家庭用プリンター市場で半分近いシェアを分け合うセイコーエプソンとキヤノンの2社が、2017年8月31日に年末商戦向けのインクジェット複合機を発表した。両社とも「プリンター本体の価格は手ごろ、交換用インクカートリッジの価格は高め」という主軸の製品は残しつつ、ユーザーが不満に感じる「インク代が高い」という点に応えた低コスト印刷のモデルを強化。古い機種からの買い替えや新規購入を促す。

大容量インクタンク搭載モデルへの移行を進めるエプソン

 大きく戦略転換を図るのがセイコーエプソンだ。これまで主力だった家庭用複合機「カラリオ」のラインアップを縮小する代わりに、大容量インクタンクを搭載する「エコタンク搭載プリンター」を拡充。インク代を気にせずジャンジャン印刷できる利便性を前面に打ち出し、プリンターが自宅にあることの魅力を訴求する。

セイコーエプソンは、インクボトル(中央)からインクをドボドボ注いで補充できる大容量インクタンク搭載モデル「エコタンク搭載プリンター」のラインアップを強化。カラリオからの移行を狙う
セイコーエプソンは、インクボトル(中央)からインクをドボドボ注いで補充できる大容量インクタンク搭載モデル「エコタンク搭載プリンター」のラインアップを強化。カラリオからの移行を狙う

 主力のカラリオと比べて知名度の低いエコタンク搭載プリンターを普及させるために取り組んだのが、本体の小型化と低価格化だ。これまでの製品は、既存のインクカートリッジ式の機種をベースに大容量インクタンクを後付けした構造だったので、インクタンクの分だけ横幅が大きくなっていた。だが、カラー複合機の新機種「EW-M571T」「EW-M670FT」は大容量インクタンクの搭載を前提にハードウエアを新規に設計し、横幅を大幅に縮小。価格も、最廉価のEW-M571Tは実売価格を4万円前後に抑えた。

エコタンク搭載のカラー複合機ではもっとも安いモデルとなる「EW-M571T」。実売価格は4万円前後
エコタンク搭載のカラー複合機ではもっとも安いモデルとなる「EW-M571T」。実売価格は4万円前後
EW-M571Tをベースに、ADF(自動用紙送り装置)やファックス機能、底面給紙カセットなどを追加したSOHO向けの「EW-M670FT」。実売価格は5万5000円前後
EW-M571Tをベースに、ADF(自動用紙送り装置)やファックス機能、底面給紙カセットなどを追加したSOHO向けの「EW-M670FT」。実売価格は5万5000円前後

 EW-M571TとEW-M670FTは、いずれも顔料ブラック+染料3色のインク構成となるので、デジカメプリントの画質はそこそこにとどまる。だが、標準で自動両面印刷に対応し、普通紙印刷の利便性を高めた。A4カラー文書の印刷コストも1枚あたり0.9円と、1円未満に抑えた。おもなターゲット層は店舗やSOHOだが、「デジカメプリントはネットプリントを利用するが、文書印刷や教材印刷などで普通紙への印刷は多用したい」と考える一般家庭にも売り込む。

 エコタンク搭載プリンター初のA3対応複合機「EW-M970A3T」も新たに投入する。この機種は顔料ブラック+染料4色のインク構成とし、デジカメプリントのクオリティーを高めた。

5色インクを採用するA3対応複合機「EW-M970A3T」。実売価格は8万5000円前後
5色インクを採用するA3対応複合機「EW-M970A3T」。実売価格は8万5000円前後

 インクカートリッジ式モデルながら交換インクの価格を抑え、コンスタントに印刷する人に向けた「カラリオV-edition」もラインアップを拡充する。「EP-50V」は、V-edition初のA3ノビ対応の単機能機。従来モデルよりも本体を大幅に小型軽量化した。インクは中間色を含む染料の6色で、デジカメ写真をたくさんプリントしたい人に向く。単機能機ながら前面にカラー液晶パネルを搭載し、Wi-Fiなどの設定をしやすくした。

