当記事はnikkei BPnetに連載していたものを再編集して掲載しました。初出は2008年11月27日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています。

 夕方のニュース番組。金融恐慌や殺人事件などを伝えるかたい報道枠に、いきなり「グルメ特集」が挟み込まれる。同じ時間帯にNHK以外のすべての局が「グルメもの」という事態も珍しくない。なぜか? サラリーマンは帰宅前で、視聴者の中心は主婦。しかも夕飯の用意の真っ最中。「グルメもの」は親和性が高い。すなわち視聴率が取れる。各局とも、視聴率いかんでスポットCMの料金が違ってくるから、手を替え品を替え「グルメもの」を放送する。

プロデューサーが聞き取り調査

 しかし、最近はテレビを見る一般視聴者の目は厳しい。「報道番組のはずなのに、なぜ行列のできるラーメン屋特集なのだ」から始まって「物を口に入れるなり(うまい!)なんてあり得ない」などの批判の声に耳を貸さなければならない時代だ。

 何人かの若手グルメリポーターから聞いた話によると、テレビ局のプロデューサーから不定期に呼び出しがかかり「制作現場で、無理やり『おいしい』と言うように強制されなかったか?」「集まっている客は仕込みではないか?」「当該飲食店と制作会社に癒着はないか?」などの聞き取り調査があるという。

 従って、今ではおいしくもないものを「おいしい!」などと、立場の弱い若手リポーターであっても無理やり言わされることはまずないと思っていい。もちろん多くのベテランリポーターたちは従来から、プライドにかけて、意に反して「おいしい」などとは言ってこなかった。

(写真:Fast&Slow/PIXTA)
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 とはいえ、あけすけに「まずい!」と言うわけにもいかない。お店の人はそれなりに頑張っているのだし、制作スタッフは「ここぞ」という店を選び出し、本番当日は朝早く、市場の買い出しから、昼の仕込み、開店、そして最後の客を送り出した後の店主の感想まで、ほぼ丸一日を撮影に費やす。むげに「まずい」とも言いにくい。そもそも見ている視聴者だって「おいしさ」を期待している。

 おいしければ素直に「おいしい!」と言えば済むのだが、舌の肥えたベテランリポーターをうならせるのはたやすいことではなさそうだ。そんなジレンマをクリアするのが、グルメリポーターたちの腕の見せどころなのである。