12年にリリースされた自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」。現在400万人を超えるユーザーを持ち、国内フィンテック関連ベンチャーの代表的存在ともされる。なぜトップシェアを獲得でき、何を目指しているのか。
マネーフォワード
将来の不安解消に貢献
マネーフォワードはクラウド型の家計簿アプリで、銀行や証券会社、カード会社、ポイントサービスなど約2600(うち法人向け口座が約1100)の金融関連サービスと連係。自動で家計簿や家計のバランスシートを作成し、節約や将来不安の解消に活用する。ユーザーになると、それ以前と比べて、収支の管理がしやすいクレジットカードの利用率が1.7倍に増える傾向があるという。
マネーフォワードは、スマートフォンで家計や資産を管理できるサービスだ。ユーザー数は400万人を超え、2600以上の金融関連サービスの利用情報と連係できる。サービス開始から4年で、国内最大の自動家計簿・資産管理サービスに育てることができた。
当社の創業は12年5月。東京・高田馬場のワンルームマンションに、金融業界とIT業界の出身者が集まって立ち上げた。私自身、それまでネット証券で仕事をしてきたが、常々感じていたのは、「お金」という分野には、ユーザーの誰もが簡単に使えるサービスがないことだった。「食」なら「食べログ」や「クックパッド」がある。だがお金では、金融機関が提供するサービスくらいしかなく、金融リテラシーがないと使いこなすのは難しかった。ならば、我々の技術で新たなサービスをつくろうではないか。これがマネーフォワードの出発点だった。
では、いったいどんなサービスが求められているのか。お金に対して漠然とした不安感を訴える人は多い。ただ、この原因は将来への不安というより、現状が把握できていないためだ。お金については資産や収支などの現状さえ把握できれば、将来は計算によってある程度描くことができ、不安は和らぐ。家計の現状を把握するためには、きちんと家計簿を付けることが欠かせないが、これが実に面倒くさい。つまり、必要なのは、家計簿の記帳の面倒くささを解消するサービスだった。
当時すでに、「OCN家計簿」や「マネールック」など、複数の金融機関の口座情報などを一元管理する「アカウントアグリゲーション」サービスが、いくつか存在していた。だが、これらはいずれもパソコンで管理するのが前提で、現金払いが多い日本人には不便だった。マネーフォワードは、まずスマホにフォーカスした。外でランチをし、現金で支払ったとき、スマホならその場で入力できる。
入出金や決済履歴を記録――マンションの時価も反映
一方で、データを連係できる提携先をとにかく増やしていった。サービス開始当初は銀行など数十にすぎず、家計・資産の「一元管理」とは程遠い状態。ユーザーから最も強い要望は、常に「提携先を増やしてほしい」。それに応えるべく地道に開拓を続け、4年かけて2600超という圧倒的な規模まで来た。今では銀行や証券会社などに限らず、クレジットカードや電子マネー、アマゾンなどの通販サイト、携帯電話会社などの履歴とも連動し、自動で家計簿が作成される。資産管理も、金融資産だけでなくポイントサービスも含めて行える。仮想通貨のビットコインにも対応した他、不動産情報サイトとも提携し、保有するマンションの時価を資産のバランスシートに反映させることも可能だ。
連係した口座などから取得したデータは、AI(人工知能)により使途が分類され、収支などの推移はグラフで表示できる。徹底的にユーザーの手間を省きつつ、お金の流れや資産の現状が自動的に見える化されることにより、「節約する習慣が付いた」「家計の収支が改善した」「貯金ができるようになった」などのユーザーの声も届く。
「努力を無駄にしたくない」――有料会員に移行する動機
13年からは月500円(税込み)のプレミアムサービスを始めた。口座連係数の制限(無料会員は10件まで)がなくなり、1年以上前のデータの閲覧が可能になる。無料会員として1年間利用したタイミングで、「今まで頑張ってきたデータを無駄にしたくない」という動機でプレミアム会員になる人が多い。他にも、将来のキャッシュフローを予測したり、理想の家計と自分の家計を比較できるなど、高度な分析機能を利用できるようになる。
サービスの拡充につれて登録ユーザー数は増え続け、現在400万人を超え、業界ではトップシェアだ。この状況に至れたのは、開発スピードの速さで他社をしのぎ先行できたことが大きいと考えている。家計の見える化を目的としたサービスはいくつもあるが、我々はその段階はすでに終え、「生活改善のソリューションの提供」という次のステップに踏み出している。初めて家計診断機能を導入した際、マネーフォワードへのアクセスは急増した。
現状の当社の収益源としては、有料会員の収入、広告収入、その他の三つに大きく分けられる。当初、利用者は月に1回程度アプリを見ることを想定していたが、実際には半数以上が毎日のようにチェックしており、そのぶん広告収入にはプラスに働いている。ユーザーの平均収入や資産額も当初の想定より高い。「その他」としては、住信SBIネット銀行や静岡銀行など、他の金融機関のユーザー向けにマネーフォワードのサービスを提供し、金融機関からお金を頂くというビジネスも順調に伸びている。
我々の目指す方向は、「お金のことならすべてここにある」というプラットフォームになること。個人事業主向けに会計サービスを始めた他、お金のニュースメディアも運営し、個人向けのイベントも頻繁に開催している。この1月には個人事業主や法人向けのサ ービス「MFクラウドシリーズ」のユーザー向けに融資の審査を自動化し、事業資金を迅速に調達できるサービスも始めた。ユーザーのあらゆるお金の悩みを解決することのできる存在になることを目指したい。
(文/平林理恵、写真/古立康三)