余談だが、三連休明けの10月9日は、以前から出席する予定でいたファーストリテイリングの記者会見だった。その会場に、筆者は大胆にもZOZOのスーツとシャツを着て乗り込むことになった(パンツのウエストが緩いので、ベルトだけはジーユー製のものをチョイスしていった)。

 会見ではファーストリテイリングの柳井正会長兼社長に、お決まりのようにZOZOSUITについての質問も飛んだ。柳井社長は苦笑いしながら「人が採寸する方法以外にも、3Dスキャンやセンサーなど、ほかの技術は色々ある」とだけコメント。それを聞きながら筆者は心の中で「今日はZOZOのスーツとシャツを着てきたので、プロの目で見てください」とつぶやいていた。会見後の囲み取材で柳井社長を直撃しようとしたが、記者が多すぎて柳井社長に近寄れなかった。残念でならない(同日、ZOZOの前沢社長の会見もあったのだが、筆者は「月旅行」の話は聞きに行かなかった)。

 会見が終わり、夕方に会社に戻ると、最後の驚きが筆者を待っていた。ZOZOTOWNカスタマーサポートセンターからいきなり電話がかかってきたのだ。この3カ月、カスタマーサポートセンターとはメールのやり取りこそ何度かあったが、担当者と直接話すのは初めて。

 聞けば、早い段階で注文した顧客には納期遅延のお詫びをするとともに、スーツとシャツを届けた数日後に、こうして電話をかけて着心地を確認し、問題があれば無料でお直しをすることを伝えているのだという。

 筆者は仕事中だったこともあり、この電話には不意を突かれた。ウエストが緩めだったことと、しつけ糸がうまく切れないことは、はっきり伝えた。だがお直しまでは要求しなかった。パンツは履けないほどではないし、しつけ糸も頑張れば自分で切れるはず。もうここいらで、ZOZOとのやり取りは終わりにしたいという気持ちのほうが強かった。

 電話ではスーツとシャツの着心地を二度三度尋ねられた。筆者の頭には「値段相応」という言葉しか浮かんで来ず、返答に困った。別に電話をかけてきた担当者が悪いわけではないので、そこを強調しても意味がない。

 翌日の夜、カスタマーサポートセンターから今度はメールが届いた。しつけ糸の上手な切り方を写真入りで説明する内容だった。親切ではあるが、筆者はこれまでしつけ糸を切るのに困った経験はないし、ましてやコールセンターに助けを求めたことなどない。

 顧客によってはジャケットの型崩れを嫌い、ポケットのしつけ糸は切らずにそのままにしておく人もいるようだが、筆者にはその発想がなかった。ZOZOからのメールにそのように書かれていたわけではないが、おそらくしつけ糸を求める顧客を想定したスーツの作りを選択しているのだろう。メールの文面にやたらと「これは仕様です」という表現が目立ったのは気になったが、その仕様そのものがおかしくはないのか。ZOZOは顧客の声を聴きながら再検証していくことになるだろう。

 こうして長く奇妙な冒険の末、ZOZOのスーツとシャツは筆者の手元にそろった。この記事が出るまで毎日、会社に着て行っている。購入は全て自腹だ。顧客の1人として、PBの仕掛け人である前沢社長に聞いてみたいことは山ほどある。筆者は最初の顧客の1人であり、そして記者としても、前沢社長に会いに行く準備を始めようと思う。ドアは開けておいてほしい。

(文/川又 英紀=日経 xTECH)