余計なこと言わなくて良かったなあ……

店長:「犬を連れて来るお客さんもいます。うちも小さな犬を飼っているから分かるんですが、買い物しながら、外にリードにつないで待たせた犬って気になるんですよね。だから自然にそのことを口に出します。<わんちゃん、いい子にしてて、おりこうさんですねえ>みたいな」

梶原:「うまい! それで好感度グンとアップさせるんだ」

店長:「悪だくみみたいに言わないでくださいよ、本当のこと言っているだけなんですから……。ま、結果的にはまた来てくれますけどね」

 犬バカの私も「うちのワンちゃん」を褒めてもらうのは何よりうれしかったから、お客さんの気持ちはよく分かる。

店長:「うちのチェーン店は、お弁当のご飯は各店で炊きたてをお出しします」

梶原:「そうだね」

店長:「ご飯の量もお好みで選んでいただきます。同じ代金ですが」

梶原:「うれしいよね、若い人は多め、年配なら少なめとか、普通とか」

店長:「夕方来たご年配の女性が<多めで>とおっしゃったんです。うちの多めは本当にものすごい量でしょう? その方が、そのことを知らずにおっしゃったなら<普通でも、結構ありますよ>とか言うべきかなと。ですが、それも失礼かなと思って、言われるままに、多めで、お渡ししました。翌日その方が来店。<あの余ったご飯、冷凍して、今日チンして食べるのよ!>と話されて、とてもうれしそうにおかずを3種類買っていかれました。余計なこと言わなくてよかったなあと思いました……」

「伝統的なスキル」も、今以上に重要に

 コンビニから人々の暮らしの様子が見えてくる……。

店長:「ある日、白杖(はくじょう)をついたカップルが見えました。お二人はお昼のお弁当をお求めだったようです。お二人に付き添い、ご案内したうちのバイト君の声が聞こえてきました。<左上に鶏の唐揚げが5つ、そのすぐ右にポテトサラダ、プチトマトは……>コミュ力がイマイチだなあ、と思っていた彼が、結構ちゃんと何種類かの弁当のおかずを説明していた。うれしかったですねえ。そのカップルさん? ええ、今も通っていただいています」

 こういうスタッフの「接客ぶり」を、他のお客様は見ていないようでしっかり見ている。地球に優しいとか、自然に優しいなども大事だが、人に優しいも同じように大切だ。

 今後ビジネスでは、顧客拡大にITやAIの発達が大いに寄与することだろう。と同時に、「接客」のような生身の人間が感情を交わし合う「伝統的なスキル」も、今以上に重要になっていく。

 「客を増やす」にはこの両輪がかかせないんだろうなあと、今さらながら感じたコンビニ店長との会話だった。

梶原 しげる(かじわら・しげる)
梶原 しげる(かじわら・しげる) フリーアナウンサー。1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』『毒舌の会話術』『プロのしゃべりのテクニック(DVD付き)』『即答するバカ』『あぁ、残念な話し方』『会話のきっかけ』『ひっかかる日本語』『新米上司の言葉かけ』ほか多数。近著に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)、『不適切な日本語』 (新潮新書)がある。