格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーション(大阪府泉南郡)は来春、民泊サービス大手のAirbnbと連携してCtoC(消費者間取引)事業に参入する。ピーチが新たに始めるウェブサービス「COTABI(コタビ)」は「人から検索」をコンセプトに掲げた新しい旅行サービスだ。

 CtoCとはフリーマーケットアプリの「メルカリ」やライドシェアサービス「Uber」など、消費者間で物品を販売したり、サービスを提供したりする業態を指す。Airbnbも消費者間で家を貸し借りするCtoCサービスの一種だ。

 COTABIもこのCtoCサービスに位置付けられる。ウェブサイト上で旅行プランを探して予約できるサービスだが、その旅行プランを作るのは一般の利用者だ。誰でも旅行プランナーになって旅行プランを販売し合えるのがサービスの特徴となる。

「COTABI」は誰でも旅行プランナーになれるサービス
「COTABI」は誰でも旅行プランナーになれるサービス

 利用者は自分自身の旅行の経験を基にお薦めの宿泊施設、体験したアウトドアサービス、食事をした飲食店などを組み合わせて、自分の旅の思い出を旅行プランとしてCOTABI上で販売できる。管理画面から画面の指示に従って、宿泊施設や飲食店の登録、旅行で撮影した写真などをアップロードしていくだけで、簡単に旅行プランを作れるようになるという。

 ピーチはCOTABIで旅行プランに組み込める宿泊施設や体験サービス、飲食店などの情報に網羅性を持たせるために、そういったサービスの予約事業を展開する企業と提携をする方針だ。当初は他社のデータを活用するが、「将来的には自社で独自の予約システムを開発する」(ピーチ)。

 また、COTABIはAirbnbと連携しているため、Airbnb上に掲載されている民泊の施設を旅行プランに組み込むことも可能だ。Airbnbは体験予約の拡充にも力を入れており、「東京、大阪を中心に金つぎや味噌造りなど300以上の体験をすでにAirbnbで予約できるようにしている」(Airbnb)。こうしたAirbnbが開拓した体験サービスもCOTABIで旅行プランに組み込めるようにする。

 旅行希望者は旅行プランを作っているユーザーの中から、服装や価値観などから自分と似ている人を選ぶ。そして、そのユーザーが作った旅行プランを予約するだけで、プランに組み込まれている宿泊施設や飲食店などを一括して予約できる。価値観の近い人から旅行プランを選ぶサービスであることが、人から検索というコンセプトの由来となっている。

趣味やライフスタイルで選べる旅

 COTABIはこうして、利用者間で旅行プランを作り販売し合える新しい形の旅行サービスとなる。東京都内で実施した発表会に登壇したピーチの井上慎一代表取締役CEO(最高経営責任者)は「旅行は札幌へ行きたいなど、目的地から計画を立てるのが一般的だった。ただ、これからは個人の趣味やライフスタイルから旅行を予約できる仕組みを作りたい」と意気込む。

記者発表会では全日本空輸(ANA)とAirbnbの提携も発表された。左から発表会に登壇したANAの志岐隆史代表取締役副社長、Airbnb Japanの田邉泰之代表取締役、ピーチ・アビエーションの井上慎一代表取締役CEO
記者発表会では全日本空輸(ANA)とAirbnbの提携も発表された。左から発表会に登壇したANAの志岐隆史代表取締役副社長、Airbnb Japanの田邉泰之代表取締役、ピーチ・アビエーションの井上慎一代表取締役CEO

 ただし、当初は利用者の作った旅行プランが売れても作成者は報酬などを得られない。「現行の旅行業法では、行政庁に登録しなければ報酬を得ることは許されない。そのため、今後、ポイントでの還元や成果報酬型の広告サービスとして提供できるかどうかなども含めて検討していく」(Airbnb)。

 ピーチがこのようなCtoC事業の着想に至るきっかけとなったのが、2017年3月に就航5周年を記念して実施したキャンペーンだ。同キャンペーンは、写真・動画特化型SNS「Instagram」で影響力のあるインフルエンサーを起用して、インフルエンサーが旅行先で投稿した写真を利用して日替わりで旅行を提案するもの。同キャンペーンは前年同時期のキャンペーンと比較して2.4倍の売り上げとなる、大きな成果を上げたという。

11月6日から先行してCOTABIのサイトを開設中。Airbnbに新規登録した利用者に3000円分のクーポンを提供している
11月6日から先行してCOTABIのサイトを開設中。Airbnbに新規登録した利用者に3000円分のクーポンを提供している

 キャンペーンは成功を収めたものの、営業部隊には小さなどよめきが起こった。というのも、旅行業者としてはアマチュアのインフルエンサーの投稿した写真に、プロの旅行業者であるピーチの営業部隊が販促力で圧倒的な差をつけられたとも言えるからだ。「これまでの努力はいったいなんだったのか」、営業部隊にはそんな激震が走ったと井上氏は振り返る。しかし、逆に新たなビジネスチャンスの発見にもつながった。「CtoCのコミュニケーションを活用した、新しい旅のスタイルに大きな可能性を感じた」(井上氏)。そこで時代に合わせた新事業の開発の検討を始めたCOTABIの開発にはこんな背景がある。

 ピーチはCOTABIの本格開始に先駆けCOTABIのサイトを11月6日に開設。Airbnb、インフルエンサーと共同で開発した旅行プランを販売中だ。起用したインフルエンサーを通じてサービスを拡散して、COTABIを疑似体験してもらうことで、本格開始時までにサービス認知度を高めることを狙う。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)

この記事をいいね!する