4年に1度のサッカーW杯、強豪国が苦戦を強いられる中、FIFAランキングで下位のチーム国が健闘した今回の大会。特に初出場の小国アイスランドは、優勝候補国アルゼンチン相手に粘り強いディフェンスサッカーを見せた。人口34万人のアイスランドでは、サッカー選手がサッカーだけで生計を立てるのが難しく、選手のほとんどは副業を持つマルチスキルワーカーなのだ。メッシのPKを食い止めた守護神ハルドールソンの本職は映像監督、監督のヘイミル・ハルグリムソンは歯科医を掛け持ちしている。

 二足のわらじを履き活躍するGKハルドールソンは、「1つの仕事に集中しすぎるより、どちらの仕事も高め合えるほうが自分には向いている」とコメントしている。日本でも近年副業を認める企業が増えてきているが、海外では経済状況や気候条件が厳しい国は、マルチワーカーやシーズンワークをする人たちは当たり前のように存在し、マルチなスキルを持つ人も多い。私が以前、定住旅行していたアルゼンチンでは、弁護士が空いた時間にタクシーの運転手をしていたり、ネパールのシェルパ族は登山シーズンのみガイドの仕事に従事する人も多い。

マルチワークが求められる長崎・五島列島

 海外だけでなく、日本にもそのような働き方、生き方を強いられる地域がある。それが、長崎の五島列島地域だ。先日、新たに世界遺産に加わったエリアとしても話題になっている。今回登録されたのは、長崎・熊本エリアに点在する「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の12カ所。潜伏キリシタンとは、キリスト教徒に禁教令が出されていた時代に、ひそかに信仰を紡いでいた人びとのことだ。今でも、この地域にはカトリック信者や隠れキリシタンと呼ばれる人びとが暮らしている。

 私は1年の半分海外で、現地の家庭に滞在し、その暮らしを体験する“定住旅行”を行っているが、年に1度、国内でも定住旅行をしている。今年は、世界遺産登録で注目されている、日本の最西端に位置する長崎の五島列島で定住旅行を行った。

 五島列島はその名の通り、北東側から中通島、若松島、奈留島、久賀島、福江島の5つの島から成り立つ列島である。それ以外の小さい島も合わせると、なんと140にもなる。五島列島の中でも、福江島に次いで2番目に大きな島、中通島に定住した。十字架の形をしているこの島は、人口の25%がカトリック信者であり、村には集落ごとに教会が建てられている。この風景だけ見ても、まるで異国に来たような気分になる。

五島列島の島の多さは、展望台や橋の上から眺めるとよくわかる
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世界遺産に登録された、頭ケ島にある「頭ケ島天主堂」
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 また、島のどの場所に住んでいるかで生活スタイルが異なるのも、この島ならではの面白い特徴だ。平地で海辺の集落には、既住者である仏教徒が暮らしており、主に漁業に従事している。そして、200年前に後から開拓移民としてやって来たカトリック信者たちは、山間の急峻で辺鄙(へんぴ)な場所に、散村しながら暮らしているのだ。なので、島民がどこに住んでいるかによって、その人が信仰する宗教までもわかってしまうというわけだ。