今年、空前のヒットを飛ばした明治の「ザ・チョコレート」。通常の板チョコの倍はする価格にもかかわらず、1年弱で販売数3000万枚という金字塔を打ち立てた。日経トレンディ誌が選ぶ2017年ヒット商品ベスト30でも2位にランクインを果たした。

 今の時代に売れるものづくりのために、どのようにして従来の常識を捨て去り、新たな価値観を生み出したのか――。明治の伊田覚氏がTREND EXPO TOKYO 2017のヒット商品・特別講演に登壇し、「ものづくりのイノベーション」の法則を解き明かした。

明治 執行役員 菓子商品開発部長 伊田覚氏
明治 執行役員 菓子商品開発部長 伊田覚氏

 「ザ・チョコレートはスペシャリティチョコレートの市場をリードするブランドと位置づけている」と話す伊田氏。現在のザ・チョコレートは実は2代目で、初代は2014年に発売された。

 初代からの変更点で大きかったのがパッケージ。シンプルで上質なものにリニューアルした。もちろん原料のカカオ豆には初代からこだわり続けている。農園まで出向いてカカオ豆を選定することから始まり、発酵や乾燥など、カカオ豆づくりの工程をすべて管理する。これにより品質が安定し、おいしいチョコレートをつくることができるのだ。

 ちなみに明治は自社の取り組みを「Farm to Bar」と呼んでいる。これは最近よく耳にする「Bean to Bar」 を意識してこと。Bean to Barは、カカオ豆(Bean)から板チョコレート(Bar)までを一貫して手がけるスタイルのことだが、明治が行っているのは「Farm to Tree」→「Tree to Bean」→「Bean to Bar」。つまりFarm to Barというわけだ。

 現在、ザ・チョコレートの味のバリエーション(=カカオ豆の種類)は7種類。11月初旬には全8種類が市場に出回る予定となっている。

 このほか、ザ・チョコレートは、食べる量を調整できるよう3枚に小分け包装している点もヒットのポイント。加えて、1枚のチョコレートには大小、好きな大きさに割って食べられるにように切れ目が入れられている。このスタイルが「これからの板チョコレートのスタンダードになるのではないか」と伊田氏は述べた。

セミナーや試食会を開始し、認知を広げた

 「ここ数年、チョコレートの売り上げが伸びている。これには健康系やスペシャリティ系の人気が大きく貢献している」と伊田氏は考える。

 Bean to Barをうたう高級チョコレートの専門店が各地に増えている。ザ・チョコレートのターゲットは、価格が安く老若男女幅広い層に食べられる商品と、高級専門店の商品の中間に位置付けている。ザ・チョコレートを大人の嗜好品としてカカオ豆の特徴を感じられるものにし、価格の値引き競争もやめた。

 半年後のマーケティング調査の結果では、商品満足度が84%、リピートしたいかの質問には74%の人が「はい」と答えている。また商品を気に入ってくれた消費者が、InstagramなどのSNSで拡散したことによって、ザ・チョコレートの認知が広がっていった。

 売り場では「今まで既存品を2、3品並べるような陳列の仕方だったが、棚を一列確保し、売り方を商品消費から商品育成のモデルにシフトチェンジした」と伊田氏は語る。シンプルなパッケージがずらりと並ぶ姿を目にした人も多いはずだ。

 プロモーション方法も変えた。今まではテレビCMが中心だったが、雑誌や新聞でのPRをメインに変更。さらに、セミナーや試食会を開催し、開発ストーリーやカカオ豆の歴史、食べ比べや食べ方講習なども行った。またPRのために出品したチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ パリ」ではデザイン賞を獲得。ロンドンのコンテストでも賞を獲るなど、「量販メーカーがここまでやるとは!」と、高く評価されている。

 「実は、価格の高いチョコレートは1986年ぐらいから、ずっとチャレンジしてきたが、すべて失敗してきた。それは、今までこちらが勝手に商品の紹介をしてきただけで、消費者にその商品がどういうモノなのかをきちんと伝えきれていなかったから。消費者とコミュニケーションが取れていなかった」と伊田氏は分析。その苦い経験が、ザ・チョコレートの無料セミナーや試食会の開催へとつながった。

 最後に「これからもチョコレートファンがひとりでも多く増えていくように努力していきたい」と述べて、伊田氏は講演を締めた。

(文/高橋慎哉)

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