携帯電話やスマートフォンでプレーするモバイルゲームのプラットフォームは、ブラウザーベースからアプリに移行し、近年はずっとアプリが優勢だった。だが、ブラウザーがHTML5に対応したことで、再びブラウザーベースに戻りつつある。ブラウザーベースのゲームを配信する楽天ゲームズの「RGames」、ヤフーの「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」に続き、BXDが「enza」を2018年春に開始する。その狙いとは何か。
2018年2月20日、BXDはバンダイナムコ未来研究所で新サービスの発表会を開催した。BXDはバンダイナムコエンターテインメントとドリコムが設立した合弁会社で、HTML5を活用したスマートフォン向けブラウザーゲームを開発している。今回の発表は、HTML5ベースのブラウザーゲームのプラットフォーム「enza」を2018年春に開始するというものだった。
サービス開始に合わせてローンチするタイトルは『ドラゴンボールZ ブッチギリマッチ』『アイドルマスター シャイニーカラーズ』『プロ野球 ファミスタ マスターオーナーズ』の3つ。いずれもも固定ファンがいる人気タイトルで、既に開始している事前登録の登録数もアプリゲームのタイトルと比べて遜色ない。
なお、enza内の支払いは、バンダイナムコの電子マネー「バナコイン」に統一。バナコインの購入代金は、クレジットカード、ケータイ払い、ウェブマネーなどが利用できる。
なぜアプリではなくブラウザーゲームなのか
enzaがアプリではなく、HTML5に対応したブラウザーベースのゲームを採用したのは、ユーザーがより手軽にゲームを始められるようにするためだ。ブラウザーゲームはアプリをインストールしたり、アップデートしたりする必要がない。スマートフォンのストレージ容量を圧迫する心配がなく、人に薦める際も、通信量をさほど気にせず気軽に試してもらうことができる。enzaの同一プラットフォーム内ならば、バナコインが共通で使用できるのも利点だ。
従来は、ブラウザーゲームというとアプリよりも単純なシステムのゲームを想像しがちだっただが、HTML5に対応することで、もはやアプリと同等以上のゲームも開発できるようになった。ゲームをするときに邪魔になりがちなアドレスバーを隠せるので、見た目にもアプリと見分けがつかなくなっている。
より大きいのはプラットフォーム手数料が無料になること
発表会では言及されなかったが、ゲーム会社にとってはさらに大きな利点があると筆者は考える。App StoreやGoogle Playを介さないため、アップルやグーグルに払わなければならないプラットフォーム手数料が不要になることだ。
アプリゲームを運営しているゲーム会社は、アップルとグーグルに売り上げの30%のプラットフォーム手数料を払っているといわれている。それが浮くのは大きい。それでいて、個々のサイトから直接アプリをダウンロードする“野良アプリ”とも違うので、信頼性が揺らぐことはない。
こういうとゲーム開発会社だけがもうかるようにも見えるが、BXDでは浮いたプラットフォーム手数料分は、プレーヤーに還元することも考えているという。BXD社長の手塚晃司氏とBXD取締役の内藤裕紀氏に話を聞いたところ、イベントやグッズ展開などで還元していくとのこと。例えば、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』はブラウザー対応になったことで、これまでよりリアルのライブイベントの回数が増える可能性があるということだ。これは、ファンにとっても喜ばしいことだろう。
ほかにも、現在アップルが禁止しているプレゼントコードの発行もできるため、コードを雑誌の購入特典として記載したり、コラボ商品の景品やイベント参加の副賞として配布したりと、さまざまな展開も期待できそうだ。
デメリットはランキングという宣伝手段を失うこと
ただし、HTML5対応のブラウザーゲームにもデメリットはある。それはAppStoreやGoogle Playでのランキングに入らない点だ。現在アプリのダウンロード数を左右する大きな要因の1つに、ストアランキングが挙げられる。ランキングに露出することで、さらなるダウンロードを見込めるのだ。だが、それらのストアを介さないブラウザーゲームの場合は、ランキングに登場しないため、最大の宣伝手段がなくなってしまうのである。
enzaはこの問題を、ゲーム自体のバリューを生かすことでクリアする戦略だ。前述のように、『アイドルマスター』『ドラゴンボールZ』『ファミスタ』は、既に固定ファンが存在するタイトルで、プラットフォームがなんであれ、ゲームがリリースされればプレーされる。IP(ゲームやアニメのタイトル、キャラクターなどの知的財産)の強みを持って、最大の宣伝手段の損失に対応した。
enzaはBXDのタイトルのみをリリースするのではなく、サードパーティーにも門戸を開いている。ただ、闇雲にゲーム数を増やしてもAppStoreやGoogle Playの縮小版になるだけ。内藤氏によると、参加するゲーム会社やタイトルを厳選し、enzaでのみ体験できるタイトルを展開する予定だという。
ブラウザーをベースにしたゲームプラットフォームというと、携帯電話時代に人気を集めたグリーやモバゲーを思い浮かべる人もいるはずだ。だが、当時と違うのは、単純な画面や操作で構成されたゲームではなく、アプリと変わらぬクオリティーで、かつ手軽なゲームだということ。そのうえ、アプリではできなかったプレーヤーへの還元もあるというのなら、がぜん期待は高まる。enzaには、HTML5対応ブラウザーゲームのトップランナーとして、健全なゲーム市場の構築を願いたいところだ。
(文/岡安学)