グーグルの「Googleアシスタント」、アマゾンの「Alexa」それぞれに対応した製品をいち早く出すなど、スマートスピーカーに積極的な姿勢を見せるオンキヨー&パイオニア。今度は、音声アシスタントを搭載するウエアラブルタイプのスマートスピーカーを開発している。2018年1月9~12日まで開催されたIT・家電の総合展示会「CES 2018」の会場に試作機「VC-NX01」を展示した。

オンキヨーの音声アシスタントのプラットフォーム「Onkyo AI」を搭載したウェアラブルタイプのスマートスピーカー「VC-NX01」
オンキヨーの音声アシスタントのプラットフォーム「Onkyo AI」を搭載したウェアラブルタイプのスマートスピーカー「VC-NX01」

 展示品は、イベント期間に得たフィードバックを本番の製品開発に生かすためのいわば“たたき台”であり、デザインや機能は今後がらりと変わる可能性もある。今回は本機の開発を担当するオンキヨーの宮崎武雄氏、八木真人氏に、「ウエアラブルタイプのスマートスピーカー」を誰に、どんな形で届けようとしているのか、コンセプトを深く掘り下げながら聞いてみた。

オンキヨーのAI/IoT事業戦略室 室長 宮崎武雄氏、副室長の八木真人氏にCESの会場でインタビューした
オンキヨーのAI/IoT事業戦略室 室長 宮崎武雄氏、副室長の八木真人氏にCESの会場でインタビューした

わずか100g、アウトドアユースも視野に

 写真で分かる通り、VC-NX01のデザインは、今、流行のネックバンドタイプのワイヤレスイヤホンのようだ。筆者が装着した写真から大きさをイメージできるだろうか。質量は約100g。身に着けてしまうとスピーカーを肩に背負っている感覚もないぐらいに軽い。「長時間身に着けていても負担に感じないサイズ感」(八木氏)を重視したという。据え置きタイプのスマートスピーカーと同じように、音楽を聴いたり、天気予報やニュースなどの情報を音声で検索、確認するといった用途を想定しているが、ウエアラブルにしたことでアウトドアユースも視野も入れているという。

重さは約100gと軽量・コンパクトな本体にイノベーションが詰め込まれている
重さは約100gと軽量・コンパクトな本体にイノベーションが詰め込まれている
本体を装着してみた。音声も正確に拾い上げてくれる
本体を装着してみた。音声も正確に拾い上げてくれる

 イヤホン/ヘッドホンではなく、スピーカーにこだわった理由については、「屋内・屋外、どちらのシーンで使う場合も周囲の音が聞けるようにしたかった」からだと八木氏は説明している。本体を肩にかけると内蔵するセンサーが検知し、以降は音声を拾うためのマイクが常時オンになる。

 今回の試作機は、モバイルネットワークに直接つなぐ機能は搭載していない。Bluetoothでペアリングしたスマートフォンの通信機能を使う仕立てだ。「屋外メインで使うなら、SIMを装着してスタンドアロンで通信できたほうが良いし、屋内がメインになるならWi-Fiや防水・防滴機能も必要。ただ、それぞれにバッテリーの容量と本体のサイズ、そして製造コストに影響を与えることなので、出展の反響などを見ながら考えたい」と宮崎氏がコメントしている。

 スピーカーとしての音質に加えて、音声に対する反応・集音の精度もオンキヨーがオーディオメーカーとしてこだわっているポイントだ。もし体に着けて、屋外でも使うことが増えるようであれば、マイクの指向性についてもさらに作り込んでいくという。

独自開発の音声アシスタントも搭載

 VC-NX01はハードウエアとしてユニークなだけでなく、オンキヨーが自前で構想を立ち上げた音声アシスタント「Onkyo AI」を搭載している。

 一般に、音声アシスタントの処理は、マイクから入力された音声の発話意図と語彙を認識して、機械が理解できるテキストに変換。クラウド側のソフトウエア処理と組み合わせて、応答を生成し、スマートスピーカーなら音声で返すといった具合に、大別しただけでも複数のプロセスで構成されている。グーグルのGoogleアシスタントやアマゾンのAlexaのように、これらのプロセスのすべての技術を自前で作り込んだサービスもあるが、Onkyo AIの場合は、他社の技術を活用し、オンキヨーの製品に適した機能を、コストとのバランスも取りながら組み込んでいく考えだ。

 宮崎氏は「その時々でベストな技術を選択していく。アマゾンやグーグルの技術が最適であれば、それらも積極的に採用していく」としており、オンキヨーが独自に音声アシスタントサービスを立ち上げて両社に対抗することが狙いではないと強調した。

