2018年1月26日に「Cerevo CEO 岩佐氏が語る、2018 CESレポート~メディアが書かないCESの実情と出展ノウハウ~」と題したトークイベントが開催された。ハードウエアスタートアップであるCerevo代表取締役の岩佐琢磨氏は毎年1月に米ラスベガスで開催される世界最大級の家電・IT展示会「CES」に7年連続出展し(単独出展は6年)ている。トークイベントには長年にわたってCESを取材し続けているジャーナリストの西田宗千佳氏も登壇し、CES 2018の総括に加えて、ハードウエアスタートアップなどの企業に向けてCES出展のノウハウについても語った。

東京・渋谷のFabCafeで開催されたトークイベントの模様。左がCerevo 代表取締役の岩佐琢磨氏で、右がジャーナリストの西田宗千佳氏
東京・渋谷のFabCafeで開催されたトークイベントの模様。左がCerevo 代表取締役の岩佐琢磨氏で、右がジャーナリストの西田宗千佳氏

グローバルトレンドと違う動きをしている日本のメーカー

 岩佐氏が最初に口にしたキーワードが「フランス企業の伸長」だった。

 「出展者数が米国に次いで最も多いのが中国で、それは十数年続いているのですが、フランスが一気に増えているんです」(岩佐氏)

 CES 2018のフランス企業の出展者数は338で、その元気さも資金力も「異次元レベルにアップしている」(岩佐氏)という。

 注目したいところは、やはりフランスが強そうな分野、例えば「ビューティーやフードなどを手がけているところ」だと岩佐氏は語る。

 「フランス人がワインをおいしくするデバイスを作れば、おいしそうじゃないですか。これはすごく大事なんです。きれい好きの日本人が作った掃除機はきれいになりそうだし、地震の多い日本だから高性能な地震対策デバイスが作れたりだとか……、カルチャー感が大事なんですよ」

 もう1つ欧州からの出展で注目したいのがオランダだ。出展者数は66で、日本の49とさほど違いがないようにも思えるが、その「9割以上がスタートアップ」(岩佐氏)で、「エウレカパーク」という2×2メートル程度の小間に900社ほど集まるところにたくさん出展していたという。

約900社のスタートアップが「エウレカパーク」と呼ばれる場所に集まった
約900社のスタートアップが「エウレカパーク」と呼ばれる場所に集まった

 西田氏も続ける。

 「出展者のバランスが日本だけ特異なんですよ。米国、中国、フランス、韓国、オランダはバランスがいいというか、若い(企業が集まっている)。5年くらい前から変わっていますね」(西田氏)

 フランスメーカーのほとんどがエウレカパークに出展しており、「1社1社のクオリティーは低くても数は大事で、5年後に大ヒット商品を出すかもしれない。『多産多死』が原則なので、中国は“すごい”を通り越しているとしても、フランスは強烈でした」(岩佐氏)

 続いて、岩佐氏がCES 2018で見て興味深く感じたカテゴリーや製品について紹介された。

フードテック:「ワインを出した分だけ窒素を中心としたガスを充てんすることで、いつでも出荷と同じ状態でワインを飲めるというスタートアップ製品で、ニューモデルはIoT(モノのインターネット化)でガスの残量が見られるそうです。こういうヘンテコなのが山のように展示されているのがCESのいいところなんですよ」(岩佐氏)
フードテック:「ワインを出した分だけ窒素を中心としたガスを充てんすることで、いつでも出荷と同じ状態でワインを飲めるというスタートアップ製品で、ニューモデルはIoT(モノのインターネット化)でガスの残量が見られるそうです。こういうヘンテコなのが山のように展示されているのがCESのいいところなんですよ」(岩佐氏)
ビューティーテック:「異常にスマートミラーが多かったですね。ネイルの中に回路やバッテリーを入れてUV(紫外線)にどれだけさらされたかを可視化できる製品がありました」(岩佐氏)
ビューティーテック:「異常にスマートミラーが多かったですね。ネイルの中に回路やバッテリーを入れてUV(紫外線)にどれだけさらされたかを可視化できる製品がありました」(岩佐氏)
スマートホーム:「スマートロックは当たり前で、よりニッチな製品が多かったです。写真はパリのスタートアップの製品で、自宅のプールに浮かべておいて、キラキラ光るLEDの下に水質管理センサーを搭載する製品です」(岩佐氏)
スマートホーム:「スマートロックは当たり前で、よりニッチな製品が多かったです。写真はパリのスタートアップの製品で、自宅のプールに浮かべておいて、キラキラ光るLEDの下に水質管理センサーを搭載する製品です」(岩佐氏)
ウィメンテック:「今回ウィメンテックで多かったのが、産後の女性に対する尿漏れケアのデバイスで、4~5社が出展していました。テクノロジーの方向としてよりニッチになっていますね。体内に入れて使うとか、外から刺激を与えるとか、会社によってアプローチが違いました」(岩佐氏)
ウィメンテック:「今回ウィメンテックで多かったのが、産後の女性に対する尿漏れケアのデバイスで、4~5社が出展していました。テクノロジーの方向としてよりニッチになっていますね。体内に入れて使うとか、外から刺激を与えるとか、会社によってアプローチが違いました」(岩佐氏)
ペットテック:岩佐氏はペット関連製品もかなりにぎわっていたと話し、センサーで猫との距離を測りながら逃げ回るロボットを動画で紹介していた
ペットテック:岩佐氏はペット関連製品もかなりにぎわっていたと話し、センサーで猫との距離を測りながら逃げ回るロボットを動画で紹介していた

