2018年10月20日、六本木アカデミーヒルズで「Scratch 2018 Tokyo」が開催された。招待講演には慶應義塾大学 環境情報学部教授である村井純氏が登壇した。インターネットの技術基盤づくりに携わった自身の経験に基づきながら、これからの時代の子どもたちがインターネットを有効活用するためのアプローチについて語った(関連記事)。(大類 賢一=タンクフル)

インターネット普及の過程は、文明の成り立ちと同様の流れを経ている

「インターネットやデジタルを指して、文明と呼ぶ人はあまりいない。しかし、インターネットの開発に長く携わっていると、『インターネット文明』という存在にリアリティが出てくる」と村井氏は講演の冒頭で語った。

 文明の成り立ちには「科学や数学」「社会」「文化」「技術」「道具」「地理」、そして「他文明との衝突」などの要因が大きくかかわっていると村井氏は説明する。そのように考えると、インターネットは従来の文明と同様に、科学や数学によって誕生し、社会や文化、技術など、さまざまな分野に変化をもたらしてきた

 インターネットにとって、地理はどのような意味合いを持っているのだろうか。村井氏はインターネットの基盤づくりに関わった当時について、「地理のことは考えなかった」と振り返る。

「地球全体に広がるインターネットの上には一つのセグメントしかなく、セパレーションは存在していない。インターネットは私たち人類が手にした、まったく新しい空間といえる」(村井氏)

 セパレーションのない環境であれば、文明にとって重要な「他文明との衝突」は生じないように見える。しかし村井氏は、「コンフリクトはある」と指摘する。デジタルテクノロジーの普及によって、成り立たなくなるビジネスが存在するためだ。

「インターネットを作るうえで、既存の通信にかかわる会社との間にはさまざまな交渉が必要となった。従来の文明にとって、インターネット文明はコンフリクトの元になりかねない」(村井氏)

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 村井氏がインターネット文明を論じるうえで、重要視する一冊の本がある。それは、自らが勤務する慶応義塾大学の創立者である福沢諭吉が1866年に発行した『西洋事情』だ。福沢諭吉が幕末から明治にかけて著したこの本には、のちのインターネット文明につながる内容が記されていると村井氏は指摘する。

「アメリカでの留学中、二本の電柱が電信をする様子を見た福沢諭吉は、『蒸気』『済人』『電気』『傳信』という言葉を添えて、次のような絵を描いていた。それは、世界中に電柱が立っていて、その上を飛脚が走る、という絵である。1866年ごろに書かれたものだが、これはインターネットそのものを表しているといえる。地球が一つの空間となってつながり、その上を飛脚が走って情報を伝達させる。飛脚は、まさにネットワークの上を走るデータである。実際のところ、私たちは現在もこのコンセプトでインターネットの開発を進めている」