ペ・ヨンジュン主演の『冬のソナタ』を火付け役に韓流ドラマが話題となった第1次韓流ブーム、少女時代やKARA、東方神起などのK-POPスターが人気を集めた第2次韓流ブームに続き、今、第3次韓流ブームが起こっているといわれる。ハマっているのは10代、20代の若者たち。特に女性は、韓国の音楽やドラマだけでなく、コスメやファッション、グルメにもアンテナを伸ばす。人気の理由は何なのか。自らもK-POPファンで、音楽や若い女性のカルチャーなどにも詳しいライターのヨダエリが取材した。
第3の韓流ブームが盛り上がりを見せる中、今年も4月13~15日の3日間、千葉・幕張メッセで「KCON JAPAN(ケイコン・ジャパン)」というイベントが開催された 。
KCONはK-POPや、K-DRAMA(韓国ドラマ)、K-MOVIE(韓国映画)など、韓国の最新コンテンツの魅力を海外のファンに向けて発信する世界最大級の“K-Culture”フェスティバル。2012年から7年間、13回に渡って北米、中南米、中東、欧州、アジアなど世界各地で開催されてきた。
日本では2015年の初開催から毎年その規模を拡大し、2015年は1万5000人、2016年は3万3000人、2017年は4万8500人と動員数が年々増加。今年は6万8000人と、過去最大の動員数を記録した。幕張メッセのホール4~6を使い、アイドルグループのグッズや化粧品、食品などのプロモーションや販売をするブース、韓国フードを味わえるフードコーナー、トークイベントやミニライブを行うステージなどで構成。これらは「コンベンション」と総称され1900円(税込み)で入場できる。さらに期間中は毎晩、今人気のK-POPアーティストが出演する有料ライブ「KCON 2018 Japan×M COUNTDOWN」(コンベンション入場料込みで1万1900円、税込み)も開催された。
昨今、新たな韓国ブームの到来を日常のそこかしこで感じている人は多いだろう。例えば、9人組ガールズグループのTWICE(今年はKCONの3日目に出演)は2017年の紅白歌合戦に出演。ダンスの振り付けだった「TTポーズ」は女子中高生が写真を撮るときのポーズとしてSNSで大人気になった。男性ヒップホップアイドルグループの防弾少年団は、日本も含む世界各国でブレイク中だ。このほか、街ゆく若い女性のヘアメイクやファッション、あるいはチーズタッカルビなどグルメの分野でも話題は尽きない。
なぜ今、K-Cultureが多くの人を引き付け、新たなファンを生み出しているのか? その理由を探るべく、その人気の象徴ともいえるKCONを取材した。来場者へのインタビューと、会場レポートをお送りする。
K-Cultureとの出会いは友人の口コミが中心
今回の取材で重きを置いたのが来場者へのインタビューだ(ここのインタビューは最終ページに詳しく記載する)。『冬のソナタ』がブームとなった第1次韓流ブームのころと違い、今の日本では民放テレビで“韓流”に出合う機会は極めて少ない。ドラマはまだ放送されているほうだが、音楽番組は皆無と言っていい。では一体どこで出合うのか?
