自社の強みであるIP戦略をより強固なものとすべく、ワールドワイドでの展開を進めてきたバンダイナムコエンターテインメント。世界の市場を見据えて、着実に歩みを進めている。2018年4月からは新中期計画も始まっている。今期、バンダイナムコエンターテインメントの常務取締役に就任した宇田川南欧氏に、同社のゲーム戦略を聞いた。
(聞き手/小沼理(かみゆ)、写真/田口沙織)
世界的に好調だった2017年
――バンダイナムコエンターテインメントにとって、2017年はどんな1年でしたか。
宇田川南欧氏(以下、宇田川氏): 2017年は前中期の最後の1年でしたが、この3年間おかげさまで業績も良く、特に前期はよりワールドワイドに事業展開できました。国内にとどまらず、世界にタイトルやサービスを提供できたと実感しています。
事業ごとに見ると、家庭用ゲームソフトを展開するCS事業部(2018年度よりCE事業部・CEアジア事業部に組織名変更)は市場自体が好調です。特に好調なのは米国と欧州。国内よりもワールドワイドの市場が大きくなっています。中でも『ドラゴンボール ファイターズ』が累計出荷で当社史上最速200万本を突破するなど、非常に好調です。
ネットワークコンテンツ事業部(NE)では、『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』は3年目のタイトルですが、各国でトップセールス1位を記録し好評を博しました。
――ローカライズなどはされているのでしょうか。
宇田川氏: コンテンツそのものを変えることはしていません。翻訳や、地域に合わせたイベント、プロモーションを行うくらいでしょうか。各地域でゲーム大会を実施したり、各国のインフルエンサーに発信してもらう機会を作ったり……。丁寧にタイトルを運営しながら、こまめにプロモーションをしていったことが成功につながったと思います。
――NEでは特に好調な地域はありますか?
宇田川氏: 米国と中国です。中国はビジネスの形態として、現地パートナーとコミュニケーションを密に取りながら、一緒に作っていくことが大切です。コンテンツのポイントをパートナーと話し合い、中国市場に合うものに変えていく。各国ごとに調整していますが、中国は特に意識しています。大変ですが、規模が大きいので成功時のリターンは大きいです。
米国のマーケットは、特定の人気タイトルがランキングを占めていて、新しいものがなかなか入れないという特徴があります。でも、それは逆に一度入ってしまえばそのままずっとヒットし続けられるということでもある。米国も中国同様に規模が大きいので、ここを狙うのは重要だと感じます。
何より重要なのはそれぞれのIP(キャラクターなどの知的財産)のファン向けにどれだけタイトルを作り込んでいくかです。ただはやっているから取り入れるのではなく、IPの魅力を最大限に生かしたものを作ることを目指しています。
IPを使った作品はもともとその地域にファンがいるので、リリースされてからの初動がすごく早いんですよ。最初のスタートを失敗しないように、そしてファンの期待を裏切らないように注意していますね。最近はSNSなどを通じて多くの声が届くので、反響が励みになる半面、きちんと意見を反映しないといけない責任もあると思っています。
新宿のVR施設が好調、海外からの来場も
――アミューズメント(AM)事業はいかがでしょうか?
やはり2017年7月にオープンした「VR ZONE SHINJUKU」が一番大きなトピックです。施設は期間限定で2019年3月までですが、それまでに100万人の来場者を目指しています。チケットのバリエーションを増やしたり、ロケーションベースVR協会の発表を受けて対象年齢を13歳以上から7歳以上に引き下げたこともあり、来場者は順調に増えています。海外のお客さんも多いですね。スマホを片手に実況しながら歩いている人もよく見かけます。
どんなものでもそうですが、最近は継続した運営がより重要になってきていると感じます。お客さんとリアルな場で対峙して、何を求めているかを察知していかに製品に反映できるか。ゲームのクオリティだけでなく、「場」でどう楽しむかが重要だと思います。
――場という点でいうと、eスポーツはいかがでしょうか?
