超高層のオフィスビルやマンションが次々と建てられる現在、果たしてエレベーターの待ち時間が「ゼロ」となる日が来るのか。エレベーター製造の国内トップシェアを誇る三菱電機を訪ねて、エレベーターの今と未来を探る。後編は人の流れを先読みする運行技術の進化に迫る。

感じる待時間の長さは実際の二乗

 1964年、三菱電機のエレベーター・エスカレーターの専門工場として愛知県稲沢市に設立された稲沢製作所では、現在、製造と並行して最新のエレベーター技術の研究開発が行われている。近くまで来ると、いやでも視界に飛び込んでくるのが約40階建てのビルに相当する高さ173mの試験塔「SOLAÉ(ソラエ)」だ。ひときわ高くそびえるその“姿”を下から見上げれば、ここが同社エレベーター開発の中枢であることが一目瞭然である。

三菱電機のエレベーター開発の総本山がここ「稲沢製作所」
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試験塔「SOLAÉ(ソラエ)」では、超高速・大容量エレベーターの駆動制御性や安全性、乗り心地などの試験が行われている
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 この稲沢製作所で、AI(人工知能)で導き出した最適な運行管理を実現する三菱電機の「群管理システム」の研究開発が進められている。注目すべきは、その「最適」とは何かだ。この「最適」を決める基準となるのが、約40年前から同社で「評価値」として採用されてきた「心理的待時間」である。

 「心理的待ち時間」は、利用者がボタンを押してからかごが来るまでの「待ち時間」とは、別のものだ。三菱電機 稲沢製作所 開発部 管理システム開発の鈴木直彦課長はこう話す。

 「心理的待ち時間を最初に採用したのは、70年代後半と記憶しています。当時の実証実験で、利用者がエレベーターを待った時間を計測し、乗り込んだ後、『どれくらい待ったと思いますか』と質問して、その人が感じた時間を聞いていく調査が行われました」(鈴木課長)

三菱電機 稲沢製作所 開発部 管理システム開発課 鈴木直彦課長
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 同管理システム開発課の山下桜子氏が続ける。

 「何十人という人にアンケートでデータをとって、横軸に『実際の待ち時間』、縦軸に『感じた待ち時間』をプロットすると、直線ではなく、放物線の形で『感じた待ち時間』が増えていました。この解析結果から、心理的待ち時間は実際の待ち時間のおよそ二乗に比例していることが分かりました」(山下氏)

三菱電機 稲沢製作所 開発部 管理システム開発課の山下桜子氏
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 たとえば、エレベーターを待つ人の「イライラ度(フラストレーション)」は、10秒待った人がイライラ度100と仮定すると、調査の結果、20秒待った人のイライラ度は400、30秒待った人のイライラ度は900と、フラストレーションの量は実際の待時間の秒数に比例するのではなく、乗数で急激に増えることが分かった。

 そこで、現在エレベーターが来るのを待っている人と目的階に向けて乗車中の人を合わせた全体の待ち時間の単純な総計ではなく、心理的待ち時間が長いほど評価値を重く(大きく)して、その総量を減らす「配車(乗客ゼロのかごを最適な階で待機させる)」や「割当(ある階で呼ばれた際に応じるかごを決める)」を最適と位置付けた。

 では、現在、どのようにして心理的待ち時間の総和が最小になるよう、エレベーターを運行しているのか。その群管理システムの要素の1つが「予測チューニング型AI方式」だ。