ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は据え置き型ゲーム機「PlayStation 4」(PS4)を発売して今年で5年目を迎える。2016年には、4K映像で出力できる「PlayStation 4 Pro」(PS4 Pro)や、PS4専用のバーチャルリアリティー(VR)システム「PlayStation VR」(PS VR)といったハードウエアが出そろい、対応ソフトも拡充が続いている。PS4の成熟期を迎えて、SIEは今後どのような戦略で事業を拡大していくのか。日本と中国のセールス&マーケティングを統括するSIE 日本ビジネスオペレーション部門SVP兼 部門長の織田博之氏に話を聞いた。
(聞き手/山田剛良=日経 xTECH、構成/赤坂麻実、写真/加藤康)
全世界で約3割がPS4 Pro、今後比率は増えていく
――日本におけるプレイステーション事業の2017年の概況を振り返っていただけますか。
織田博之氏(以下、織田氏): PS VRを含め、2016年中に主なハードウエアが出そろって、2017年は万全の態勢でビジネスを展開できました。PS4は5年目に入ってソフトウエアもいっそう充実しています。
自社タイトルでは『Horizon Zero Dawn』や『グランツーリスモSPORT』などが人気を博しました。ユニークなところでは、プレーヤーが破壊神となって勇者を撃退するPS VR向けリアルタイムストラテジー『V!勇者のくせになまいきだR』が好評でした。
ソフトウエアメーカー各社のタイトルでは、なんといっても『モンスターハンター:ワールド』(カプコン)が大ヒット。国民的RPGシリーズの新作『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(スクウェア・エニックス)も人気でした。『仁王』(コーエーテクモゲームス)や『コール オブ デューティ ワールドウォーII』(国内発売元:SIE、開発元:アクティビジョン)など、幅広いジャンルにヒット作が生まれています。
――PS VRの今後の拡販戦略を教えてください。
織田氏: PS VRはこれまでに世界で300万台以上を販売しました。タイトルはノンゲームも含めて340以上がリリースされており、今後も『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』や『Deracine(デラシネ)』※など期待のタイトルが続々と登場予定です。今後は、より幅広いコンテンツを幅広い層に届けていきます。
――PS4 Proの販売比率は大体どのくらいでしょうか。
織田氏: 最近では全体の販売台数の約3割がPS4 Proになっています。今後、PS4向けゲームでは、高解像度で体験したくなるタイトルが増えますし、社会的にも4Kテレビの普及が進めば、比率は上がっていくはずです。当社としても、4KテレビとPS4 Proを組み合わせて試遊できる機会を増やすなどして、伸ばしていけたらと考えています。
――ソフトウエアで今後、期待しているタイトルは?
織田氏: 2018年6月に米国・ロサンゼルスで「E3(Electronic Entertainment Expo) 2018」が開催され、SIEも試遊展示を行いましたが、『Marvel's Spider-Man』が特に好評で、われわれとしても大いに期待しているところです。ニューヨークの街を「スパイダーマン」になりきって飛び回るゲームですが、操作が簡単で誰でも爽快に“飛び回る”ことができます。コアなゲームファンからゲーム初心者の方まで、幅広い層に楽しんでもらえるゲームといえます。
ほかには『コール オブ デューティ ブラックオプス4』や『Days Gone』も楽しみです。ソフトウエアメーカー各社のタイトルでいえば、『キングダムハーツIII』(スクウェア・エニックス)も話題になっていますね。
コミュニティーがゲームを遊ぶ新しい流れを作る
――最近のゲーム、エンタテインメント業界で注目しているトレンドはありますか?
織田氏: オンラインマルチプレーやeスポーツがトレンドになっていますよね。この2つに共通するのはコミュニティーです。ゲームをたくさんの人と遊ぶ流れが生まれつつあり、これはゲーム業界として歓迎すべき動きだと思います。一方で、『ゴッド・オブ・ウォー』や『Detroit: Become Human』といった深いゲーム世界に1人でのめり込んで遊びつくすタイプのゲームも支持を集めています。オンラインマルチプレーが広がったからといって、他の遊び方が隅に追いやられることはなく、ゲームの遊び方が増えていると感じています。
――eスポーツがゲーム業界に与える影響をどう考えていますか。
織田氏: eスポーツによって、ゲームのライフ、すなわち1つのゲームタイトルを楽しんでもらえる期間が延びることが見込めます。同時に、オンラインマルチプレーなどによってコミュニティーが生まれ、ファンベースが広がっていくことも期待できます。さらに、eスポーツの試合を見て楽しむという、ゲームへの新しい参加スタイルが生まれそうです。
PS4はセットアップやカスタマイズ不要で、電源を入れればすぐに遊べますし、eスポーツに使った場合は、競い合う者同士が同じマシンスペック、コンディションで公平に戦える良さがあると思っています。
2018年2月にはゲーム大会「闘会議2018」において、SIEも『コール オブ デューティ ワールドウォーII』を使った対抗戦(賞金大会)を開催しました。4月下旬からは同じく『コール オブ デューティ ワールドウォーII』を使った「CoD:WWIIプロ対抗戦」という賞金大会を開催しています。6チームで30試合のリーグ戦を行って、決勝大会を9月の東京ゲームショウで実施するというものです。
――他社の話になりますが、2017年には任天堂のゲーム機「Nintendo Switch」やSwitch対応ソフトの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『スプラトゥーン2』がヒットしました。どのように受け止めていますか。
織田氏: ゲーム市場全体に好影響があったのではないでしょうか。ゲームユーザーの皆さんは、さまざまなゲームをさまざまな形で遊びたいはずなので、ゲームを愛する皆さんがハッピーなら、それが一番です。SIEはSIEの強みを生かして、幅広いジャンルのゲームを取りそろえ、高解像度で迫真性のあるゲームなども含めて提供していきます。
トレンドに敏感な中国ユーザーに最新機種で勝負
――中国事業について聞かせてください。市場の特徴は?
