2017年12月13日、東京・六本木のニコファーレで「闘会議2018」の発表会が開催された。2018年2月に開催予定の闘会議2018は、国内でのeスポーツの歴史的な転換点になるかもしれないという。
カドカワ傘下のドワンゴが運営するniconicoと、同じくカドカワの傘下であるGzブレインが闘会議2018の発表会を開催。来年2月10、11日の2日間に幕張メッセで開催予定の同イベントの概要を発表した。
「闘会議」とは、さまざまなタイトルのゲーム大会を中心としたファン参加型の一大イベントだ。2015年から始まり、毎年来場者を大きく伸ばした。今年2月に開催された「闘会議2017」では、アーケードゲームの展示発表会「ジャパンアミューズメントエキスポ」と同時開催となったこともあり、6万8000人以上の来場者が訪れた。
加えて、11月18日には、一般社団法人デジタルメディア協会(AMD)が闘会議2018に賞金1000万円を拠出すると表明(関連記事:デジタルメディア協会がeスポーツ大会の賞金を支援)。今回の発表会については、「世界的ムーブメントとなり、いよいよ国内でも本格始動する“eスポーツ”の新たな取り組みについて」明らかにするという事前告知もされていたことから、ゲームに関心のある報道関係者から注目されていた。
「第3回 スプラトゥーン甲子園」などを発表
まずはドワンゴ取締役の夏野剛氏をホストに、「闘会議2018」運営長の中野真氏、同じく運営の奥井晶久氏による司会進行で「闘会議2018」の大会概要や、パートナー企業、パートナー企画などを発表した。
パートナー企業は、特別パートナーである任天堂を筆頭に、バンダイナムコエンターテインメント、ユービーアイソフト、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、スクウェア・エニックス、カプコン、コナミデジタルエンタテインメントなどが名を連ねる。
同時に複数のパートナー企画が発表された。その中で、注目度の高さでいえば、任天堂による「第3回 スプラトゥーン甲子園」が一番だろう。Nintendo Switchで大ヒットを続ける『スプラトゥーン2』を使った初の大会になるということで、観客席に座る来場者たちの反応からも期待のほどが見て取れた。
さらに、現時点ではタイトルは未定ながら、PlayStationの特別出展、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)』でのDMM GAMESの特別協力も発表された。
プロライセンスの発行、JOCへの加盟に道開く
その後、話題は事前に告知されていた「“eスポーツ”の新たな取り組み」に移った。
その内容は、今まで日本eスポーツ協会(JeSPA)、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟(JeSF)の3つが乱立していたプロゲーマー団体を1つに統一し、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)と日本オンラインゲーム協会(JOGA)がバックアップ、これら5団体で来春にもeスポーツの新団体を発足するというものだ。
この新団体はeスポーツのプロライセンスを発行する。発行予定のタイトルは、『ウイニングイレブン 2018』『ストリートファイターV アーケードエディション』『鉄拳7』『パズル&ドラゴンズ』『モンスターストライク』の5つ(2017年12月13日時点)。また、「闘会議2018」に主催として加わり、闘会議2018をプロライセンス発行の幕開けとなるイベントにするという。
プロライセンス発行の目的の1つは、eスポーツに対する法的しばりの回避だ。現状、国内で賞金付きの大会を開催しようとすると、景品表示法や賭博に絡んださまざまな法に抵触する可能性がある。これが日本でeスポーツが拡大しない理由の1つとも言われてきた。
今後、プロライセンスを発行することで、ゴルフなどのプロスポーツと同じように日本でも法に触れることなく賞金付きの大会を開催することが可能になるという。さらに、3つあった団体が1つに統一されれば、日本オリンピック委員会(JOC)への加盟に向けた道も開ける。海外で開催されるeスポーツの国際大会に日本代表として選手を送れるようになり、停滞していた国内におけるeスポーツの状況が一気に打開される可能性がある。