 今回の試作機でも、複数の企業の技術を取り入れた。音声合成技術は、東芝デジタルソリューションズが独自のコミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」で培ってきたもの。同社では、「声」を収集・蓄積し、音声合成技術を使って提供するプラットフォーム「コエステーション」を展開している。八木氏によると、「コエステーションとコラボして、オンキヨーが独自にカスタマイズした声を複数用意。Onkyo AIのアシスタントの声としてユーザーが選べるようにした」。試作機には男性の「ジョージ」、女性の「ルーシー」と「シンシア」という3種類の声が登録されており、好みの声に切り替えられるのが特徴だ。

 この仕組みをベースにすれば、将来的には、VC-NX01にアニメの人気キャラの声を組み込んで限定コラボモデルを販売したり、テーマパークなど商業施設のイメージに合う声をセットして双方向にコミュニケーションができるツアーガイドに仕上げたりといったことも考えられる。

 このほか、自然言語理解には、前後の文脈を記憶・理解しながら連続した会話がこなせる米SoundHound社の対話型音声対応知能「Houndify」を土台として採用。日本語による音声合成にはハードウエアやアプリの商品開発に実績を持つ“ヒアラブル”のベンチャー、ネインのエンジンを搭載した。

 CES 2018のオンキヨー&パイオニアのブースで、試作機を体験してみた。アラジンと魔法のランプのキャラクターにちなんだという「ハロー、ブルージーニー」というトリガーワードで呼びかけると、音声アシスタントが立ち上がる。筆者の拙い英語では連続会話のデモを試すところまでできなかったが、前述のジョージ、ルーシー、シンシアの3種類のアシスタントの声はとても小気味良く、切り替えも音声で簡単にできた。

音声で、音声アシスタントの声をジョージ、ルーシー、シンシアに切り替えられる

 据え置き型のスピーカーよりもパーソナルな使い方ができて、イヤホンやヘッドホンよりもオープンなウエアラブルタイプのスマートスピーカーがぴたりとフィットするニーズは必ずあるだろうし、もしかすると他社も同じ構想を進めているかもしれない。オンキヨーらしさを生かしたユニークなスマートデバイスに仕上がることを期待しよう。

 ウエアラブルスピーカーの話題が長くなってしまったが、オンキヨー&パイオニアのブースには、そのほかにもLightning端子を搭載するiPhone対応ドックスピーカーの試作機も出展されていた。

 パイオニアでは「RAYZシリーズ」として、アップルの音声アシスタント「Siri」で操作できるデジタルイヤホン「RAYZ Plus」や、iPhoneやiPadを使ったテレビ会議用途を想定したポータブルスピーカーフォン「RAYZ Rally」を商品化している。今回展示したiPhone対応ドックスピーカーの試作機はスピーカーという商品カテゴリーで捉えるなら、RAYZ Rallyに近いものと見ることができそうだ。「帰宅してiPhoneを充電するついでにスピーカーで音楽を聴いたり、Siriと組み合わせてスマートスピーカーのような使い方もできる製品を検討している」(宮崎氏)。

 日本はiPhoneのユーザーが多いが、アップルのスマートスピーカー「HomePod」が発売される見込みは今のところまだ立っていない。商品化のタイミングや価格によってはヒットモデルになる可能性も十分にありそうだ。

Lightning端子を搭載するiPhone対応のドックスピーカー試作機。RAYZシリーズ同様にLAM2のモジュールが搭載される予定だ
Lightning端子を搭載するiPhone対応のドックスピーカー試作機。RAYZシリーズ同様にLAM2のモジュールが搭載される予定だ
「Siri」が使えるので、スマートスピーカーのような使い方ができる
「Siri」が使えるので、スマートスピーカーのような使い方ができる
オンキヨーがBtoB向け事業として立ち上げた加振器(エキサイター)のビジネスも採用事例を含めて紹介していた。エキサイターを装着した平面を振動させることで音が発生する
オンキヨーがBtoB向け事業として立ち上げた加振器(エキサイター)のビジネスも採用事例を含めて紹介していた。エキサイターを装着した平面を振動させることで音が発生する
加振器(エキサイター)の利用例。例えば風呂場の鏡に取り付ければ、スピーカーのように音が出せる。マイクを組み合わせてスマートデバイスとして使うことも可能。防水スピーカーを備え付けるよりもコストを抑えられるメリットを提案している
加振器(エキサイター)の利用例。例えば風呂場の鏡に取り付ければ、スピーカーのように音が出せる。マイクを組み合わせてスマートデバイスとして使うことも可能。防水スピーカーを備え付けるよりもコストを抑えられるメリットを提案している

(文/山本 敦)

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