今年も9月20日から23日まで、千葉・幕張メッセで東京ゲームショウ2018(TGS2018)が開催された。出展社数は668企業・団体、総来場者数は29万8690人といずれも過去最高を記録。多くの新作タイトルやサービスが発表され、eスポーツ大会も活況だった。実際に会場の様子はどうだったのか? TGSから見えるゲーム業界のトレンドとは? 長年、TGSを見てきたライター3人がそれぞれの視点で振り返る。初回は野安ゆきお。

 今年の東京ゲームショウは、近年まれに見る大成功だった。大作ソフトがずらりとそろい、入場者数は過去最多を記録。私は例年、日経トレンディネットで女性タレントの体験レポートを担当しており、10タイトル前後の試遊に同行するのだが、今年は話題作全てを網羅することが物理的に不可能だった。こんなTGSは、ちょっと記憶にない。

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人気シリーズや名作のリメークがずらり

 会場全体の傾向としては、「〇〇周年記念!」と銘打ったタイトルが多かったことを挙げておきたい。20~30年前から続く人気シリーズの最新作はもちろん、過去にリリースされ、名作と呼ばれたソフトのフルリメーク作品など、昔ながらのゲームファンの心をつかむタイトルが多かったのだ。日本のゲーム文化が蓄積してきた“財産”を見せつけたゲームショウだったといっていい。

 裏を返せば、新機軸のタイトルが大々的にアピールされていなかったということでもあるのだが、それは、東京ゲームショウが「アーリーアダプターに向けた、まだ見ぬタイトルをアピールする場」としての役割を終え、一般のゲームファンに満足してもらい、「SNSなどを介して話題を拡散してもらうための場」へと変容しつつあるからだろう。

 これは東京ゲームショウのみならず、諸外国でも見られる傾向だ。ゲーム展示会は、ゲームファンが集う“年に一度のお祭り”としての側面が強まっている。TGSはそんな時代の潮流に乗って、大作やシリーズ作を前面に押し出す方向へとモデルチェンジし、華々しい成功につながったと考えている。

『バイオハザード RE:2』は、往年の名作の最新ハードでのフルリメーク版。このように、今年は過去の財産を活用したソフトが目立っていた(写真/志田彩香)
『バイオハザード RE:2』は、往年の名作の最新ハードでのフルリメーク版。このように、今年は過去の財産を活用したソフトが目立っていた(写真/志田彩香)

木村拓哉主演ゲームが閉塞を破るか

 そんな大作ソフトの中で、もっとも注目したいタイトルはセガゲームスの『JUDGE EYES:死神の遺言』。これまでも多くの有名俳優をゲームに登場させてきた「龍が如く」シリーズの開発陣が、日本のトップタレントである木村拓哉さんを自在に操作できるゲームを出展。ゲーム関係者はもちろん、他業界からも大きな話題を集めることに成功した。

 米国では、15年以上前からハリウッド映画のゲーム化が行われており、有名俳優がそのままゲーム内に登場することが珍しくなくなっている。これにより映像産業とゲーム産業がwin-winの関係になったのだが、その機運は日本にはなかなか伝播していなかった。そのため、日本では映像産業とゲーム産業が背を向け合うような閉塞した空気が、いまなお残っている。

 しかし、そうした閉塞感もいよいよ消し去ることができるかもしれない。試遊コーナーの前に集った大勢のゲームファンたちの笑顔を見て、そんなことを確信できたのは極めて喜ばしいことだった。

 今年はVR/ARコーナーも充実していた。昨年までは「こんな可能性があります」とアピールするための実験的な出展が多かったのに対し、今年は商品レベルにまで仕上げてきたものも多く、あと1~2年で一気に充実しそうな気配が濃厚だ。テクノロジーと、高い人気を誇るタレントがゲームに登場することの化学反応が起きたら、きっともっと素敵な時代が到来するだろう。今年のTGSは、そんな新しいゲーム文化が到来する予感を感じさせてくれる4日間だった。

『JUDGE EYES:死神の遺言』。日本トップクラスのタレントである木村拓哉さんを自在に操作するプレー感覚は、やはり格別だ
『JUDGE EYES:死神の遺言』。日本トップクラスのタレントである木村拓哉さんを自在に操作するプレー感覚は、やはり格別だ

成長分野に2つの懸念材料

 最後に懸念材料を2つだけ挙げておく。

 一つは、女性向けゲームを展示する「ロマンスゲームコーナー」に元気がなかったこと。ゲーム売り場に女児向けゲームコーナーがあり、スマホ向けを中心に大人の女性のためのゲームも充実していることは、日本ゲーム界が誇る文化である。その到達点の一つであるロマンスゲームコーナーは、毎年のように海外メディアからも注目されていたのだが、今年はまるで元気がなかった。

 女性向けゲームが、ジャンルとしての知名度を既に得たために、大々的に出展する必要がなくなったという判断もできるだろうが、年に1度のゲームのお祭りの場において「元気がない」という印象を残してしまったことは、あまりにも残念。ぜひとも来年以降の盛り上がりに期待したい。

 もう一つは、eスポーツのステージで感じた違和感だ。どのステージも盛況であり、それ自体は喜ばしいことだったのだが、熱心なファン以外は目を向けていない傾向が感じられたことを、ささやかながら指摘しておきたい。

 例えば、会場での実況アナウンスだ。「この攻撃は、“やみ”での“たてわり”で“ささる”かがポイントです!!」といった、専門用語が頻出していたのだ。TGSは、特定のゲームのファンだけが訪れる場ではないのだから、ここは「闇の属性による攻撃で敵の防御を破って(盾を割って)ダメージを与えられるかどうかですね」といった、より丁寧な実況が必要だっただろう。

 一般的なスポーツ中継の場合、熱心なファンが視聴するBS/CS放送では専門用語を使い、地上波放送では初心者でも分かるような解説をする、といった使い分けが一般化している。eスポーツも、これから広く普及していくにあたり、そんな改善が急務であることをひしひしと感じた。

eスポーツの大会は、それぞれが盛況だったからこそ、より広く普及させるための改善点が見えてきたといえる。写真は「パズドラチャンピオンシップ TOKYO GAME SHOW 2018」(写真/小林伸)
eスポーツの大会は、それぞれが盛況だったからこそ、より広く普及させるための改善点が見えてきたといえる。写真は「パズドラチャンピオンシップ TOKYO GAME SHOW 2018」(写真/小林伸)
野安ゆきお(のやす・ゆきお)
野安ゆきお(のやす・ゆきお) ファミコン時代からゲームライターとして活動開始。プレイしたゲームの本数は1000本を超える。ゲーム雑誌記事執筆の他、100冊を超える攻略本を編集・執筆。現在はフリーランスのゲームジャーナリストとして活動中。子供のころ海外を転々とした経歴があるため、異文化に馴染むのが得意。1968年東京生まれ

【東京ゲームショウ2018まとめ】

・「昨年から一転、大作ソフトの充実が目立ったゲームショウ」(この記事)
・「eスポーツ躍進の年 記録更新尽くしのゲームショウはどうなる?」(10/4公開)
・「広がるゲームの楽しみ方 ゲームショウはどう向き合うのか」(10/5公開)

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