当記事はnikkei BPnetに連載していたものを再編集して掲載しました。初出は2011年8月18日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています。

 少しばかり日本酒の話題を。

 え? 「意味がわからん」って? なにはともあれ、クイズから!

 高級和食店で、1合1200円もするブランドものの純米大吟醸を注文。あなたが「熱燗で」と言ったら、「こちらは冷やで召し上がって下さい」と言われた。非常識なのは、あなた? それとも店の人?

 正解は、「店の人」。

 客が無茶なことを言っても店はそれを受け入れることが望ましい、という「道徳的態度」を言おうというのではない。季節から言っても冷たいほうがいいだろう、という配慮であればそれはそれとして結構なことだが、店の人が意図していたのはそういうことではなさそうだ。

 純米大吟醸のような高価な酒は冷蔵庫に入れて冷やで飲むもの、お燗するなどもったいない、と店の人が考えていたとすれば、非常識なのはお店の人。これが正解だ。

都市伝説を暴いていく「酒ゴジラ」

 先日、広島・中国放送のラジオ番組「酒ゴジラの、間違いだらけの酒常識」を聴く機会があった。竹鶴酒造というニッカウヰスキーのルーツでもある名門酒蔵で杜氏を務める、酒ゴジラと呼ばれる石川達也氏をゲストに、局アナとアシスタント(この人は山口にある酒蔵の杜氏の妻)の、明るい笑いあふれる雰囲気のなか、次々に「日本酒・都市伝説」の真相が暴かれていく。

 「日本酒なんかどうでもいい」とおっしゃるなかれ。番組は日本酒をテーマにしながら、我々がいかに「根拠のない常識・ウンチク」にとらわれ、縛られているかを思い知らせてくれる。誤った「こだわり」から解放してくれる、その痛快さがたまらない。接待の雑談で「軽い人」と軽蔑されないためにも、この話題につき合ってほしい。

 ちなみに冒頭のケースは、番組中に出された何問かの一つ。「酒常識・よいお酒は冷酒で飲むべき? ○か×か?」をアレンジしたものだ。

 正解を語る酒ゴジラさんの解説は実に明快だ。

 「ちょっと高級な飲み屋さんに客として立ち寄り、ウチが納めている高級な酒を注文することがあるんです。覆面市場調査を兼ねてですね。で、結構な値段のついた、ウチの純米大吟醸を『燗にして下さい』と言うと、大抵、ダメ出しを食らうんです。『こんな高級なお酒をお燗なんかしたら、蔵元さんが泣きますよ』って。
 蔵元の私としては、おいしいお酒は、冷や酒であろうと燗であろうとおいしいものだと知り尽くしています。その日の気分で冷やでも燗でもいいわけです。私以外の別の蔵元さんも、同じような体験をしているんですね。
 作っている側は、お客さんの自由に、好きなように飲んでほしいと思っているのに。それなりの和食店でも、こういう根拠のない常識(高い酒は冷やで飲むもの)に踊らされていることがあるんですねえ」(酒ゴジラこと石川達也氏)

 皆さんも、居酒屋さんに行ったときのことを思い出してほしい。ドリンクメニューの、日本酒欄。冷酒と書かれたところには、産地やブランド名、純米とか吟醸とか山廃仕込みだとか、さまざまな文言が列挙された何種類もの酒が並んでいるのに、お燗のところには1合300円、2合500円と、量と値段だけが書かれた1種類のみなんてことがよくある。

 「燗で飲むのはどうでもいいお酒」という扱いをされてはいないだろうか。