プリンター本体の価格はやや高めながら、インクカートリッジの価格が安い「カラリオV-edition」もラインアップを拡充する
プリンター本体の価格はやや高めながら、インクカートリッジの価格が安い「カラリオV-edition」もラインアップを拡充する
A3ノビ印刷に対応しながらコンパクトな設計の「EP-50V」。実売価格は5万円前後
A3ノビ印刷に対応しながらコンパクトな設計の「EP-50V」。実売価格は5万円前後

 カラリオは、売れ筋となる6色の写真画質モデルを「EP-880A」に刷新する。液晶パネルを4.3型に大型化したのがおもな変更点で、基本スペックは昨年モデルの「EP-879A」と同等。カラリオシリーズ全体の機種数は8機種となり、11機種だった昨年よりも削減する。

カラリオシリーズで売れ筋となる「EP-880A」。実売価格は3万1000円前後だが、プリンターの最量販時期の12月には2万円前半まで下がると見込まれる
カラリオシリーズで売れ筋となる「EP-880A」。実売価格は3万1000円前後だが、プリンターの最量販時期の12月には2万円前半まで下がると見込まれる
新色のニュトラルベージュ。ホーロー製容器のようなツートンカラーを採用するのがおしゃれ
新色のニュトラルベージュ。ホーロー製容器のようなツートンカラーを採用するのがおしゃれ

使うごとにポイントがたまる仕組みを導入するキヤノン

 キヤノンのPIXUSは、新たに「XKシリーズ」を投入する。セイコーエプソンのカラリオV-editionと似たコンセプトの製品で、プリンター本体は割高ながら交換用インクカートリッジの価格を抑え、たくさん印刷するほど割安になるようにした。L判のフチなし印刷は1枚約12.5円で、従来からのTSシリーズ(約19.4円)と比べて35%ほど印刷コストを抑えた。

 XKシリーズは、スクエアフォルムの高級感のあるデザインを採用した上位機種「XK70」と、TSシリーズと共通のデザインを採用する「XK50」の2機種を投入。いずれも、新色のフォトブルーを含む6色インク(顔料ブラック+染料5色)を採用し、粒状感を抑えて写真画質を引き上げた。

独自デザインを採用するXKシリーズの最上位モデル「XK70」。実売価格は4万5000円前後
独自デザインを採用するXKシリーズの最上位モデル「XK70」。実売価格は4万5000円前後
TSシリーズと同じ柔らかなデザインを採用する「XK50」。実売価格は4万円前後
TSシリーズと同じ柔らかなデザインを採用する「XK50」。実売価格は4万円前後
TSシリーズの最上位となる「TS8130」。実売価格は3万円前後だが、こちらも12月には2万円前半まで下がると見込まれる
TSシリーズの最上位となる「TS8130」。実売価格は3万円前後だが、こちらも12月には2万円前半まで下がると見込まれる

 PIXUSで新たな取り組みとして注目されるのが、プリンターの利用状況に応じて独自のポイント「枚ル」を付与する「PIXUSプリント枚ル」だ。PIXUSでプリントした際(1枚プリントするごとに1枚ル、ひと月の上限は300枚ル)、新品の純正インクカートリッジを装着した際(カートリッジ1つごとに10枚ル、ひと月の上限は100枚ル)、誕生日やキャンペーンの際などに枚ルが付与される。ためた枚ルは、キヤノンの直販サイト「キヤノン オンラインショップ」で使えるほか(1000枚ルにつき500円相当)、JCBギフトカードへの交換も可能(2500枚ルで1000円分)。対象機種は、PIXUS XK70/XK50/TS8130/TS6130/TR8530/TR7530。

 キヤノンは、海外では大容量インクタンク搭載モデル「PIXMA Gシリーズ」を投入しているが、日本市場への投入は見送られた。セイコーエプソンのエコタンク搭載プリンターの動向次第では、今後日本でもラインアップに加わる可能性がありそうだ。

(文/磯 修=日経トレンディネット)

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