものが濃厚で食べ応えがあり、軽食としては十分だと感じた
「担々豆腐スープ」はスープが少しサラッとしているせいか、豆腐だけでは少々ボリューム不足に感じる人もいるかもしれない
「担々豆腐スープ」はスープが少しサラッとしているせいか、豆腐だけでは少々ボリューム不足に感じる人もいるかもしれない

 カップスープはカップ麺に比べると市場規模が小さいので、新商品を発売しても反響はさほど大きくないという。だが、同商品には販売の継続を求める声や購入先についての問い合わせが多く、2018年には新提案を加えたリニューアルを予定している。「ラーメンの味わい方は人それぞれ違うが、どちらかというとスープが好きな人で、さらに糖質制限をしているという人に響いたのではないか」と吉田ブランドマネージャーは分析する。

 スープ好きの人に受けたという見解には、舎鈴を運営する松富士食品の平澤氏も同意する。舎鈴ではスープのおいしさをもっと知ってもらいたいと考えたことも、つけ肉を考案した理由の1つとのこと。「麺なしラーメンが増えている背景には、ラーメンの具とスープが進化し、麺なしでもおいしく食べられるようになってきていることもあるのではないか」(平澤氏)。

 食べる側にとっては喫食回数が増えても栄養的な偏りが少なくなり、ラーメン業界にとってはユーザー減少の歯止めとなる可能性がある「麺なしラーメン」。今後、さらに拡大していきそうだ。

(文/桑原恵美子)

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