当記事はnikkei BPnetに連載していたものを再編集して掲載しました。初出は2009年10月15日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています。

居酒屋情報をケータイで調べる、最近の若手

 仕事が早目に終わったから、「じゃあ、軽く一杯やるか?」。

 そのへんの居酒屋に入ろうとすると、若いスタッフがケータイ でグーグルを立ち上げ、目の前にあるその店を検索。

 「この店のイチ押しは煮込みで、近隣同業種店ランキングは3位。評価点は3.7ポイント。客のコメント欄によれば、常連はまずはヤカンでジョッキに注ぐ、名物のハイボールを注文。最初は高原キャベツの塩もみから食べ始めるようですね」

私のつぶやき:(どう見たって2人で5000円もしないような、下町の赤提灯(あかちょうちん)にふらりと立ち寄るだけなのに、事前にグーグルかよ?!)

若いスタッフ:「僕は立ち飲み屋だって、ネットで検索してチェックしてから入るかどうか決めますよ。外れだったらいやだし、場違いな注文したりするのもかっこ悪いじゃないですか。何か問題でも?」

(イラスト:kahon/PIXTA)
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 今から6~7年前、競艇のテレビ中継で浜名湖に行ったときの懐かしい話を思い出した。通常なら、ベテラン幹事役がなじみの安くてうまいお店を用意して打ち上げを行うのが恒 例だ。宿の近く、某駅周辺には中継班が通い慣れたおいしい店がいくつもある。

 「飲み屋の新規開拓も必要だろう。社員教育も兼ねて、今回はうちの新人に任せよう」というプロデューサーの提案に、私も賛成した。

 打ち上げは、実は結構大事な「仕事」だ。仕事の緊張を解きほぐし、次への展望を語り合い、親睦をより深める貴重なひとときだ。したがって店の選択もおろそかにはできない。私たちの世代が若いころだったら、地元放送局スタッフに評判を聞いて回ったものだ。さりげなく先輩からアドバイスをもらったり、ホテルのフロントに相談する。タクシーの運転手から情報をかき集めることもある。

 とにかく、いい店を探すには何人もの人に直接話を聞くのが普通だった。だからそのときの新人たちが、「パソコンの検索一発」で店を決めてしまったことに、ちょっと新鮮な感動を覚えた。

 「時代は変わったんだ!」

 彼らがネットで見つけ出したのが「某市唯一の隠れ家風創作和食の店」だった。店の売り文句は、「東京青山・六本木の高級店を思わせるムーディーな店内、ヘルシーな素材を生かしたお料理の数々を、上質な空間で豊富なドリンクとともにご堪能ください」。来店者の感想も添えられていた。

 「こんなこじゃれたお店が静岡の、しかも〇〇にあったなんて!」

 私は以前に5年ほど、静岡のテレビ局で夕方の情報番組の司会をやっていたので、静岡の食のレベルの高さを知り尽くしている。ただし、この手の「創作」だの「空間」だのを売りにした店に進んで足を運んだことはあまりない。どこも静岡レベルで言うと、「あり得ないひどさ」だったからだ(これは昔のことで、今は知りませんよ)。

 しかし、こんなことを言っては「若い芽を摘むことになる」と思い、そのときは発言を控えた。「へー、面白そうじゃん」「期待できそうだなあ」。普段は漁師料理一辺倒のベテラン連中も、新人の選択に賛成した。

 ところが、である。

 実際にその店に行ったわれわれは、入るときから違和感を覚えることになる。茶室の「にじりぐち」を思わせる、人一人が腰をかがめてやっと入れるような、狭い入口。しゃれているといえばいえるが、てんでに大きな荷物を抱えた十数人は、入口でいきなりの大渋滞に見舞われる。

 そして、薄暗い店内。細い通路には砂利と石が敷き詰められ、足をとられて転びそうになる者が続出。狭く仕切られた個室に押し込められる。「相田みつを」の書を悪筆にしたようなデザイン文字のメニューが、薄暗い照明の中で中年以上の者にはよく読めない。

 「海の恵みのカンパーニュ?」「北国からの冬の便り?」

 なんじゃこりゃ? みたいな品目が、かるたのような和紙に並んでいる。謎解きが好きな人や、話のきっかけが欲しいカップルなら喜ぶのだろうが、「水上の格闘技」をテレビ中継する荒くれ男たちには、そのご大層な気取りようが肌に合わない。

 「お前ら、分かりやすい日本語のメニューもらってこい!」と先輩に怒鳴られる若手。やっと注文しても、長々待たされる。ようやく出てきたものはどれも、へんてこりんな形のアバンギャルドな器の真ん中にほんの少量のっかっている。

 しかも、忍者みたいな黒ずくめの従業員がいらぬ講釈を長々たれる。全員しらけきる。ネットでこの店を選んだ新人は、イラつく先輩を前にうなだれるほかない。結局、早々にその店を後にして、いつものなじみの店に移ることになった。

 こういう極端な体験を経て以来、ネットでの店探しなんてろくなもんじゃない、と思っていた。