VRの実証実験としてスタート

 体験後、西武鉄道鉄道本部計画管理部鉄道計画課の武川俊仁氏、豊島園事業企画部事業企画課の宮内靖代氏、ダズルのVR開発ディレクター 中山昌弥氏にお話をうかがった。

―― この「怨霊廃線VR」はどんな経緯で企画が立ち上がったのでしょうか?

武川俊仁氏(以下、武川氏): 西武鉄道で新技術を使ったものづくりを模索していたときに、お客様の受けもよく、市場での汎用性が高いVRを使ったコンテンツを作ろうということになりました。そしてお客様に体験していただきたいと思い、としまえんという場所を選びました。

―― 職業体験を組み合わせるという点が非常にユニークですが、これは当初から盛り込まれていた要素なんでしょうか?

武川氏: としまえんさんが立ち上げたものならエンターテインメントに徹するものでよいと思いますが、今回は西武鉄道が企画を立ち上げたことに意味がありました。そこで、いかに職業体験の要素を盛り込むかに注力して開発を進めました。

 今回の「怨霊廃線VR」では、線路の異常が感知されて警告が出たときに、コンソールを5秒間見続けることで「検査完了」と認定されるルールです。終了後に5段階で作業内容が評価されますが、怨霊を見つけた数とともに、線路の異常をちゃんと検査できたのかも評価の対象です。

―― VR技術を生かす実証実験を兼ねているとのことですが、エンターテインメント以外の活用方法を検討しているのでしょうか?

武川氏: まず従業員教育です。それと、鉄道事業というとゲーム『電車でGO!!』に代表されるように、車両を運転する部分だけがクローズアップされがちです。しかし夜間の保線作業など、鉄道を運行するにはさまざまな仕事が必要で、大勢の人が働いているんです。そうした部分をVRで体験して知ってもらうなど、お客さまへの啓発にも活用したいと思っています。

ライド型アトラクションとの見事なシンクロは、シンプルな手法で実現

――想定している動員数は?

宮内靖代氏: 期間中のトータルで3万人を見込んでいます。としまえんではこの「怨霊廃線VR」がVRを使った初めてのコンテンツで、新技術に対しての試金石的な意味合いがあります。反響次第ですが、ほかにもいろいろ企画を進めていきたいと思っています。

使用されたVRゴーグルのスマートフォンは、すぐさま充電台に置かれ、充電が終わったものから再度ゴーグルに装着されていく。こうしたオペレーションもとしまえんとしては初の試みだ
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―― ダズル側としては開発で苦労された点などありますか?

中山昌弥氏(以下、中山氏): 今までさまざまなVRコンテンツを手がけてきましたが、新規ではなく、すでに稼働中のライド型アトラクションに合わせて作るのは初の試みでした。コンテンツとゴンドラの動きを同期させることに気を使いました。

―― どうやって同期させているのでしょうか?

中山氏: 当初はIoTデバイスの活用なども考えていましたが、最もシンプルな手法を採ることにしました。映像が始まる際に、VRゴーグルに装着したスマートフォンのフラッシュを点灯させ、オペレーターがそれを見てゴンドラのスタートボタンを押しています。ゴンドラの動きがかなり正確なので、途中途中で同期を取る必要はありませんでした。ただ、映像の内容とゴンドラの動きをいかにシンクロさせるかが大変で、まずは何度もゴンドラに乗ってその動きの正確なタイムテーブルを作るところからスタートし、それに合わせた演出を考えていきました。

―― 演出面などでは西武鉄道側の意向も盛り込まれているのでしょうか?

中山氏: 遠隔地からリモートでデータを更新できる仕組みを使い、西武鉄道さんからいただいたご意見を随時反映させながら開発を進めていきました。

武川氏: 企画のスタートが2017年の6月。ダズルさんに話を持ちかけたのが9月、正式に開発が始まったのが10月で、実質的な開発期間はほぼ2カ月です。テストのために数え切れないくらい乗り、気づいた点はダズル側に連絡してリモートですぐに修正してもらうという作業を重ねました。最終的には全編360度、どの方向に何が見えるのかまで完全に覚えてしまいました(笑)。