米国発の定額制動画配信サービスが日本で出そろってから、かれこれ3年がたつ。そんななか、各サービスが戦略の見直しを余儀なくされている。米国では米ウォルト・ディズニーが米21世紀フォックス(FOX)の買収を発表したことで、今後、コンテンツの奪い合いが激しさを増していくことが予想される。日本市場でも同じようなことが起こるのか。

地上波ドラマの「見逃し配信」ニーズの高まり

 世界最大手のNetflixが、鳴り物入りで日本でサービスを開始したのは2015年9月。時を同じくして、アマゾンもプライム・ビデオを始めた。日本での会員数が最大規模のdTV(NTTドコモとエイベックス通信放送が提供)も同年に大幅リニューアルを図った。前後して、2011年から日本市場に参入していたHuluは、2014年に日本テレビ傘下に入って立て直しが進み、従来から動画配信サービスを提供していたU-NEXTなど日本資本系も並んで、乱立状態が続いているのが日本の定額制動画配信サービスの現状だ。

 当初、「定額で見放題」をうたう動画配信サービスが先行したのは「コンテンツの品ぞろえ」だった。動画配信ならではの「ビンジウォッチング=一気見」と呼ぶ視聴の仕方を売りに、連続ドラマがかつてないほどに流通し、供給先も多いことから、コンテンツホルダーにとって「バブル」とも言える時期を迎えた。

 だがここにきて、その状況に変化が見え始めている。例えばHuluは、世界的にヒットしたファンタジードラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』や日本でも根強い人気の『セックス・アンド・ザ・シティ』など、名作ドラマをそろえる米HBOと2016年に日本国内における独占契約を締結したが、人気コンテンツの総合ランキングでは即日配信される日本テレビ系のドラマやバラエティーが上位を占める。サービス各社が買いそろえた「海外ドラマ」は人気作に集中するのみのため、「買い控え」が起こりつつあるという。

Huluには地上波ドラマの見逃し配信コンテンツがずらりと並ぶ。画像はHuluのウェブサイトから
Huluには地上波ドラマの見逃し配信コンテンツがずらりと並ぶ。画像はHuluのウェブサイトから

 逆にニーズが高まっているのが、地上波ドラマの「見逃し配信」だ。コンテンツホルダーとしてのテレビ東京の動きは象徴的だ。2014年前からNTTぷららと協業し、人気深夜ドラマ『孤独のグルメ』などが放送される「ドラマ24」枠のドラマを放送直後にNTTぷららで配信、「ドラマ25」枠は1週間前から同じくNTTぷららで先行配信。さらに2016年4月からは「土曜ドラマ24」枠をAmazonプライムビデオで独占先行配信し、2017年4月からは「木ドラ25」枠をNetflixで独占配信し、ドラマ枠はほぼ外部提携している。

オリジナル番組から見えてくる各社コンテンツ戦略

 一方で、NetflixやHulu、アマゾン、dtvなど、各社はそろってオリジナル番組による囲い込みも強化している。ドラマだけでなく、アニメ、バラエティー、リアリティーショー、ドキュメンタリーなどと、一定層に向けてジャンルの幅を広げていることが最近の特徴だ。

 海外で人気のあるお見合い形式の恋愛リアリティーショーは『バチェラー』の日本版や『テラスハウス』などが挙げられる。アマゾンのプライム・ビデオで配信されている『バチェラー・ジャパン』はまもなくシーズン2の開始を控えているし、Netflixでは『テラスハウス』に続いて『あいのり』の新作も配信され、一定層から支持されているという。ドラマやアニメほど人気のあるジャンルではないが、各社共通の課題としている女性層を取り込めることからラインアップに加えられている。

プライム・ビデオでは2018年春から『バチェラー・ジャパン』のシーズン2の配信を開始する
プライム・ビデオでは2018年春から『バチェラー・ジャパン』のシーズン2の配信を開始する

 ドキュメンタリーも最近動きがあるジャンルだ。決して売れ線ではないが、各社の動画配信サービスのブランドイメージを高めるからだろう。日本オリジナルのドキュメンタリーは、アマゾンのプライム・ビデオで4Kドキュメンタリーシリーズ『日本のこころに出会う』が配信されている程度で、ほかに目立つものはないものの、NetflixやHuluが、国際共同制作を目的に日本で開催されているドキュメンタリーの企画会議「Tokyo Docs」に2016年、2017年と2年続けて出席している。骨太のドキュメンタリー番組の展開も視野に入れていると見ていいだろう。

独り勝ちするライバルを蹴落とす米国の買収劇

 動画配信サービスが普及している米国では、ライバルを蹴落とそうとする動きも激しさを増しそうだ。独自の動画配信サービスを計画するディズニーがFOX買収を計画しているのは、独り勝ちするNetflixの対抗策であることは明らか。既存のコンテンツはもちろんのこと、IP(ドラマやアニメ、そのキャラクターなどの知的財産)の開発段階から囲い込みを始めようとしている。ライバルには、YouTubeが提供する定額制サービスのYouTube Redや、Facebookが開始したFacebookビデオなど、資本力のあるテクノロジー系企業も登場しているからだ。Facebookは2017年10月にフランス・カンヌで開催された番組コンテンツ見本市MIPCOMで、近々、世界展開を開始する考えを明らかにした。

Facebookのグローバルクリエイティブ戦略の責任者、リッキー・バン・ビーン氏は、同社最大の構想であるオリジナル番組制作の戦略について、同社制作ディレクターのダニエル・ダンカー氏と共にMIPCOM2017のキーノートセッションに登壇し、説明を行った (C) Y. COATSALIOU / 360 MEDIAS
Facebookのグローバルクリエイティブ戦略の責任者、リッキー・バン・ビーン氏は、同社最大の構想であるオリジナル番組制作の戦略について、同社制作ディレクターのダニエル・ダンカー氏と共にMIPCOM2017のキーノートセッションに登壇し、説明を行った (C) Y. COATSALIOU / 360 MEDIAS
Facebookのグローバルクリエイティブ戦略の責任者、リッキー・バン・ビーン氏
Facebookのグローバルクリエイティブ戦略の責任者、リッキー・バン・ビーン氏

 日本でも新たな大型のプラットフォームの誕生が控えている。日本経済新聞社、TBSホールディングス、テレビ東京、WOWOWら6社共同による定額制動画配信サービス「Paravi」が2018年4月からスタートする。しかし、6社の中には既にコンテンツプロバイダーとして他社の動画配信サービスにコンテンツを提供している企業や、自社の動画配信サービスを持っている企業もある。それなのに、共同で後発となる新たなサービスを立ち上げる狙いは何か。

 関係者は、「いずれプラットフォームが淘汰された時に、市場原理として流通側に価格決定権を握られる恐れがある。その対策として立ち上げる意味はあります。毛色の違ったコンテンツプロバイダー同士が組むことでバリエーションを作りながら、リスクを最小限に抑えることができるはず」と話す。

 国内外の動画配信サービスが乱立する中、今は、コンテンツ制作力と技術力、資本力の3つを併せ持つ企業だけが勢力を強めていく向きが強い。2018年、この乱立状態を打破する一手を打てるのはどこなのか。まずはそこに注目である。

(文/長谷川朋子=テレビ業界ジャーナリスト)

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