当記事はnikkei BPnetに連載していたものを再編集して掲載しました。初出は2009年12月17日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています。

テレビ番組「笑点」から「チーム力」を考える

 約45年も続き、今でも「サザエさん」と並び、日本のテレビを代表する大長寿番組「笑点」。つい最近も30%近い視聴率を上げている。「笑点」の構成作家佐藤かんじさんの話は「集団の中における個人の役割」を考えるうえで示唆に富んでいる。

 「全員が優秀だと成果は上がらないんだよ」

 笑点のメンバーはいずれも“天下の人気者”だが、これまでの歴史を振り返っても、全員が噺家(はなしか)として超一流だったか、といえば「いやまあ、ねえ……」という答えが返ってくるだろう。誰がそうとは言わないが、番組草創期から相当に、(レベルに)ばらつきのある人選であった、と佐藤さんはおっしゃる。

 そもそも当時、既にダントツの人気・実力を誇った天才噺家、立川談志師匠が司会をやっても、あまりうまくいかなかった。ところが、噺家としては超一流の評価がありながら、司会はまるで下手な故三遊亭円楽師匠のドタバタな司会のほうが、かえってほどよい加減で、茶の間ウケはよかったという。

 メンバーも、出されたお題に見事に応えて喝采を浴びる者がいれば、ちょっとお粗末で、失笑を買う人もいる。これが笑点の昔からのスタイルだったそうだ。

(イラスト:poosan/PIXTA)
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 番組の人気の高まりとともに、改編(4月、10月の番組編成の見直し時期)ごとに「もっとすごいメンバーをそろえれば、数字(視聴率)が取れるから、メンバーを入れ替えろ」という“真っ当な”声も上がった。でも「笑点」は、“ゆるゆる”な人選を替えなかった。それが結果的によかったと、佐藤さんはおっしゃる。

 その証拠に、「お好み演芸会」を放映していたNHKが「笑点のあのメンバーであの数字が取れるなら、ウチはベストの噺家をそろえて、民間放送の笑点ごときはぎゃふんと言わせてやる」と言い出した。そしてNHKのメンツにかけ、超豪華メンバーをズラリそろえて、笑点と同じような大喜利番組の放送に踏み切ったという。

 「NHKのその番組は、(立川)談志、(三遊亭)円楽、(桂)枝雀、(橘家)圓蔵、(春風亭)小朝。誰一人文句のつけようのない、当時最強のメンバーでやったのよ。華の5人衆。みんなすごい名人勢ぞろい。面白さの天才が一堂に会した布陣だ。ところがこの番組、数字がふるわなくて、確か1年と持たなかったな。結局、メンバーにでこぼこがないんだね。みんな、すごい。もれなく客をうならせる。でもそこからは、お客さんが和めるようなチームワークは育たない。だから茶の間は、気楽に番組を見られない」と佐藤さんは語る。

 「笑点だと、面白い人もいれば、すべる人もいる。突っ込みどころ満載だから、視聴者も気楽に安心して見ていられる。ああいうゆるいバランスが大事なんだね。学校でも、そうじゃない。クラスには、頭脳明晰で皆の尊敬を集めるタイプもいれば、成績は難ありだけど、キャラがおかしくて、いじり甲斐があるからけっこう人気者なんてヤツもいて、全体で1クラスのバランスが保たれる。昔は社会全体が、そんなふうにおおらかなモンだった」

 「今の企業がそうなりがちだけど、例えば学校でいうと受験名門校みたいに秀才集めて、同じような偏差値で全員が東大を目指してる、なんて感じは息が詰まるじゃない。世の中みんな秀でた人ばかりなんてあり得ないし、つまらない。いろんなポジション、役割ってものがあって全体がうまくいくんだよ」

 実はこの話、私の旧友植竹公和さんが同じ放送作家仲間の佐藤さんにインタビューした、ラジオ日本の「ラジカントロプス2.0」から大筋を引用したものだ。