来場していた10代~40代の女性たちに話を聞いてみると、きっかけは三者三様だが、ライブに誘われたりお薦めとして教えてもらったりと、友人からの口コミが多いことが分かった。
また、韓国のテレビ番組をネットや有料チャンネルで観てハマるケースも多い。KCONのコンベンションエリアでも、スカパー!が「韓流セット」のプロモーションを展開していた。「Mnet」「KBS World」「KNTV」など韓国のエンタメを楽しめるチャンネルをセットにしたプランだ(ちなみにKCON Japanは、韓国のエンターテインメントチャンネル「Mnet」を運営するCJ E&Mと、その日本法人CJ E&M Japanが開催している)。
TWICEがお茶の間にまで浸透したことからも分かるように、地上波テレビの影響力はいまだに大きい。とはいえ、好きなジャンルと運命の出合いを果たしたり深掘りしたりする場所は、今や地上波テレビではないのだ。現在のK-POP人気はそれを如実に現している現象といえるだろう。
「楽しい」が循環するK-Culture
来場者に突撃取材をしながらコンベンションエリアを何周かするうち、どこにどんなブースがあるかが分かってきた。筆者は昨年もKCONを経験しており、そのときも思ったが、全体像を把握するまで多少時間がかかる。それくらい広い面積に、音楽、グルメ、旅、美容など、さまざまなジャンルのブースが並んでいるのだ。
この多ジャンル構造こそが、「ハマると止まらなくなる」K-Cultureの強みだ。
これは筆者を含むK-Cultureファンに共通の傾向だが、K-POPにハマるとプロフェッショナルな歌やダンス、凝った振り付けなどに「すごい」「こんなに楽しいものがあったんだ」と感動し、「この魅力を伝えたい」という気持ちが自然とわいてきて、Twitterやブログ、あるいはリアルで語るようになる。今回、インタビューした来場者にも「友人に薦められた」という人が多かった。ジャンルとしてメインストリームではないため、同じものが好きだと一気に親近感がわくからだろう。チケット譲渡などをきっかけに友達同士を引き合わせたりもする。こうして、いつの間にか仲間が増えていく。
しかも、K-Cultureは音楽とファッション、美容、フードが密接に絡み合っている。K-POPの情報を追ううちに、K-COSMEやK-FOODにも関心が広がる。逆もまたしかりだ。
例えば、日ごろからK-POPが好きな人は一人で曲を聴くだけでなく、K-POPが流れる店でサムギョプサルを食べながら好きなアーティストについて語り合う。K-POPのプロモーションビデオ(PV)を巨大スクリーンで観られるカフェでお茶をする。ニューオープンしたチキンの店に行く(韓国はフライドチキンも名物で専門店がたくさんあり人気アーティストの家族が経営する店などもある)。韓国コスメの店にも入る(男女問わず人気のアーティストや俳優が広告に起用されていることも多い)。CDや映像、グッズの店ものぞく。店内のテレビで流れる映像を観て「今はこのグループが人気なのね」と知り、CDを聴いてみようかと興味がわく……といったサイクルが回り始めるのだ。
それを一度に楽しめる街が東京でいえば新大久保であり、それを一日で体験できるイベントがKCONというわけだ。最近は渋谷や原宿などに韓国ファッションの店も増えたので、さらに活動しがいがあるだろう。
核としてのK-POPの求心力
こうしたサイクルの核として求心力を持っているのが、K-POPだ。トレーニングに裏打ちされた、ハイレベルなパフォーマンスができるアーティストが、次々に登場してくる。KCONの目玉であり、毎年多くのアーティストが集結するコンサート「M COUNTDOWN」でも、それを随所に感じた。
例えば、女性ソロシンガーのCHUNG HA(チョンハ)。「チョンハ姐さん」と呼ばれるのも納得の貫禄とセクシーさに目が行くが、安定したダンスも見事。曲の途中、特に見せ場という風でもなくヒョイッと脚を真上に上げているのを見て驚いた。相当鍛錬を積んでいる証拠だ。
去年も出演したPENTAGONは、最新曲「SHINE」を披露した。この曲の作詞・作曲をしたリーダーのフイは、初日13日のトリを務めたWanna One(ワナワン)の大ヒット曲「Energetic」など、他グループにも楽曲を提供。ほかのメンバーも全員が作詞作曲をすることから、彼らは“作曲ドル”(作曲+アイドル)とも呼ばれている。加えて、振り付けも自分たちの手によるものだ。外部に作曲や振り付けを頼らないことは、表現者としてのモチベーションを挙げると同時に外注コストの削減にも繋がる。自作型のグループは今後も増えていくかもしれない。また、彼らはTWICEなどと同じく、韓国・中国・日本の3カ国からメンバーを集めた多国籍グループ。複数の国で活動しやすいこの形態も、さらに増えていくだろう。
チアリーダーのようにハッピーでパワフルな魅力をさく裂させたMOMOLANDも印象的だ。中でも金髪ツインテールでファニーフェイスのジュイは、端正な顔立ちと女っぽさがウリのK-POPガールズグループにおいて新種とも言える独特の存在。ラップのキュートさも含め、TLCのレフト・アイに通ずる魅力と言えば、30代以上の洋楽リスナーには分かってもらえるだろうか。
筆者が取材した初日には他に、gugudan、RAINZ、VICTON、Samuel、WJSN(宇宙少女)、Wanna Oneが出演し、それぞれ個性を発揮した。世界で通用させるのを前提に発信されるK-POPのステージは、ダンスにしろ歌にしろ、基礎ができていない人がほぼいないので、安心して観ていられる(当たり前のことなのだが、未熟さがかわいらしさとして愛される日本ではそれが当たり前ではない)。欲を言えば、あとはM COUNTDOWNで生演奏が実現されたら最高なのだが、贅沢な望みだろうか。
音から入るか、ダンスから入るか、あるいはファッションやドラマ、映画、グルメから入るか。入口は人それぞれだが、支持層が増えたことで入口は大きくなっている。コンベンションエリアのステージで、Wanna Oneのカバーダンスを踊っていた8歳の少年が「夢はK-POPアイドルになること」と語っていた。子供が将来の夢に挙げ始めたら、そのジャンルは遠くない未来、きっと今よりメジャーになると筆者は感じている。
うちわ代わりにiPadは常識!? 来場者がハマったきっかけとは?
