この記事は「nikkei BPnet」に2014年12月9日に掲載された「焼き鳥と和食の“鉄人”2人が切磋琢磨の店」を転載したものです。内容は基本的に掲載日時点のものとなります。
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東京・JR山手線の大塚駅を降りて、南口から徒歩3、4分ぐらいの商店街の路地にある「与志万」。元々は東京・銀座の老舗の焼き鳥屋だったが、再開発のあおりを受けて、2年前に大塚に引っ越して来たのだという。“居抜き”で借りた店内を全面的に改装したため、しゃれた内装となり女性たちに評判なのだが、本来のターゲットである「オヤジ」たちにもっと来てほしいと思っているのとのこと。本格的な焼き鳥が出てくる店だが、一見焼き鳥屋には見えない。それには理由があった。

「お店の面構えを見ればうまいかどうか分かる(はず)」というコンセプトで「すがれた店」を追いかけてきた本連載。確かにそれでおいしいお店にたどり着けてはいたのだが、前回の取材で、このような少し傲慢とも思えるコンセプトでは、逆においしくて地元にも愛されているお店を取りこぼすと深く反省した。

 そこで前回の末尾に、「『この店をぜひ』という方がいたら、こちらから教えていただきたい」と書いたところ、早速反響があり、「この店ほどこだわりがあり、おいしい焼き鳥屋はなかなかないのではないかと考えているのだが、客観的な評価がいただきたい」というメールを頂戴したのだった。しかも、メールに添えてあった店長のプロフィールがとても興味深い。

 興味をそそられた僕は、早速メールをくださった大林規雄さんに承知の旨を返信し、「ぶしつけなお願いで恐縮ですが、ご同行願えないでしょうか」と書き添えたところ、ご了承いただき、今回の取材と相成ったのだった。

紹介者の大林規雄さん
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ここは焼き鳥屋なのか?

 大塚駅から3分ほど歩き、ちょっと入り組んだ路地に入ると、与志万の看板が出ている雑居ビルに着く。一見してちょっと違和感を抱いた。看板の下にメニューがあるのだが、刺し身や天ぷらの類いが大きく載せられているのだ。これは、もしかしたら大林さんがこの連載のコンセプトを勘違いなさったのではないかと、少し心配になる……。

 夕方の6時をちょっと回ったところだったが、お客は会社員中心だと聞いていたので、まだ早い時間なのだろう、待ち合わせの店内では僕が最初の客だった。「大林さんからのご紹介で……」と言い終わらないうちに、故・桂枝雀師匠似の店長と、美人の女将さんが「お待ちしておりました」と迎えてくださった。

 さっそく生ビールを注文すると、ちょうどそのタイミングで大林さんが駆けつけてきた。初対面なので名刺交換をする。大林さんは大手総合メーカーの営業企画部の役職を務める50代半ばの方。店長とは同じ会社の同期入社で、もう30年来の付き合いだという。

 すぐに2人分の飲み物とお通しが運ばれてきた。お通しは、何と「白子ポン酢」。

お通しの白子ポン酢に「ここは焼き鳥屋なのか」と一瞬不安に
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 奥から運ばれてきたので、店長が作ったものではない。これが、またうまいのだが、あしらい方が、焼き鳥屋のさかなのレベルを超えている。僕は、逆に不安になった。そこで大林さんにこっそりと聞く。

「今回は、焼き鳥屋の取材ということでいいんですよね?」 「もちろんですよ。長年続いている焼き鳥屋です。ちょっと秘密があるんです」
何やら、与志万というお店が謎めいてしまった。