スーツのような変わらない商品で「ベータ版」は許されない

 スーツの上下とシャツを着終えて、ZOZOの奇妙な冒険はひとまず終わったと安堵した。これまで筆者の愚痴ともいえる記事にお付き合いいただいた読者に感謝したい。

 明らかにサイズがおかしいスーツやシャツが届いた人は納得いくまで、ZOZOに何度でも作り直してもらうことをお勧めする。7月3日の記者会見で前沢友作社長はあれだけ大見えを切ったのだから、「あなたサイズ」になるまでは、ZOZOを甘やかしてはいけない。

 この3カ月、筆者は何人もの友人や会社の同僚から、「川又はZOZOにベータ版をつかまされたな」と言われてきた。全くその通りである。途中でサイズ生成プログラムに修正が入ったのは象徴的な出来事だし、8月末に一度出荷を延期した後、9月末になって腕周りが窮屈になるという商品不良が見つかるのは、どう考えても不完全な状態での発売開始だったと言えよう。みんなが「ベータ版」と言うのは的を射ている。

 ネットの世界では、サービスの見切り発車は珍しくない。まして、スーツとシャツのセットで2万4800円は割安だ。それでも決して少なくはないお金を支払っている顧客と、ZOZOはどう向き合っていくのか。カスタムオーダーのスーツとシャツの発売は、明らかに時期尚早だったのではないか。

 アパレル業界に詳しい会社の同僚は、こんなことを言っていた。「スマホのように、それまでの携帯電話とは全く異なる商品やサービスを出すときは、前例がないものだけに見切り発車でも許されるかもしれない。新しい物好きの人が最初に飛びつき、メーカーと一緒になって商品やサービスを育てていこうという気持ちもある。だがスーツとシャツのように昔から変わらない商品には、既に確立されたイメージや体験が顧客側にあり、容易に比較できてしまう。そうした商品を不完全なベータ版とも言える状態のまま、市場に投入すべきではなかったのではないか。もっと慎重になって、完璧な状態に仕上がってから紳士スーツに参入してもよかったはず」。実に示唆に飛んだ意見である。

 筆者を含め、いち早くZOZOでスーツとシャツを注文した人の多くは体型の悩みを抱え、ピッタリサイズの服の登場に大きな期待を寄せた人たちである。本来であれば、非常にロイヤルティーが高いZOZOのお得意様になる可能性が高い人ばかり。そんな大事な顧客がベータ版に思える改良の余地だらけのスーツとシャツをつかまされ、期待を裏切られたらどうなるか。怒って当然である。

 不可解なのは、ZOZOはいまだにスーツとシャツのセットに商品不良や納期遅延が発生していることを、ニュースリリースのような形で正式には公表していないことだ。筆者には理解できない。

 そんなこともあり、筆者はしつこく記事を書き続けてきた。まさか記者の眼で5回もZOZOの話を書くことになるとは思っていなかったが。「これで最終回」と書いてはみたものの、また問題が起きて続きを書く羽目になるかもしれない。

 例えば、スーツとシャツの汚れや耐久性。筆者はこれからしばらく、ZOZOのスーツとシャツを着て会社に通うつもりだ。筆者の場合、スーツやシャツは定期的にクリーニングに出すことにしているが、その際に生地やボタンがダメージを受けることがある。生地によっては汚れが落ちにくい場合だってあるだろう。雨や雪で生地が濡れたときにはどうなるかも気になる。

 届いたスーツもシャツも生地の厚みは薄めだし、縫製のレベルもまだはっきりとは分からない。1回スクワットをしただけでお尻が真っ二つに破けたり、軽く転んだだけで生地が破けるような軟な作りではないことを祈りたい。簡単にボタンが取れたりもしないでほしい。商品タグのところに、予備のボタンが付いているわけではない。

 こうした課題はある程度の期間、着てみないと見えてこない。この先は耐久性やメンテナンスのしやすさが試される。

 自社に都合のいいことばかり大々的に発表しては話題作りに走り、肝心の商品不良や納期遅延についてはきちんと語ろうとしないような企業から、顧客は無言で去っていく。顕在化した課題を顧客はフィードバックしてくれなくなる。「着てみてどうだったか」という情報は、これからのZOZOにとって貴重な財産になるはずである。それがなければ、ZOZOのPB戦略はなかなか進展しない。顧客と企業の双方にとって不幸な話である。