電波状況に応じて速度を落としている

 通信速度が遅くなるのも、親機につながらなくなるのも、基本的には子機に届く電波(正しい電波信号)が弱くなるのが原因だ。電波が弱くなると通信速度が落ち、さらに通信を維持できないほど弱くなると、つながらなくなる。

 こうした現象は仕組み上2つの要因で起こる。親機と子機が通信する仕組みを詳しく見ながら解説しよう(図2)。

図2 すんなり高速で通信できるときはいいが、電波状況が悪くなると、通信可能な速度を調べる必要がある。それに時間がかかるうえ、つながっても低速での通信になるというダブルパンチに見舞われる
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 電波が十分に強ければ、最初から高速ですぐに通信を始められる。しかし電波状況が悪くなると、高速では通信できなくなる。すると親機は段階的に通信速度を落として、どの速度なら通信できるかを確かめる。すんなりと高速で通信できる場合と比べて、この速度調整作業が時間の無駄になる。これが1つめの速度低下要因だ。

 通信速度を落としても通信できなければ、つながらない。ある程度落としたところでOKと判断されれば通信が始まるが、これは速度を落としたうえでのこと。2つめの速度低下要因がこれだ。1つめと併せ、遅さのダブルパンチを食らった状態といえる。

 このため、快適に通信するためには、強い電波(強くて正しい電波信号)が不可欠だ。一般に、電波が弱くなる原因は「距離が遠い」「障害物がある」「混信している」の3つに分類できる(図3)。

図3 電波(正しい電波信号)が弱くなる主な原因は、「距離が遠い」「間に障害物がある」「ほかの通信の電波に干渉されて混信が起きる」の3つだ。電波状況を改善するには、こうした要因を取り除く必要がある
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 まず距離の問題から見ていこう。電波は、距離が遠くなるほど弱くなる(図4)。具体的には、距離の2乗に反比例して弱まっていく。距離が2倍なら4分の1、3倍なら9分の1になるわけだ。有線LANの信号強度が距離(ケーブル長)に反比例するのに比べると、Wi-Fiは距離に弱い通信といえる。

図4 快適に通信できている子機を2倍の距離の場所に移動すると、電波の強さは4分の1になってしまう。3倍なら9分の1だ。弱くなったからといってすぐに通信できなくなるわけではないが、ある程度のところから急に支障が出始める
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 次に、障害物について考えてみよう。一般的な家庭では、親機のすぐそばで通信するのでない限り、ドアや壁、家具などの障害物の影響を受けずに通信することは難しいだろう。ここでは、親機と子機の間に入る障害物の材質によって、電波の通りやすさが変わることをまずは頭に入れておこう(図5)。

図5 家庭内で使う場合、障害物の影響は避けられないが、その材質には気を配ろう。一般に、金属やコンクリートは電波が通過しにくく、木材や紙、ガラスなどは通過しやすい。親機の置き場所を考えるときなどのヒントになる
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 まず、最も避けたいのが金属。また、コンクリートも電波を通しにくい材質だ。このため、金属製のラックに親機を置いたり、子機が鉄筋コンクリートの柱の陰に置かれたりした場合は、通信が途切れるようなこともあり得る。

 一方、木材や紙、ガラスなどは電波を通しやすい。ふすまや障子、ガラス戸などを間に挟んで通信しても、それらの影響は受けにくい。

 ただし、UV(紫外線)カットや熱線反射などの特殊加工を施したガラスには、電波を吸収する素材が含まれている。このようなガラスが間にあると、電波は弱くなってしまう。

 3つめの混信は、同じ周波数帯を使う機器が増えると、Wi-Fiの電波状況が悪くなるという意味。その際、「混雑」と「干渉」という2つの視点がある。

 「混雑」は、同じ親機を使うWi-Fi子機が増えた場合に発生する。子機が増えると、通信の順番待ちが生じるからだ(図6)。基本的にWi-Fiの親機は、一度に1台の子機としか通信できない。子機が増えると、極めて短い時間間隔(ミリ秒単位)で通信相手を切り替えて電波を送信する。電波には各子機宛てのデータが乗っているが、子機側では自分宛て以外のデータは無視する。このため待ち時間が発生し、これが速度低下の要因となる。

図6 同じ親機を使う子機が増えると、親機は各子機へのデータを乗せた電波を順繰りに送信する(1)。子機は自分宛て以外のデータは無視するので(2)、子機の台数が増えると、順番待ちの時間が長くなる
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 現実には、これに衝突回避の問題が加わる。Wi-Fi機器はお互い譲り合って電波を出しており、ほかの機器が送信中は待機する仕組みになっている。数ミリ秒間隔で送信と待機を繰り返すことで、衝突を回避しているわけだ。子機が増えると、待機する機会が増えるため、実質的な通信速度が落ちる。

 この衝突回避問題は、隣の家から同じ周波数帯のWi-Fi電波が届く場合にも起こる。隣の家のWi-Fi機器が送信を終えるまで、我が家の機器は待機しなくてはならない。

 次に「干渉」の問題を見ていこう。2.4GHz帯を使う場合、Wi-Fi以外の機器と干渉する可能性がある(図7)。この周波数帯はISMバンドと呼ばれるものの1つで、産業(インダストリー)、科学(サイエンス)、医療(メディカル)などさまざまな通信に開放されている。それらの機器から電波が送出されると、2.4GHz帯で通信中のWi-Fi電波に干渉して、正しい電波信号が乱されてしまう可能性がある。

図7 2.4GHz 帯の場合は、Wi-Fi以外にも同じ周波数帯を使う機器がある。それがWi-Fiにとってはノイズになることも。例えば電子レンジは、製品によっては電波が漏れ出てしまうものがある。するとWi-Fiの信号が乱されてしまう
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 パソコンでおなじみのブルートゥースも2.4GHz帯を使う。また、家庭では電子レンジも要注意だ。加熱のために2.4GHz帯の電磁波を使うのだが、製品によってはその電磁波が漏れ出て、強いノイズになってしまうことがある。電子レンジの置き場所を変えた途端にWi-Fiがおかしくなったような場合は、電子レンジを疑おう。