最後に、今回インタビューに答えてくれた来場者を紹介しよう。K-POPやK-Cultureにハマったきっかけも楽しみ方もそれぞれ違っていた。
●「友達が教えてくれた宇宙少女がきっかけ」
えまさんとひらりさん(17歳と18歳)は高校時代の先輩と後輩という関係。KCONは初参戦で今日の目当てはガールズグループの宇宙少女だ。「宇宙少女がデビューしたとき、K-POPが好きな子に教えてもらってハマりました」。他に、fromis_9(プロミスナイン)、APRIL、KARAなども好き。男性グループではEXOが好きだという。
●「防弾少年団のライブでK-POPにハマった」
大阪から来たミッチさん(40代)は今年で2度目のKCON来場。去年はNAUGHTYBOYS(ノーティーボーイズ)を見にコンベンションのみ参加したが、今年はM COUNTDOWNに出演するWanna Oneが目当て。「コンベンションのコスメや観光情報のブースも見て回ります。近々韓国に旅行に行くので情報収集も兼ねて」。K-POPにハマったのは3年前、友人に防弾少年団のライブに誘われたのがきっかけ。K-POP仲間ともライブで知り合うことが多いそう。
●「目当てはワナワン、きっかけは東方神起」
ゆうなさん、なおさん(20代前半)は、千葉在住、高校時代からの友達同士で、KCONは初参戦。目当てはこちらもWanna One。手に持っているのはWanna Oneのペンライトだ。最初にハマったのは東方神起で、彼らが兵役を終え、復活した2017年のツアーにも参戦した。思わず「ビギです、ビギです!」と筆者が自己申告したら、「えー!」「楽しい」と盛り上がってくれた。(注:ビギとは東方神起ファンの愛称。日本のファンクラブ「Bigeast(ビギスト)」に由来する)
●「iPadには好きなメンバーの名前を表示します」
しおりさん、ほのかさん(22歳、23歳)の目当ては、10人組ボーイズグループのPENTAGON。iPadで表示しているのは、それぞれの“推し”メンバー、ヨウォンとジノの名前だ。スマホやタブレットを使って応援するスタイルはK-POPのライブでちょくちょく見かける。専用のアプリもあり、App Storeで「電光板」などと検索するとさまざまなアプリが出てくる。
しおりさんは、安室奈美恵と韓国のガールズグループ・AFTERSCHOOLのコラボレーションを見たのがK-POPにハマったきっかけ。ほのかさんは、友人のお姉さんに薦められて見た人気テレビ番組「ウギョル」(人気アイドルや俳優、女優などが仮想結婚をして共に生活する様子を楽しむバラエティーで、邦題は「私たち結婚しました」)。大学で韓国語を専攻しているためK-POP好きと知り合うことが多く、自然と仲間が増えていくそう。
●「今日ステージで踊ります!」
「TRAP」というダンスチームを組んでいる皆さんは全員20歳前後。一般参加者によるカバーダンスやダンス教室などが行われるステージ「DANCE ALL DAY」で、ガールズグループ・RED VELVETのカバーダンスを踊るために参戦。好きなグループをそれぞれ聞くと、BIGBANG、B1A4、SEVENTEENなどが挙がった。K-POPにハマったきっかけは、韓国の音楽番組「MUSIC BANK」など。日本の音楽はあまり聴かないが「三浦大知くんは好き」だそう。
(文/ヨダエリ、写真/志田彩香)