壇上の夏野氏はこの発表について、「これまではゲームメーカーだけの産業だったものが、ゲームで食べていくプロが何百人と増え、エンターテインメントとして見る人も出てくれば、ゲームが一段上の産業として発展する」と語り、「(ゲームメーカーだけでなく)ユーザーサイドも産業へと発展する」という見識を示した。
その後、ステージには、Sun-Gence代表取締役で、プロのeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」のCEOも務める梅崎伸幸氏、山佐がスポンサーとしてサポートするプロゲーマーのノビ氏、ゲームライターで格闘ゲームの凄腕プレーヤーとしても知られるブンブン丸氏の3名がゲストとして登壇。新団体発足など、今回の発表についての意見を交わした。
「闘会議2018」はゲームが産業として拡大する第一歩
既にプロゲーマーとして活動している梅崎氏、ノビ氏、ゲーム大会の運営など幅広い活動をしてきたブンブン丸氏の3人とも、今回の新団体設立に関してはかなり好意的に見ているようだ。特にプロライセンス発行によって、国内でも賞金付きの大会が公に開催できるようになることは、プレーヤー層の拡大、プロゲーマーの質の向上、大会の増加などに良い効果が期待できるという。
一方で、ライセンス発行の基準や、現時点で既にプロとして活動している人たちや海外から来て国内大会に参加するプレーヤーを、新団体がどう扱うのかなど、不明点が多いことも指摘された。これについては、新団体発足時に発表されるというレギュレーションを待つしかないだろう。
ちなみに現時点で確定しているプロライセンス発行予定タイトルは、前述の通り、5タイトルにとどまっている。なかにはスマートフォン向けでプレーヤーがほぼ国内に限られるタイトルもあるが、これについてブンブン丸氏は、国内のコミュニティが活性化し、プロとしての活動が維持できる状況が整えば問題ないという意見。タイトルによっては無理に海外と競う構図を作る必要はないというわけだ。
前述のようにAMDからは今回の「闘会議2018」に対し、1000万円の賞金を拠出することが決定している。各タイトルへの分配など詳細はまだ未定とのことだが、主催団体とは違うところから賞金面での協賛が行われるこの構図こそが、「産業として拡大する」ことそのものだと夏野氏は語った。
今まで各所で散々語られてきたように、国内では景品表示法や賭博に絡んださまざまな法規制の問題があり、賞金付きのeスポーツ大会の開催は非常に困難だった。プロライセンスの発行で、これをクリアできる可能性がある。一方で、ゲストの梅崎氏が指摘したように、eスポーツで先行する他国を見ても、eスポーツでプロライセンス制度を設けている国はない。結果的に日本はeスポーツにおいて、世界でも類を見ない、独自の道を歩もうとしている。
この動きに対しては世界的にも注目されているようで、「闘会議2018」には国際eスポーツ団体のIeSF(韓国)、eGames(英国)などが視察に来るという。
また、国内でeスポーツが急激に注目を浴びるようになってきた背景には、国際競技大会の存在が大きい。2020年の東京オリンピックについてはほぼ白紙状態だが、2018年の第18回アジア競技大会(インドネシア・ジャカルタ)ではeスポーツが公開競技に決定。2018年の韓国・平昌冬季オリンピックに合わせてインテルがeスポーツの大会を開催すること、2022年の第19回アジア競技大会(中国・杭州)では正式競技とすることが決定している。さらに2024年のフランス・パリ夏季オリンピックでも、オリンピック正式種目への採用が検討されている。
今回発表された新団体がJOCに加盟すれば、こうした国際大会に向けた選手の選出も一本化されることになる。ゆくゆくはサッカーなどのように、国家的なプレーヤー育成、ナショナルチームの編成も行われるようになるかもしれない。その点において、新団体設立は、eスポーツにおける国際的な競争力獲得に向けた武器となる可能性を秘めている。
その第一歩としてライセンス認定や初の賞金制大会が実施される「闘会議2018」は、国内のeスポーツシーンの歴史的なイベントになるだろう。これを転換点に、今まで停滞していた国内のeスポーツが飛躍的発展を遂げるかどうか。今後の動向に注目したい。
(文・写真/稲垣宗彦)