CESに出展するなら「Unveiled」がオススメだが……

 CESに出展するスタイルはいくつかあるが、「海外のテレビ局に取り上げてほしい、『Gizmodo.comに取り上げてほしい』といった場合はプレス向けの『Unveiled』がオススメです。4時間しかないイベントですが、出展するのに70~80万円しかかかりません」(岩佐氏)という。

CES 2018のプレスデーに開催された「CES Unveiled」の様子
CES 2018のプレスデーに開催された「CES Unveiled」の様子

 「Unveiledはプレスデーの夕方に小さな企業がメディア向けに商品プレビューを行う場で、メインブースに出展していないけどメディアに説明したい企業が出てきます。海外のCESプレビューのような記事では必ずUnveiledがフィーチャーされるし、日本でも(記事などが)出るので、ここに出るとメディアへのアピールという意味では非常に価値が大きいと思います」(西田氏)

 「以前に出展したときはグローバルで100くらいのメディアにピックアップされましたので、いいと思いますよ」(岩佐氏)

 ただし4時間しかないUnveiledでは、出展する製品に向き不向きがあるという。岩佐氏は「向いているのは……」と話しながらCES 2018で発表した「1/1 エリュシデータ」を取り出してデモンストレーションを行った。

派手な光と音で観客を圧倒する「1/1 エリュシデータ」

 「もったいないと思ったのが『LIDAR』(レーザー画像検出と測距を行うセンシング機器)ですね。『1/1 エリュシデータ』のような派手なものは目立ちやすいですが、派手じゃないけど技術があって話を聞いてもらいたいというものは、エウレカパークで見つけた人がじっくり話を聞けるほうがいいと思いました」(西田氏)

 「え? なになに? というのがUnveiledには向いているんですよね」(岩佐氏)

日本のメーカーが前に出るためには国のバックアップも必要

 後半の西田氏との対談では、「なぜ日本からはベンチャー企業がCESに出てこないのか。また、せっかく出てきたのになぜお金だけ出して、へんぴな場所に押し込められているのか?」という質問が上がった。

 「CESに行った人は見慣れていると思いますが、日本勢を集めたブースは、新設されたへんぴなエリアにあります。明確に言える事実は『国のバックアップがない』ことです。フランスもオランダもイスラエルも全面的な国のバックアップでCES事務局とやり取りをして、場所を勝ち取ったというのが大きいと推察されます。それから動いた時期が圧倒的に遅かったですね。1年以上前に交渉しないといい場所が取れないので、来年に期待したいですね」(岩佐氏)

 「JETRO(日本貿易振興機構)との連携はできないのか」と質問する西田氏に対し、岩佐氏は「うちはJETROのブースで(CESに)出したことがありますが、フランスやオランダとは見ているものが違いますね」と語る。

 「(日本は)中小企業振興と地域企業新興という意識が強くて、国を挙げてスタートアップを応援しようという意識とは若干異質なものに感じます。地方でやっている物産展みたいなものですね。お互いに連携しつつ、もうちょっと本気になってやらないといけないと思いますね」(岩佐氏)

大企業とスタートアップの連携の“アピール”も重要

 対談の中で西田氏は「日本は大企業の出展が多いのですが、その内容はすごく真っ当で、他国にきちんと対抗できるものでした。とはいえ、大企業ブースが中心というのはCESのトレンドと違うように感じました」と話していた。

 「欧米のメーカーでは、スタートアップと連携して……というメッセージがすごく多いですよね。トヨタもインテルもスピーチしましたが、トヨタからはスタートアップの話はほとんど出てきませんでした。他社はスタートアップのこの技術を買った、連携したというのが多かったですね」(岩佐氏)

 「(日本のメーカーは)『わが社はこうだ』ですが、(欧米のメーカーは)『見せたい世界観はこうで、こういう方々と一緒にやっています』ということが多く、ここがちょっと違うと思いました。日本の大手メーカーはいろいろな企業と協力してるのに、最終的にその企業の名前しか出てこないですよね。(例えばクルマなら)ミッションは、LEDのフロントライトは、タイヤは、制御用ソフトウエアは……こうしたコンポーネントをどこが作っているのか全く出てきません。家電もそうです。この思想が全体に広がっている気がしますね」(西田氏)

 「これは日本人全体が考えなければいけないですね。グローバルトレンドがいいとは言いませんが、それは意識したほうがいいと思います」(岩佐氏)

 確かに、大手メーカーは自社開発した技術に関しては「自社開発」を前面に打ち出すものの、それ以外についてはどこの部品や技術を使っているのかを表に出さない傾向がある。できたばかりで従業員も少ないハードウエアスタートアップの製品や技術を積極的に取り入れればアピールにもつながるのだろうが、大企業を中心とした“企業ムラ”を作り上げてしまう旧態依然とした体質が横たわっているのかもしれない。

 現状では日本企業の出展は大手メーカーが中心となっているが、ハードウエアスタートアップにとってCESはとても魅力的な展示会だと岩佐氏は話す。

 「ハードウエアスタートアップがデビューできるのはほかにもいろいろありますが、CESは圧倒的にいい場所です。スタートアップを起業したはしくれなので、スタートアップはみんなきてCESに出展すればいいと思います。どんどん増えればスタートアップを見ようというメディアも来ますし、投資家も来ます。大企業も投資しますし、『オープンイノベーション』もあります。大企業が半分くらいで、残り半分がスタートアップくらいになったほうが健全な気がしますね」(岩佐氏)

トークイベントではスマホと連携して手軽に決済できる超小型自動販売機「Qvie」のデモも行われた
VR(仮想現実)用の触感フィードバックを実現する「Taclim」の新バージョンも実演し、来場者が体験していた

(文・写真/安蔵 靖志=IT・家電ジャーナリスト)

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