「TREND EXPO TOKYO 2017」の2日目の基調講演では、「マツコロイドなど人間に外見が酷似した数々のアンドロイドを開発・監修している石黒浩氏が登壇した。

 ロボットとの対話システムや、その対話システムを活用したさまざまな企業との実証実験から得られた知見を紹介し、そこから得られるビジネスチャンスについて講演した。ロボット研究のキーパーソンの講演とあって、多くの来場者が集まり、会場は熱気にあふれていた。

大阪大学 大学院基礎工学研究科教授・工学博士 石黒 浩氏
大阪大学 大学院基礎工学研究科教授・工学博士 石黒 浩氏

 「人は人を認識する脳を持っている。だから世の中の物すべてが人間らしくなっていくのは必然の流れ。未来の技術に対して、人は初めは気持ち悪いというが、喋る炊飯器を皆が使うように、いずれ受け入れるようになる。これからいろいろな物がどんどん人らしくなっていくと思う」と、石黒氏は講演を始めた。

 また「ロボットを作るには人を知ることが重要になる。自分自身は人間のほうに興味があり、ロボットはそれを知るための道具だと思っている。そして、技術は人の能力を置き換えることで発展してきたし、技術を通して人を知るというのは今までもやってきた。もちろんこれからもやっていかなければならない」と語った。

 iPhoneを発案したスティーブ・ジョブズについても話がおよび「彼は人間に関して優れた直感を持っていた。人がどんなサービスが必要なのかを研究者が明確に理解する前に、自分の直感で理解して製品化したからこそ、これほどまでに流行した」と石黒氏は分析。

 製品を考案するには、人が次にどういうものを受け入れるかを考え、人を良く知るのが必要不可欠と感じたという。

 産業ロボットなど従来のロボット工学から、今は人間とロボットが同じ場所で一緒に働く研究に移ってきている。人と関わるロボットは、人を理解しながら設計していくのが重要だ。「従来の産業は人間とは一線を引いたところで研究開発が行われてきたが、今後は人間を取り込んで発展していく」と石黒氏は考えている。

 さらに、人と関わるロボットが今、普及し始めるタイミングだと石黒氏は言う。

 「NTTと一緒に開発、販売している普及型のコミュニケーションロボット『Sota』はいろいろなところで使われている。特にうまく行っている例がゼンショーグループとやっているレストランでの接客だ」と紹介。

 ロボットが話すと小さな子供連れの家族が喜び、普段ほとんど会話のない高校生がいる家族は、ロボットが話しかけることによって会話を促進する効果があるのだそうだ。

 「東京五輪に向け外国人客や雇用も増えて行くが、従業員が何カ国語も喋るのは無理があるがロボットはそれが可能で、万能な通訳として活躍できる。そして、高齢化が進み若者の人口が減少して行くこれからの社会でも、ロボットによるサービスが重要になる」と語った。

 さらに石黒氏は、人がアイドルに期待するものは、いつもニコニコしてトイレにも行かず、疲れない非人間的なイメージであるという。

 「(疲れない)アンドロイドは本当の意味で理想的なアイドルになれると思う。役者としても非常に優秀で、アンドロイドは特定の人間性を非常に綺麗に表現できるのでとても役者に向いている」と解説。また、人の存在を多様な形で拡張したり、再現したりできるのがアンドロイド技術の面白いところだと説明した。

 講演の最後に石黒氏は自身の研究について次のように語り、ロボット社会の到来を見据えた。

 「アンドロイドやロボットを研究していると、存在感とか対話の原理に到達することができる。その原理はさまざまなシステムに使え、多くの企業がビジネスに利用しようと挑戦している。我々の研究はロボットを使いながら実は人と人をつなぐ研究をしている。対話やコミュニケーションはもともと人と人をつなぐためにあるものなので、自分たちの研究は正しい方向だと考えている。また、そういう技術を積み重ねて近い将来、ロボット社会が実現されていくと思う」

 あふれんばかりの拍手の中、講演を終えた石黒氏。講演後も、興味の尽きない参加者から、たくさんの質問が寄せられていた。

(文/山本耕介)

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