デトロイトショーでデビューした瞬間に立ち会った現役レーシングドライバーでありながら、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める木下隆之氏が、話題の「スープラ」のデザインのすごさを解説します。
2019年の「デトロイトモーターショー」最大の話題は、トヨタ「スープラ」のデビューに違いない。ショー初日、極寒デトロイトの午前9時40分はまだ底冷えがするはずなのに、スープラ伝説復活の瞬間を見届けようと駆けつけた関係者の熱気で、会場は汗ばむほどだった。
割れるような拍手に迎えられ、ステージ奥から颯爽(さっそう)と姿を現したスープラが肉感豊かなボディーをさらすと、歓迎の拍手はさらに高くなった。その歓迎は、EVだITだと電化が進む自動車という乗り物が持つ、まっさらのドライビングプレジャーを期待する拍手のように感じた。
デザインスタディーとして「FT-1」が発表されたのは、ちょうど5年前のここデトロイトだった。「フューチャートヨタ1」を意味する「FT-1」は、公表こそされてはいないものの、次期スープラなのだろうと誰もが予想した。トヨタのデザイン部門である米・キャルティのデザイナー達も、スープラをイメージしつつ筆を運んだのだろうと予想する。
驚くのは5年前にデザインしたスタディーモデルの面影が、市販化に至っても色あせていないことだ。プラットフォームや搭載するエンジンがまったく決まっていない段階でデザインしたイメージを損なうことなく現実に落とし込む作業に、この5年間ただならぬ努力を要したことは想像に難くない。
さらに言えば、エクステリア(外装)デザインはキャルティが担当し、インテリア(内装)は本社だ。走りに関する部分はBMWが担う。日独米合作で、ここまでデザインスタディーに忠実に市販化にたどり着くのは、並大抵の努力ではない。人並み外れたセンスも必要だ。
スープラに搭載されるエンジンは「直列6気筒3リッターターボ」だとアナウンスされた。決して低くないエンジンを積みながらボンネットは重く感じさせないし、ホイールベースは超ショートなのに、寸足らず感はない。実寸よりも格段に大きく感じるのは、グラマラスなデザイン処理の技が利いているからだろう。ともすればズングリムックリになりかねないのに、堂々としたボディーになったのは、称賛に値する。広いステージでも存在感が強いのだから、それが街中に舞い降りてかすむわけがない。
これからしばらく、スープラの話題で持ち切りだろう。それだけのポテンシャルを持つオーラに、一発ノックアウトされた気分だ。
(文・写真/木下隆之)
