日経トレンディ「2017年ヒット商品ベスト30」で6位にランクインしたのが、サントリーから今年4月に発売されたコーヒー飲料「クラフトボス」。ブラックとラテの2種類あるが、「クラフトボス ラテ」は発売から3日であまりの売れ行きから出荷停止になったほどだ。

サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部 ブランド開発第二事業部 課長 大塚匠氏
サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部 ブランド開発第二事業部 課長 大塚匠氏

 TREND EXPO TOKYO 2017のヒット商品・特別講演では、クラフトボス開発チームのリーダーである、サントリー食品のインターナショナルの大塚匠氏が登壇。消費者の心をつかむ工夫について語った。

 大塚氏率いる9名からなるチームが新商品の開発に着手したのは2015年のこと。平均年齢は29.8歳と、若いチームだ。大塚氏によると、クラフトボス誕生には2つのピンチがあったという。

 1つ目は、2013年にコンビニで本格コーヒーが100円で発売されたこと。

 大塚氏は、コンビニコーヒーの影響で、缶コーヒーの売り上げが落ち込んだという報道を今でも覚えていると話す。一方、その後発売した「プレミアムボス」が好評で、「缶コーヒー市場が再び上向きになったことが報道され、救われました」と当時を振り返る。

 2つ目は2015年のサードウェーブコーヒーブームの到来だ。新しく生まれたコーヒー文化の中で缶コーヒーが埋もれないよう、ボスブランドで消費者の要望に応えるコーヒーの発売を目指し、大塚氏のチームは市場調査を重ねた。

 すると、コーヒー好きな若い世代は、缶に対する拒否感は強いが、コンビニコーヒーのプラスチック容器には新鮮な印象を持っていることが分かった。

 「要は、彼らは“缶コーヒーノーサンキュー世代”だったんです」と大塚氏。これらの大きなピンチもネガティブにとらえるのでなく、缶コーヒーから始まったボスではあるが、缶にとらわれない商品を作る、というポジティブな結論を導き出せたという。

 さらに、「クラフトボスという商品名も相当な難産でした」と大塚氏。そもそもボスは“働く人の相棒のような存在でありたい”とのコンセプトで作られた商品。では、クラフトボスを飲むのはどんな環境で働く人なのか?

 注目したのは、前述したように「コーヒーは好きだが、缶コーヒーは飲まない」という消費者。その属性は、ここ数年、従事する人の数が爆発的に増えた“ITワーカー”だった。「ITワーカーの皆さんを取り込めたら、勝算があるのではないか、と思いました」(大塚氏)。

 ITワーカーの仕事ぶりを調べると、服装も勤務時間も自由な一方で、個々での作業が多く、仕事に孤独を感じている人の割合が高いことが判明した。さらに、彼らの愛用品を調べると、デジタルなものより職人の技が光るアナログな品々が多かった。「この結果を“深掘り”して、クラフトというキーワードにたどり着きました」(大塚氏)。

 講演の締めくくりに大塚氏は、クラフトボス好調の理由を3つの要因から語った。

 まずはインスタ映え。「角の取れた優しいシルエットのボトルがおしゃれ」と好評で、インスタグラムにアップする人が多くいるという。

 次にテレビCM。自由な社風のIT企業を描写した物語風の展開が若者の感性に訴えることに成功した。「ただし、今年のサントリーの新入社員の中には、我が社もそういう社風だと誤解した者も多くいます」と、大塚氏は会場の笑いを誘った。

 最後が「新しい風が、吹いた」というキャッチフレーズだ。最初は「新しい人に任せた」という案だった。しかし“任せる”という言葉の強さが、クラフトボスのキャラクターに合わないと判断。最終的に決定したキャッチフレーズから感じられる心地良さが、消費者の心に響いたと大塚氏は見ている。

 いくつかのピンチを逆転の発想でチャンスと考え、大塚氏のチームはクラフトボスを誕生させた。さらに商品開発の際に目指したのは、ユーザーとして想定したITワーカーたちが、このコーヒーを飲むことで気持ちを軽くすることだった。大塚氏は「そんな願いを持って開発したことが良い結果につながったのかもしれません」と語り、講演を終えた。

(文/田中あおい)

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