人生に迷えるライター・大木亜希子が「世の中に潜むちょっと変わった人」をインタビューし、彼らのマインドを掘り下げていくこのコラム。人生の先輩たちへの取材を通し、輝く未来を手に入れるためのヒントは得られるのか? 経験豊かで前向きに“珍人生”を謳歌する、幸せな「B面人生」を手に入れた先駆者たちの素顔に迫る。

 2008年、ピン芸人頂上決戦『R-1ぐらんぷり』で、40歳の無名芸人が準優勝を成し遂げた。その芸風は、体重100kgを超える巨体を軽快に揺らし、マイケル・ジャクソンやジプシー・キングスといったメジャーアーティストの替え歌をスーツで歌い、踊るというもの。

この「スーツ&メガネ」の姿を見たことのある人も多いのでは?
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 男の名前は「芋洗坂係長」(以下、係長)。しかし、彼がそれまでの芸能生活において“その名”を公にしたことはなかった。当初、本人ですらR-1を勝ち抜けると思っておらず、出場していることが周囲にバレないよう即席で名付けた芸名だったからである。

 しかし番組の放映翌日、彼が所属していた小さな芸能事務所のファクスは、殺到する仕事の依頼で紙切れを起こす事態となる。さらに「“あの芸人”とコンタクトを取りたい」という業界関係者が、彼の昔のバイト先にまで押しかけるようになった。

関係者の間でも話題に……(写真提供:本人Facebook)
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 係長の本名は、小浦一優。50歳。現在の職業は芸人、役者、そして北九州市でのれんを掲げる『二代目清美食堂』店主。なぜ彼は、日常生活を営む表の顔、すなわち“A面人生”の芸能活動に留まらず、食堂を出店したのか……。

 そこには、亡くなった母親との知られざる物語があった。

エプロン姿がよく似合う係長だが……
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