織田氏: SIEは中国市場で、2015年3月にPS4を発売しました。それ以前は政府の規制により、コンソール型ビデオゲームは中国市場に参入できない時期が続いていました。中国は、ゲーム自体の市場規模は世界最大ですが、その主戦場はパソコン(オンライン)ゲームで、ここ数年はスマホゲームが急伸している状況。コンソールの市場はまだまだこれからです。
ゲームソフトの市場をジャンル別や内容別に見ると、中国を含めアジア全域は、日本と欧米の中間のような感じです。欧米で人気の本格アクションも、日本で人気のIPを生かしたゲームも、両方受け入れられています。バスケを題材にした「NBA 2K」シリーズも、日本のRPGの人気作『FINAL FANTASY XV』も中国で人気を博しました。
――そんな中国市場に、SIEはどのように取り組んでいるのですか。
織田氏: 中国のユーザーはトレンドに敏感なので、われわれは最新機種のPS4で参入しました。まず、それが市場に対するメッセージです。
また、中国のデベロッパーはコンソール向けゲームの開発経験が少ないので、開発をサポートする育成プログラム「China Hero Project」を用意しました。アイデアを募集して、第1回コンテストでは10タイトルを選び、当社やパートナー企業から開発エンジンやノウハウを提供します。このプロジェクトで開発したタイトルは、中国はもちろん欧米や日本市場への投入も検討します。実際に『Animal Force』というこのプロジェクト発のPS VR専用タイトルを、2018年6月に日本でも発売しました。
さらに、「西遊記」をモチーフにした中国のアニメ映画「Monkey King: Hero Is Back」のゲーム化を決定し、現在は鋭意制作中です。中国人が大好きなコンテンツ、大ヒットした映画をゲームにして、たくさんの人に遊んでもらおうという狙いです。
日本市場はハード、ソフト共に良い流れができている
――中国や他の世界市場と比較すると、日本市場はやはり強いIPでけん引するゲームが人気なのでしょうか。
織田氏: 一概にそうとも言えず、多様化が進んでいるように感じます。日本らしいRPGの人気も健在ですが、一昔前は「洋ゲー」と呼ばれ、やや敬遠されがちだったようなゲームも最近では抵抗なく受け入れられ、楽しまれています。
それから先述の通り、オンラインを介してゲームでつながる遊び方が増えていますね。“ネオ・デジタルネイティブ”と呼ばれるような学生時代からICT(Information and Communication Technology)に親しんできた世代にとって、見ず知らずの人とゲームを楽しむのは普通のことという感覚なのです。実際に、Epic Gamesが展開している『フォートナイト』などが人気です。『鉄拳7』や『ストリートファイターV』なども、オンライン対戦人気の高まりに期待ができそうです。
――日本市場への今後の取り組みについて方向性を教えてください。
織田氏: 2018年もPS4の世界、PlayStationプラットフォームの世界を広げていきます。特にプロモーションに力を入れていく方針で、今年6月はその皮切りとして「Days of Play」と銘打ってグローバル統一のプロモーションを展開しました。特別色のPS4本体や、PS4 ProにPS VRなどを同梱した商品などを期間限定で用意し、好評でした。ゲームの主な商戦は年末年始ですが、この時期にあえて大きなプロモーションを打つ挑戦をしました。
2018年7月下旬からは、『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』など既発売のPS4向け人気9タイトルを、「PlayStation Hits」シリーズとしてお求めやすい価格で販売しています。1タイトル当たり1990円でとても好評です。8月30日には8月30日には第2弾の4タイトル『バトルフィールド 4』『バトルフィールド ハードライン』『ドラゴンエイジ:インクイジション』『ニード・フォー・スピード ライバルズ』をこのシリーズに組み込みました。
PlayStationプラットフォームにとって日本市場は今、ハード、ソフトともに充実しており、良い流れができています。今後も魅力的な商品を皆さんにお届けしていきたいと考えています。