宇田川氏: 『鉄拳7』がeスポーツとして広がりを見せています。2018年2月にプロプレーヤーを認定し、「闘会議2018」で賞金付きの大会も開催されました。eスポーツは日本ではまだ発展途上ですが、これからどんどん盛り上がっていくと思います。特に海外では、見ている人の熱狂がものすごいんですよね。日本でも観客をどう巻き込んでいくかが課題だと考えています。
これまでゲームは自分が遊ぶのが主な楽しみ方でしたが、最近は「うまい人のプレーを見る」という楽しみ方も出てきている。ゲーム実況の動画も盛り上がっていますし、ゲーム自体がメディア化してきているのは面白いですよね。
――ライブ事業はいかがでしょうか。2017年に新設されたLE事業部のコンテンツですが。
宇田川氏: 「アイドルマスター」(アイマス)シリーズを筆頭に、ライブは変わらず好調です。ライブで出演者が歌った曲をゲームに反映させることでゲームが活性化するといった、良いサイクルが生まれています。
ライブでは声優さんが出て歌ってくれるので、すごく一体感が生まれますよね。お客さまの熱量も半端じゃないですし、あらためて「アイマス」はお客さまと共にあるすごいコンテンツだと感じます。
スマホアプリやブラウザーゲームに期待
――2018年の目標や、期待しているタイトルを教えていただけますか。
宇田川氏: NEではまず、リアルタイム通信対戦ゲームのスマホアプリ『ドラゴンボール レジェンズ』です。3年近く前から時間をかけてしっかり作っているので、期待していますね。
他には、2017年にドリコムとの共同出資で設立した「BXD」という会社から、HTML5を使ったブラウザーゲームのプラットフォームとして「enza」をリリースしました。『アイドルマスター シャイニーカラーズ』を皮切りに、今後は『ドラゴンボールZ ブッチギリマッチ』『プロ野球 ファミスタ マスターオーナーズ』といったタイトルをリリース予定です。
ブラウザーゲームというと、時間が空いたときにちょっと遊べるようなものをイメージすると思います。最近はゲームをやるにもハードルが高くなってきている印象があるので、ここではもう少し気軽に遊べるものを提供したいですね。
あとは、例えばフィギュアやカードなどにコードを付けそれを読み取ることでゲームに反映するといった連携を考えています。こうした連携は、グループで強力なIPの商品サービスを展開している我々だからこそ取り組む意義があると思っています。
数年先の技術の進化を見越してチャレンジ
――NEではeスポーツは意識していますか?
宇田川氏: 『ドラゴンボール レジェンズ』はリアルタイム対戦なので、大会も考えています。
――『ドラゴンボール レジェンズ』は3年ほど前から取り組んでいたとうかがいましたが、そのころはeスポーツはまだ浸透していませんでした。このタイミングでのリリースというのは、狙いがあったのでしょうか。
宇田川氏: 市場の動向や端末、ネットの精度が日々変わっていくので、作りながら変えていっているところはあります。最初の企画段階では実現し得ないような機能を盛り込んで、2~3年後にはできるようになっているかもしれないと思いながら作っているので。そうした何らかのチャレンジがタイトルごとに盛り込まれているのは事実です。ただ、そのおかげで計画通りに出来上がらないこともありますが(笑)。
――現状のスペックではできないことも考えながら開発を進めるというのは、進化のペースが速い今ならではですね。CSではどんなタイトルに期待していますか?
宇田川氏: 『CODE VEIN』というアクションRPGを新しく立ち上げます。『ゴッドイーター』の開発スタッフが作っているもので、キャラクターの個性もきちんと立っているゲームです。あとは『ソウルキャリバー6』。どちらもワールドワイドでの展開を見据えて、今年中のリリースを予定しています。
――LE事業部はいかがでしょうか。
宇田川氏: アイマスも今年は2大ドームツアーを開催しますし、ライブは継続してやっていきます。その他、テイルズ オブシリーズでは「テイルズ オブ ザ ステージ」という舞台をやっています。ゲームの名場面を舞台で再現するもので、去年は毎年開催している「テイルズ オブ フェスティバル」で一部をお披露目しているのですが、非常に好評でした。今年も「テイルズ オブ フェスティバル」のタイミングでイベントを開催する予定です。
2017年度はワールドワイドに展開できたと感じていますが、まだまだ届けられていない地域やお客さんがいることも分かっています。より迅速に届けられるようにいろいろなことがデジタル化されてきているので、来期もとにかく遊んでいただけるお客さまを増やしていきたいです。
当社の中期ビジョンは「存在感のある『世界企業』へ」。日本の会社ではありますが、社員の中ではもう日本のことだけを考えるのはやめて、世界視点で考える意識が高まりつつあります。地域軸で考えるのは良いと思いますが、日本だけを主語にビジネスをするのはやめようと思っています。
自社の強みはとにかくたくさんの人気タイトルがあること。これだけたくさんのキャラクターの、さまざまなジャンルのゲームを出せるのは強みなので、それは続けていきたいですね。それでも、数多くの中で「選択と集中」はして、引き続き世界のお客さまの期待に応えていきたいです。